1544年 黄銅銭と酒、養蜂、貿易
年を越し幾分か経った頃、三条様から朝廷より官位の件で話が届いた。
曰く鋳銭司、造酒司のどちらかになりたければ現物を寄越せとのこと。
ご尤もだと思い、ならばと銭造りから行う。
山口にいる職人を集め、安価で大量にかつデザイン性が高い物を作等なければならないことを説明し、銅銭を作ることを考えたが、普通の銅銭であるなら宋銭の方が価値が出てしまうので、銅銭に付属価値を与えなければならない。
なので色をつけることにした。
この時代の銅銭(主に宋銭)は青銅貨であり、銅の色より青みがかっている。
錆びるとそれがより顕著であり、逆に鐚銭と呼ばれる私造された銭は少量の銅に様々な混ぜ物をして重さのバランスをとっているので、黒色に近かったり、色合いがとにかく悪い。
なら人々が一目で価値があるとわかる色にすれば良い。
現代で使われている五円玉を参考に、黄銅銭を作ることにした。
黄銅であるが、銅と亜鉛を用意(銅は毛利に教えた合せ銅の技術を応用し、純度の高い銅を、亜鉛は大内領内でも採れる箇所がある)、まず銅を型に流し、普通の銅銭を作る。
それを塩化ナトリウム水溶液(食塩水)に銅銭と亜鉛をサンドする形で入れて、沸騰しない温度で熱する。
すると亜鉛が溶け出して銅と結合して表面が銀色になり、乾かした後に火で炙ると貧者の金こと黄銅の完成である。
黄銅は錆びにくい特徴もあるので銭にするにはぴったりの物質であり、見た目も良い。
デザインは職人に任せ、仕組みを覚えた職人達は様々な模様の黄銅銭を作り出していく。
結果五種類ほどに絞り込み、それを三条様経由で調停に献上するのであった。
先行して出した銭も、もし受け入れられなくても大内領内の独自通貨として使えば良いし、商人達にサンプルを見せたところ、宋銭は欠けたり錆びていたりしてどうしても悪銭が多くなってきているので、良銭が増えれば商いもしやすいとのこと。
ぶっちゃけ博多と堺で流通してしまえばこの国で使えるということになる。
本当に銭と物価の連動は天下が安定しなければ不可能であるため、銭の価値を商人に任せた方が都合が良い。
銭の作る理由が膨張した大内家臣の給料を銭払いで統一し、米と銭の価値の歪みを正す必要があるからだ。
酒造りの方も仕込みは始めた。
酒単品だけでは良くなく、酒に合う壺や製造用の大ダル、原料の運搬等、皇室に贈るため必要な人員も多くなる。
で、天皇及び皇室の人間がどんな酒が好みかはわからない(もしかしたら公家達に下賜される可能性もあるが)為、色々作る必要がある。
まぁ合わなければ堺で売っぱらってしまえば良い。
重要なのは京まで運ぶ最中に腐らないこと。
なのでどぶろくの様な度数が低く、腐る酒でいけない。
となると清酒、焼酎をメインに、薬用酒として蜂蜜酒、変わり種として麦酒(ビール)を提供することに決めた。
清酒は米、焼酎は甘芋と大麦、蜂蜜酒はそのまま蜂蜜を、麦酒は大麦の他にホップを必要とした。
私が酒を造ると聞きつけて多くの商人や職人、そして私が呼んだ農民達が集まり、酒造りのプロジェクトが始動。
米は生産量を増加させ、過剰分が酒になるため、今までよりも更に病気や倒れるのに強く、かつ稲が大量に実る品種へと改造を行い(その分栄養が必要になるため肥料が無いと、土地が痩せていく)、商人や家臣達に農書と教えられる人員、それに改造された種籾をセットで普及するように厳命した。
勿論他国に流れるのは想定しているので、同盟国である大友と毛利に恩を売るため(過剰米を作り出すために)技術を伝播させた。
その時に久しぶりに大友義鎮とは博多で、毛利隆元とは山口の大内館でそれぞれ再会し、大友義鎮からは
「安慈···いや、今は義植か。義植のお陰で健康になり、家臣達にしっかりと後継者と認められたからな。親父は大内の血が入ってない塩市丸を後継者に据えようと動いているみたいだが、この計画が広まれば家中の大内と俺への支持で固まる」
と言った。
他に錫の大規模な鉱脈が豊後にあるし、燃える石が大内との境にあるから掘ってみないか?
金になるからと誘うと大友の資金源になるなら喜んでと言っていた。
「また太宰府の復興計画があるんだが、阿蘇氏と相良氏を誘うことはできないか?」
「阿蘇はともかく相良は大友と敵対関係だが?」
「両家共に皇室への忠義が強い家だし、阿蘇と相良は両家で家を盛り立てる契りを結んでいるからな。ならば皇室の力を使い肥後の安定化を図るが吉とは思わないか? そして残る敵は」
「北肥後の龍造寺のみか」
「兄弟契りの時の肥前の話は覚えているか?」
「ああ···現実味が帯びてくるな」
「大友は土地さえあれば家臣統制が盤石になるだろ?」
「···よし、俺は大内に賭けるからな。義植、大友を富ませてくれよ」
「ええ、大友には九州統治において重要な役割がありますからね。頼みますよ」
毛利隆元との交渉も比較的スムーズに進んでいた。
「真珠養殖は今しばらく待ってくれ。こちらも色々と実験中でな。成果が出たら直ぐにそちらに人員を送る」
「この米や農法といい良いので?」
「ああ、問題無い。毛利は元就殿ばかりに目が行くが、実務等は隆元殿が大内の教育を受けている分やりやすい。月山富田城の戦いからの傷(兵力的な傷で隆元が傷付いているわけではない)も癒えて無い中来てもらいすまんな」
「いえ、ただ本当に銀城含む旧安芸武田家の領土をお譲りいただけるのですね」
「ああ、大内としては毛利に肥大化してもらわなければならない。家臣で反対は出るだろうが、命をかけて父上の殿をした毛利に礼を渡さねば礼を欠くだろう」
「なるほど」
「まぁ大内の家臣の心配よりも米の増産を頼んだぞ。隆元殿なら毛利は信用に値するからな」
「わかってます」
そして両家から約束通り姫を側室として送られてきた。
大友からは義鎮の同腹の妹···つまり私の従姉妹の姫(数え年で十一歳 満年齢十歳)を、毛利は三女の数え年で七歳(満年齢は六歳)の娘を差し出してきた。
中学生未満のロリ姫達である。
両家との繋がりを婚姻をもって安定化させた。
養蜂も安慈時代に基礎技術は押さえた為に、蜜蜂の改良(女王蜂の出現率の上昇や蜜の採取量増加など)と蜜蜂の蜜源となり杉よりも早く育つハリエンジュ(ニセアカシア)を養蜂場近くに植えさせた。
更に孤児等を集め、養蜂作業をさせることで、戦乱により行き場を失った子供達を労働力として吸収。
西洋蜜蜂並の蜜の生産量にニホンミツバチが備えている寒冷耐性、外敵に集団で対処できることとこれらにより戦国時代では一国で壺に十杯の蜂蜜が集められれば良いと言われるくらい高級品であった。
私が量産に成功したことで蜂蜜及び蜂蜜酒は中華と畿内で爆発的に売れることになり、大内の財源の柱まで成長することになる。
焼酎は蒸留器を教えるところからスタートしたが、仕組みが簡単な為に直ぐに広まり、甘芋の活用法や小麦はパン作りに活用されてきたが、雑穀扱いであった大麦の新たな用途として商人、職人共に盛り上がった。
瞬く間に酒蔵が建てられたり、蒸留施設が建造された。
酒を作るときに出る酵母を更にパン作りに応用することで芋餡を包んだ菓子パンが流行し、パン食が大内領内で広まることに繋がるのだった。
で、種蒔きの季節が過ぎる頃には冬の間に準備しておいた椎茸が各地で採取され、税として納められた干し椎茸が約俵百俵分(三トン分)にもなり、初年度としてはボチボチであった。
それを勘合貿易で半数の五十俵分を明に貿易で送った所、大層喜ばれ、なんか船が一つ増えて帰ってきた。
船には宋銭の他に茶器、生糸、茶葉等がびっしり詰まっており、輸出の二十数倍の価値で帰ってきた。
更に基本年一回の貿易であったが、秋も楽しみにしていると明側から催促の手紙が届いた。
現代の価格だと一回の貿易でこちらが送った椎茸や刀、工芸品が合計で五十億ちょっととすると、二十倍計算でも千億近くで帰ってくるのだから笑いが止まらない。
商人や船員達の分前を渡しても大内には五百億以上が残る。
そりゃ大内が日ノ本一の金持ちになりますわ。
貿易の収益が大幅に黒字だったため、その利益を国内投資に当てる事ができ、安芸の土地を任せていた代官達にもそれ相応の銭を渡すことで不満を抑えることにも成功するのであった。
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