1543年冬 塩と砂糖作りの準備

 何がなんだかわかっていなかった宇治、左貫、球磨、そして円月に、起き上がった男達が自らの人格が詰まったブツを手分けして掃除している間に、経緯や理由を説明した。


「まず混乱していると思うから使った術と効果を説明する。使ったのはこの薬···人格排出薬···まぁまんまだな。これを飲むと河童に尻子玉を抜かれるのに近く、排出すると自我の無い人の形をした肉塊となる」


「続いて皆で手分けして飲ませたのが疑似人格の核だ。魂無き者に擬似的な魂を植え付ける物で、これも禁術に当たる」


 皆安慈としての私が聖人として見られていたので、大量の人を一瞬で毒殺(薬で殺しているので)したことに戸惑いが顔に出ていた。


「安慈としては僧として人々を救うことを重点的に行ってきたが、では大内義植の武士としての顔はこれだ。犬畜生にすら劣る···武士とは結果の為であればあらゆる犠牲を払う。それが武士だ」


 円月が異を唱える。


「しかし、安慈様の活動を見てきた彼らは例え銭払いだとしても村を救っていた安慈様に忠誠を誓うのではないのか? それを安易に殺してしまって良かったのか?」


 私は円月を指差し


「そう、ある程度では駄目。絶対でなければ今後の大内を生き延びる事はできない」


「何故断言できるのです?」


 と球磨が聞く


「大内は内外に敵が多いからな。そして内でも力を付け過ぎた者が多い···故に粛清しなければ大内は腐るからな。それには私の指示を忠実にこなす駒がいる」


「それでもあのような尊厳も何もなく殺すのはいかがなものかと思うが」


 と左貫が言う。


 皆もウンウンと頷いている。


「まぁ今までの私から逸脱したやり方であるのは認める。ただ初手でこれをしなければならないほど大内は思っているよりも大国ではないと言っておこう」


 円月は私のやり方に興味を持ったが、他のメンバーは批判的であった。


 まぁ常人であれば批判するのが普通である。


 ただ皆に


「行動で結果は見せる」


 と言い切った。


 つまり時には非道な行いもすると断言したのだ。











 私の御目付役は黒川隆像という人物で、宗像水軍棟梁である宗像正氏の弟であり、兄と共に大内家の家臣として働いており、宗像一族が私が祈願したことで男児に恵まれた為に黒川隆像自らが志願して御目付役に抜擢された。


「さて、大内の跡取りとして私が見守られば!」


 と黒川は気合いを入れて勝山城に来たらしいが、男達が城下の周囲を整地していた。


 その陣頭指揮を私がしており、黒川が私に話しかける。


「義植様、何をなされているので?」


「久しぶりだな黒川、大内館で会った以来か···見ての通りこの者達が住む場所を作っている」


「働いている者達ですか」


 そう、人格を植え付けて、私に絶対に忠誠を抱かせた肉人形達であるが、彼らも住む場所が必要である。


 その長屋や畑を建築していた。


「ここらで畑は海から近く、塩害になるかと思いますが」


「塩害に強い麦の種がある。それを植えるし、椰子(ヤシ)の木を多く植えようとも思っている。椰子は油がよく採れるから石鹸の材料にもなるからな」


「おお、流石義植様ですな」


 黒川は先行して来たが、その後続々と各家臣達の子供達が大内の後継者となった私の小姓としてやってきた。


 多くが武士としての教育をされてきたエリート達であり、教養とかもそこらの国人当主よりも洗練されていた。


 約五十名程が加わり、彼らと顔合わせをした後に私の方針を伝える。


「富国強兵、農盛商盛、遠近両貿この三つだな」


 富国強兵はわかりやすい。


 国を富ませて強い兵を育てる。


 小姓達も意味がわかるので頷いている。


 次に農盛商盛は農業と商業を盛り立てる事を意味し、今よりも農業と商業の拡張をするという意思表示であった。


 そして遠近両貿は遠くは海外、近は周辺の大名と貿易をするということを意味した。


「まずは十年かけて大内の力を高める。投資の配分や産業の歪みを整え、人口を増やし、力を蓄える。武力だけが戦いではない。武力を用いない戦いを私の下で学んでほしい。大丈夫、皆一流の将にしてやる」


 と彼らに言い放った。









 まずは家臣の序列であるが、私は僧時代から育ててきた者達が小姓達に馬鹿にされるのは気に食わないので、まず力比べと知恵比べをさせた。


 勝った者が小姓頭だと言うと皆やる気を出し、相撲と将棋をさせた。


 結果は円月が他を圧倒し、文句無く円月が小姓頭になることが決まったのだが


「いつまでも法名でいるのも困るだろ」


「しかし家名である龍造寺は使いづらく···」


「ふーむなら龍造寺の龍と円月の円で龍円の苗字に名前は隆信で良いだろう。父上から小姓頭になる者には隆の字を授ける許可は頂いている。龍円隆信···どうだ?」


「ありがたき幸せ」


 と勝負事で負けた為反対意見も出ず、しかも隆信は切れ者であり、頭がよく回る。


 そして非道、邪道にも利があるのであればと理解を示してくれる。


 そして力も大人五人分とまで言われるくらい力自慢で、大柄、まさに熊のようであった。


 宇治や左貫、球磨も隆信には負けたものの、上の方まで勝ち上がり、能力を示した。


 なので宇治には伊藤、左貫には香川、球磨には阿武の苗字をそれぞれ与え、三人には足軽組頭に任命した。


 で、序列を決めたら早速私が統治することになった村々を巡る。


 まず海が近い為製塩に向いている。


 陸地が波の流入を妨げているので魚や真珠の養殖も行える。


 椰子の木を海岸沿いに植えればヤシ油を絞ることで大量の油を手に入れることもできそうだ。


 米作りにはどうしても向かないが、塩害に強い小麦や大麦を育てれば食うには困ることは無いだろう。


 そして塩作りでにがりが手に入りやすいので味噌や醤油造りも捗るだろう。


 小さくても良いので港も欲しい。


 薩摩と交易をして早くローマコンクリートを作りたいからだ。


 村々を巡って村長に挨拶をして、税を下げる、金を払うので村を豊かにする工事をしたいというと喜んで協力を申し出てくれた。


「村人など金を払わずとも賊役をさせれば良いのではないのでしょうか」


 と小姓の者が言ってくるが、私は首を横に振り


「それでは彼らへの報酬が後払いだ。まずこちらから銭を施す。そして銭の分働いてもらう。これが互いのためだ。民意を疎かにすれば国が滅ぶぞ」


 と注意する。


 長屋を建築した肉人形達にまずは製塩施設と椰子の木を海岸沿いに植えたり建築してもらう。


 で、私の指示で作られたのが塩作りや今後の産業において重要な役割を担う風車と水車であった。












 風車と水車···風車は風の力を利用し、水車は水の流れを利用し、歯車を回転させて水を組み上げたり、脱穀や製粉に使ったり、はたまた製鉄するのに窯に風を送る役割を担うのが風車と水車である。


 で、今回は建てたのは製塩用の風車で、浜風の力で風車を回し、海水を組み上げる。


 それを緩やかな斜面の流下盤で組み上げた海水を緩やかに流すことで太陽熱で蒸発させる。


 それを循環槽というため池に水を溜めて、それを更に別の風車で組み上げ、竹の枝で組んだ枝条架という傘を何層も重ねた様な物に水を流していく。


 海水が枝条架を通過する際に風を強く受けて水分が更に飛ばされ、それをもう一度組み上げて別の場所の枝条架に流して水分を飛ばすと塩分が濃縮された塩水が残る。


 それを釜茹でして水分を抜けば塩ができる。


 ちなみに戦国時代では桶に海水を担いで、塩田と呼ばれる粘土盤に砂を敷き詰めた場所に海水を撒いて水分を飛ばし、塩のついた砂をろ過して塩を採取するやり方をしていたが、私が風車を使った実験段階で塩の生産量は五倍、風車の改良や枝条架の竹の密度の調整を整え、本格稼働させたところ二十五倍近くの塩が製塩することができた。


 それを海の近くの村全てでやらせたところ、塩の供給量が増えて、魚の塩漬けや野菜の塩漬け、梅干し等の保存食や調味料としての使用が需要を満たし、博多経由で結構な量が各地に輸出されることになる。


 戦国の世で製塩が本来できる地域も乱世で治安が安定しないからどこも塩不足気味であるから仕方がないね。


 小姓達も勿論手伝わせ、最初は武士のやることではないと言っていたが、風車の風の力を利用すれば刀や槍の鉄を多く加工できると説明し、そして塩が大量に生産されるのを見れば考え方も変わる。


「じゃぁ次はこの木を植えようか」


「なんですかこの苗木は?」


「ふふふ、甘味の採れる木だよ」


 海岸にはヤシ油用の椰子の木の他にサトウヤシの改造種を植え、街道沿いには成長速度がめちゃくちゃ早く、日本の気候でも栽培できるサトウカエデの木を等間隔に植えていった。


 椰子の木含めて成長に五年ほどかかるが、五年後からは半年間メイプルシロップを採取することができる。


 そうなれば日ノ本では変わり種の甘味として好まれるだろう。


 勿論砂糖の方もサトウキビを植えて育てる。


 生育環境的に南国の薩摩の方が良いが、こちらでもある程度は栽培することができるだろう。









 一方、山口の町の周りでは椎茸栽培をガッツリ普及させた。


 植林とセットにしないと直ぐにはげ山が出来上がるので注意は必要であるが、各地を走り回り、準備をすることができたので、早ければ春頃から椎茸が取れるようになるだろう。


 そうすれば石見失陥による財源の一部を穴埋めすることができるだろう。


「さぁやることは多いぞ!」


 私は次の策を練り始めるのだった。

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