1543年 大内義植の誕生2 第一の性癖

 大内家の財源について詳しく語ることにしよう。


 まず大内家は幕府より勘合貿易の権利を委託されており、海禁政策中の明(鎖国の緩いバージョン)と正式に貿易することができる。


 これにより銭を輸入できるので中央銀行が地方政権にある状態と言えばよいだろうか。


 銭を輸入して活用できる博多も抱えていることは大きく、この時代は堺よりも博多が栄えており、堺からの上がり金(上納金)を受け取ることで貿易の利益と共に大内の財政の柱となっていた。


 これに少し前までは石見銀山もあり、石高計算をすると本拠地である周防、長門、豊前、筑前の四国で太閤検地で約七十五万石、他貿易や銀山の利益を合算すると三百万石近くの経済力を保有していた。


 ただ百万石に匹敵する石見銀山を失陥した今の大内家は約二百万石程度の経済力となる···具体的な検地をしていないのであくまで憶測でしか無いが。


 ただその分支出も嵩む。


 侍頭(指揮官)が140名をも抱えているためそれに見合う軍事費、貴族の養育費、朝廷への献金、最新技術開発の研究費等多くの支出があった。


 父上と三条殿と話し合いで、まずやるべきこととして内需の拡大をしなければならないと話た。


「金の力で安全を買いましょう」


 そう言い国内の地図を広げる。


「まず仮想敵である大友と私は義兄弟の契りを結んでいますが、戦国の世故にいつ裏切るかわからない。なので大内と敵対するのが損と思わせることが重要···豊後には錫の鉱石や燃える石が出る場所が筑前との国境にあるのでそれを大々的に採掘させ、こちらからは銭や食べ物を、あちらからは鉱石を交易にて運び、錫は食器や茶器に人気がありますし、青銅(銅と錫の合金)は武器に使うこともできます」


「更に南部の薩摩の地で採掘できる砂と長門から出る石を混ぜ合わせることで道を作るのに最適な人工石(ローマコンクリート)を作ることが可能です。またその地でなければ栽培できない果実や琉球との貿易を間接的に噛ませることで九州の地は安定するでしょう」


 地図の東側を指差し


「安芸は毛利と密約を結んでおり、私が大内で確固たる発言力を持った場合安芸及び石見半国の領地を認めると話しています。安芸は山が多く、そして海岸沿いは瀬戸内海の緩やかな波により真珠やアワビ等の養殖に適しております。需要が大きい中華との貿易はこちらが握っているので、その技術を渡し、大内が抱えている職人に芸術品を作ってもらうが吉かと」


 私が考えているのは九州と中国地方の半分で巨大な経済圏を作り出すことで、畿内が人口や政治の中枢、堺や巨大な寺社が多くあるため、経済規模も大きく、畿内を征した者が天下人であるというのはこの経済力を握れるからである。


 信長がその経済を扱うのが上手かったが為に勢力を急速膨張することができたが、大内も博多という経済都市を抑えているので上手く各地に投資をすればアジア最大の経済都市を築く事も可能であると見ていた。


 もう大航海時代は始まっている。


 明との貿易の他に南蛮貿易も始まり、活性化するのは目に見えている。


 貿易によりいかに稼ぐかが重要である。


 多くの技術は私が再現可能であるが、正確な海図と外洋航海ができる船、それに航海術等は私の専門外であり、それを奪って初めて日ノ本から世界へと視野を広げることができる。


「残る敵は尼子だけですが、石見の銀山を奪取したことで西は満足でしょうから、東に進むでしょう。そして東は大内を散々苦しめた魔境となっております故に統治はさぞ苦労するでしょうなぁ」


 信長が畿内統治がすんなりできた理由として信長の前に三回ほど畿内がズタズタにされているからである。


 細川氏の内乱、尼子による畿内侵攻、将軍側と三好側の殴り合い···三好が最終的に畿内勢力を粛清するまで畿内近くの勢力は本当に混沌としており、三好もこの粛清作業中に一族を多く失い、衰退することに繋がる。


 ただ一見弱小勢力が犇めき合っているように見えるので力を付けた尼子にとって大内と殴り合うより利益が大きいように見えるだろう。


 そして混沌に呑まれて勢いを失っていくのである。


 大内がそんな畿内で十年戦えたのは他国を圧倒する経済力があってことだからだ。


「父上、私は大内領を中華にも負けない大都市にしたいと考えております。どうですかな?」


 大内義隆はニヤリと笑う。


「晴持は可愛かったが、義植(私)は理解者であるな。銭の流れがよくわかっているし、銭を使った戦い方を理解している···私にやってほしい事などはあるかい?」


「私を大内の後継者筆頭と明言するだけで結構。お願いとしては三条様の方です」


「私にか?」


「公家の扱いについてです」


 公家も今の段階では大内の資金で賄える範囲であり、これが壊れるのが大内義隆の第二正室(継室)となるおさいという女の父親が問題である。


 このおさいの方はもともと正室の侍女をしていた女であり、現代風で言うならメイドであった。


 それを父上がお手つきをし、そして子供ができてしまったから問題が発生する。


 そうおさいの方の親族が暴走した。


 おさいの方の父親でも従五位···しかも地下の諸大夫であり、昇殿を許されない立場であった。


 その為分類的には下級貴族ということになる人物が大内の親族であるからと贅沢を始める。


 すると周りの貴族も格の低い地下の者があれだけ贅沢をしているのだから自分も許されるだろうと贅沢を始め、それを大内義隆も咎めることをしなかったので、結果大内の財政が傾くこととなる。


 今はまだバランスが保っているのだ。


「仕事を頼みたいのです」


「仕事ですか?」


「九州統治として父が大宰大弐の官位を持つため、荒れてしまった太宰府を復興したいと考えているのだが、文献や資料が乏しい。そして太宰府に置く書物の製作を依頼したい」


 太宰府となれば九州の朝廷の機関であり、九州統治においても重要な意味を持つ。


 少弐氏の反乱により焼けてしまい、荒れてしまっていたが、再建に公家が参加したとなれば都落ちをしてしまったという罪悪感を持つ公家達も熱心に働くと思うからだ。


 仕事をしないで、贅沢をするから怒るのであって、仕事をしていれば問題ない。


 朝廷の機関を復興させたとなれば京にいる公家や天皇からの心象も良くなる。


 金による官位の買収よりも心象は良いだろう。


「それに私が鋳銭司になれば日ノ本で使える銭を作れる名分となり、それが駄目でも造酒司であれば朝廷に定期的に酒を贈ることになる。その酒の輸送を博多商人に任せれば、博多商人の忠義は揺るがないものとなるでしょうなぁ」


 皇室へ酒を運ぶ船を襲うは朝敵になるため、その船からはどの勢力からも税を取られる事のない海上のフリーパスになる。


 皇室に運ぶ酒のついでに他の品を畿内に運んでしまえば税が取られない分、商人の利益になる。


 それに天皇御用達という金で買えない箔を付けることができる。


 それすなわち博多の豪商から日ノ本の豪商へとランクアップすることができるし、商人としての一つの極みに達することを意味する。


 そういう事を考えて鋳銭司をねだり、駄目ならば本命の造酒司の官位が欲しいという二段構えの策であった。


「よく練られておるな」


「先生方(公家の皆さん)の教えが良いもので」


「なるほどのぉ。皇室の為に働くは貴人として当たり前のこと。是非協力しよう」


「ありがとうございます」


 もし書物ができれば一旦は大内の町にある書院に保管され、その間に写本してしまえば、原本を太宰府に送っても秘伝書とも言える貴族の知識の数々が書かれた書物を大内家の者であればいつでも閲覧できる状態となる。


 それは大内に大きな益となるに違いない。










 話し合いを終えて数日後、大内館で私は父上から後継者の宣言をされ、大内義植と名乗る宣言をされた。


 私を侮っていた人達も慌てて私に頭を下げに来るが、既にリスト化してある。


 時期に粛清すると決め、後継者に指定されて初めての仕事は減税と検地の実行であった。


 私自身が村長等の村の代表や地侍等の土地を支配している者に挨拶に行き、検地の理由と減税についての説明を話した。


 それと同時に部屋住みや穀潰しとなっている次男や三男等を銭で雇い、常備兵を作ろうと人を集めるのであった。


 また、私は父上から所領として勝山城(本州と九州の境目にある城とその周辺の五村)を与えられた。


 大栗の足であれば街道を使えば山口の町まで一刻ちょっと(二時間ちょっと)、博多までは船で一刻で移動できるので、私にとって色々と都合の良い土地であった。








「皆よく集まってくれたな」


 村々を巡り、穀潰しになっていた男共を兵士になる代わりに衣食住と金を工面するとして五百人ほど集め、歓迎の儀を勝山城で開いた。


 皆銭や条件に釣られた者達で、命をかして私を守ろうとは思っていない。


 まぁ思わせるような仕組みや逃亡防止の条項を盛り込んでなかったので当たり前でかるが···


 ではそんな奴らをどのように使うか···改造してしまえば良い。


 私は酒にとある薬を混ぜて兵士となる皆に振る舞い、飲ませた。


 料理と共に数時間食えや歌えやと騒いでいたが、ある者が尻に手を抑えて厠に向かおうと立ち上がった瞬間に体が崩れ落ちた。


 尻から便が漏れ出ているが、便の色ではなく、血のように赤黒かった。


 酒を飲んでいた者達は次々に崩れ落ち、酒に潰れて眠っていた者も赤黒い便の様な何かを尻から吹き出し、宴会開始から二刻(四時間)程で静かになってしまった。


 連れてきていた宇治や左貫、円月、球磨は恐れおののいていた。


「な、何を彼らにしたのだ? 安慈様」


「今は義植だ。なに、人格を排出させた」


「人格を?」


「皆手分けしてこの薬を倒れている皆に飲ませよ」


 と私は梅干し程度の薬を入れた袋を四人に渡して倒れた男達に飲ませていった。


 一刻で全員に飲ませ終わり、私が


「起立!」


 と言うと虚ろな目をした男達が立ち上がった。


「おはよう諸君。君達は先程死んで、新たな命を宿した。私の為に尽くせ。良いな」


「「「は!」」」


 この日、私は本当の意味で禁術を人に使ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る