1540年 九州散歩 豊後の大友義鎮
1540年、僻地村や四村も私が居なくても回るように冬の間に色々伝え、春になると私は九州の地に渡っていた。
というのも博多を一度見ておきたいと思ったからだ。
私と付き合いのある商人で、干し椎茸を博多で売っている商人が居たので、その人と同行し、海を渡った。
この頃の北九州は大内全盛期である為、博多含めた豊前、筑前を勢力下に置き、勘合貿易で明から莫大な利益を得ていた。
博多は貿易港兼、商人の町として栄え、人々が活気に満ちた顔で行き来していた。
「おお···流石博多···凄まじい町並みですね」
「安慈様でも驚く事があるのですね」
「ええ、私でも驚く事はありますよ。博多まで連れてきていただき感謝します」
「この後はどうされるのですか?」
私はニコリと商人に向けて笑顔を向ける。
「九州にて困っている人や者は多い。故に僧として手を差し伸べるのみよ」
と私は言った。
愛馬の大栗は大きくなり目立つ為に置いてきたので、自らの足で行く必要がある。
「さて、九州旅行と参らん」
博多を出発した私は九州を右回りで歩くことにした。
長門と周防ではお芋様とそこそこ有名になっていたが、九州での知名度は皆無であり、私は道行く村を巡り、問題を解決していった。
例えば豊後に行くと、水源を争って領主や領民が争っており、私が
「水が出なくて困っているのなら、私に任せなさい」
と水不足の村の村人に大穴を掘らせ、念仏を唱えるフリをして穴の中に入り、水の出る秘宝を穴の底に埋めた。
すると水が湧き出し、一夜もすると村人達が生活するのに必要な水を確保することができた。
「ありがたや!」
「お名前を伺っても?」
「安慈と申す修行の僧ゆえ」
と名乗り、村人の饗しを受けながら進んでいく。
追い剥ぎに襲われた時の話もしよう。
「若え坊さんや、身銭を置いていけ!」
と脅され、私は説法を解いた。
「何故野盗をしているのだ?」
「なんだ説教か!」
「答えてくれたら私は身銭を渡そう。なに、奪うより楽であろう」
と言うと、盗賊は戦で村が焼けてしまい、食うに困って野盗をしているのだと言う。
「なるほど。それは困ったであろう」
私は身銭を全て渡した後に
「身銭は渡したが、これで君達は生きていけるのか? いつまでも野盗をしていれば領主が動くぞ」
と言い
「せっかくだ。村の跡地に案内しなさい」
と私が村の跡地に行くと田畑は荒らされ、家は焼け焦げ、とてもではないが住むことができなさそうである。
「どれ、村を復興させる力があると出ている」
と私は言い、焼けた家の床を掘るふりをして地面の土を変化させ、金を産み出す。
野盗達からしたら私がいきなり家の床を掘り始めたと思ったら、金を掘り当てた(様に見える)のだから驚きである。
私はその金の塊を野盗の代表に渡し
更に懐から量はそれほどだが、とにかく頑丈な種籾の袋を渡す。
「これがあれば村は立ち直るであろう。私ができるのはこれまで故、後は野盗の足を洗い、頑張るのだ」
と言うと、野盗達は平伏し、私から取った銭を返したのだった。
ある村では疫病(天然痘)が流行り、村人達が高熱を出し苦しんでいたり、体中に出来物ができて苦しんでいたので、私が薬を調合し、熱がある者には熱冷ましの薬を、頭痛や四肢の痛みを訴える者は痛み止めを、失明仕掛けている者には秘薬といって目薬を垂らした。
最初は疑っていた村人達も私の看病と治癒により体調が良くなり、死にかけていた者達が回復すると私を生き仏と言うくらい崇められた。
豊後の国でこのような事を繰り返していたので、口伝てで安慈の名が広がり、徳の高い若い坊さんが居ると噂になった。
そしてちょうどこの頃、大友家の嫡男の大友義鎮(大友宗麟その人)の正室と母親が流行り病にかかっており、多くの僧や薬師が看病にあたっていたが、日に日に衰弱していっていた。
大友義鎮は母親と正室と大層仲が良く、よく弟を含めた四人でよく居たのだが、今回の流行り病に大友義鎮自身も身体が弱かった為に家臣達から病が移されては大変と離れ離れにされていた。
心配で、ただでさえ食が細かった大友義鎮は更に食事量が減って、顔色が悪くなり、寝込むことが多くなっていた。
そんな時に安慈の僧の噂話が町で広まっていたので、大友義鎮の気持ちを案じた吉弘鑑理という家臣(雷神と言われる様になる戸次鑑連の右腕 後々大友三宿老の一人)が私の事を探し出して城に呼び寄せた。
私が予想よりも若い···というか元服間もない若(大友義鎮)と変わらない若さに驚いていたが、藁にも縋る思いで私を城に連れてきた。
私は直ぐに姫と奥方を問診し、節々の痛み等の症状からインフルエンザを拗らせている事を推測し、解熱剤と体力をつける薬を粥と一緒に食べさせ、邪気を祓うとして部屋の風通しをよくし、換気を行った。
体力をつける薬が功を奏したのか、一週間もすると熱が下がり、食欲も戻り、咳も止まった。
最愛の妻と母親が回復した事に大友義鎮は喜び、私に礼を言いたいと呼び出された。
「お初にお目にかかります。大友義鎮様」
「おお、確かに私と同じくらいの歳だな。歳は幾つだ?」
「十でございます」
「十だと! 私と同じではないか! 名は安慈と言うようだが、この度は母と妻を救っていただき感謝する」
「いえ、私は困っていた者に手を差し伸べたのみ」
「しかし、多くの僧や薬師が匙を投げた難病をそなたはその歳で治した···是非私の家臣になってはくれぬか?」
この言葉に同じ部屋に居た吉弘鑑理と戸次鑑連がそれは良い考えと言う。
しかし、私は
「それはできぬお話故に」
と断る
「何故だ? 仏門に居る故か?」
「いえ、我が血筋故に」
「血筋?」
大友義鎮は吉弘鑑理の方を見るが、連れてきた本人も首を傾げている。
「どこの者なのだ? そなたは?」
「義鎮様の母方の実家の直系でございます。私の幼名は亀童丸故に」
その言葉を聞いて、その場に居た家臣や義鎮は絶句してしまう。
大友義鎮の母親は大内の姫であり、私からしたら叔母である。
つまり私と大友義鎮は従兄弟というは関係になるし、大友と大内は数年前に停戦したとはいえ豊前を巡る戦闘を繰り返している関係であった。
そして亀童丸とは大内家の嫡男に付ける名前である。
「大内の嫡子ということか!」
「さよう。知恵遅れと思われ仏門に入れられたがな! ワハハ」
と言うが、単身で歩き坊主の如きことをここら一帯(九州、四国、中国地方)に置いては将軍よりも権威がある大内の嫡男がしていたことに皆驚いていた。
「なに、今の私は安慈、ただの若い僧よ。義鎮様よりも低い者故に」
そう言われてハイそうですかとは皆言えない。
「ただ治すべき患者はまだ居るようで」
「なに? まだ病人が」
「義鎮様、あなたです」
「私がか!」
「食が進まず、不安を殺すために酒を飲み、よく寝れて居られぬでしょう。せっかく母君や奥方が回復したのに、義鎮様が倒れては元も子もない。色々なお話をしましょうや」
と私は義鎮の城に居座る宣言をしたのだった。
私が義鎮にしたことは食事療法であり、錬金術で薬を作ることはしなかった。
する必要が無かった。
史実で大友義鎮は長生きすることを知っているので、酒毒を抜き、食事に気をつけ、適度に運動をすれば健康になっていく。
気をつけるべきは食事で、私は食の細い義鎮が食欲の湧くような料理を私の手で作った。
義鎮の家臣達が監視に付くが、私が作る料理に驚き、そして毒見と称して食べるが、その美味しさに沢山食べてしまうという事が多発した。
「安慈! これは何だ!」
「鳥南蛮(チキン南蛮)であります。刻鳥(鶏)の肉を油で揚げを卵と葱、酢、塩、柑橘の汁を混ぜたタレを塗って食べる料理です。汁は鯉をよく泥を抜き、包丁で叩いて肉団子にし、それと野菜を入れた味噌汁。副菜として山菜のおひたしを作ってみました。飯は麦飯に」
「安慈様や、なんで麦飯なんだ?」
「白米は美味いが体を大きくしたり病を祓う力が弱いのだ。健康な人なら良いが、義鎮様は体を作る料理を食べられた方が良いからな。こうしました」
と色々な料理を作っては出し、更に体操(ラジオ体操)を教え、無理のない範囲でランニングをさせたりすると、酒毒も抜け、一ヶ月後には見違えるほど肌の色が良くなっていた。
更に義鎮様は私と話すのが楽しいらしく、色々な事を聞いてくる。
大内と博多を巡り戦わねばならぬ運命はなんとかならぬかと言われたので
「なら肥前を奪えば良いでしょう。肥前には良港となり得る場所が多くある」
「しかし博多は瀬戸内海を通り、堺や明(中国)と繋がっている。肥前は遠いのではないか?」
「ええ、遠いでしょう。しかし、日ノ本ではなく世界を見ると違ってきます」
私は紙に世界地図を描き
「さて日ノ本はどこでしょう」
と義鎮に聞くと悩んだ末にパプアニューギニア当たりを指さした。
「違うな。こっちの島だ」
「なんと! 日ノ本はこれほど小さいのか」
「日ノ本が小さいよりも世界には多くの国がある。日ノ本だけの貿易を見るより他国からの貿易を重く見たほうが良いぞ」
「その他国の貿易を大内が独占しているから博多が賑わうのではないか?」
「それはそうだ。だが風向きが変わりつつあるのだ」
「というと?」
「南蛮人が日ノ本近海に近づきつつある。彼らは日ノ本よりも進んだ技術を持っており、その航海技術を持っており多くの土地に船で移動する。となると博多以外にも港町があった方が都合が良いとは思わないか」
「商いは詳しくないがあった方が良いのか?」
「南蛮人にとっては売れる場所が増える。こちらとしても海外進出の足場となる」
「海外に出るのか?」
「そのほうが稼げるからな! 未開の土地も多い。開墾すれば日ノ本よりも米が穫れる場所も多いからな」
「それは夢がある話だ」
「きっと楽しいぞ! 乱世が終わった世の中は!」
約三ヶ月大友義鎮の城に滞在したが、義鎮は私と兄弟の契りを結び、互いに困った時は助け合う約束をするのだった。
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