1538年 冷泉隆豊
鶏が産まれまくるので、村に一家に五羽くらいの鶏を渡して、卵を食べるように言った。
勿論焼いたり茹でたりで生で食べることは無いが。
で、そうなると醤油が欲しいが、うちの村では余剰人員が居ない為に他の村に売り込む事にした。
味噌作りの延長でたまり醤油が作れるのでいけるいける。
ということで村長が隣村と交流があるので隣村に村長と一緒に向かい、話し合いをする。
「安慈と申します」
「噂のお芋様か!」
どうやら私はお芋様と呼ばれているらしい。
和尚や徳源とごっちゃになっているようで若い青年であったり、老坊主だと言われていたらしいが、元服前の子供だとは思ってなかったらしい。
で村長に米と芋の作り方を広めたいのだがと言うと是非是非と言われた。
というのも私が住んでいる寺近くの村···後々私の偽名から安慈村と言われるが、安慈村から山一つ奥の村で、山に囲まれた窪地にある為、水源が限られ、開拓余地も少ないらしい。
水が少なくて済む芋はありがたいが決め手となる村の名産みたいなのが欲しいと言われた。
「椎茸はどうだ?」
「高級品の?」
「そうだ。私は椎茸の増やし方を知っているから毎年ある程度は採れるようになるだろう」
と私が自信を持って言うので教えて欲しいと言われた。
まず椎茸の菌が必要になるが、それは神様に頼んで枕元に菌塊を出してもらい、クヌギの木を切り倒して原木とし、輪切りにして原木に穴を空けて菌床を打ち込んだ。
それから木陰で少しジメッとしている場所で立たせて待つこと数週間後、二百本原木を用意したが、うち半数から椎茸が生えてきた。
ちなみにこの頃の椎茸は中国への輸出品とされ、農民はほぼ食す事ができず、寺院の高僧等が食べるに留まっていた高級食材であり、乾燥シイタケ俵二つ分(約六十キロ)で城が建つと言われるくらい金になった。
「一度椎茸が生えた原木は二年から四年ほど椎茸が生えてくるから、クヌギの苗木を植えつつ、一定数作り続ければ村は潤うよね」
「は、ははぁ! 安慈様のお陰でこの村は飢えることはないでしょう!」
「よせよせ、問題は菌床の作る方法だ」
無菌室で作るのはこの時代不可能なのでせっかくの錬金術、椎茸の菌を強くし、木屑を湿らせて壺に菌床と一緒に入れて山に穴を掘り、涼しくしてそこで繁殖させ、馴染ませる。
菌を強化したためその状態でも二年は菌が活動を続けてくれるので、定期的に別の壺と木くず、湿らせるのを忘れないようにし、菌を育て続け、使うときは菌の生えた木屑を取り出して木に穴を空けて木屑を入れる···というのを確立させ、だいたい原木に馴染んでくれる成功率は五十パーセントほどで、収穫量も干し椎茸にするので三十キロ程で安定した。
俵一俵分ながら村の生命線となり、茸用のクヌギが七年で伐採できるため、村全体でクヌギの植林をし、徐々に規模を大きくしていくこととなり、最終的に椎茸の利益で神社ができることになるのだがそれは後のお話。
ただ村人達も椎茸が森でよく穫れるとしか報告しなかった為、椎茸を必死に集めて税を納めている様に村を管理している代官からはそう思うのであった。
まぁ茸の村の村長が椎茸を集めるので米の年貢は減らしてくれと交渉した結果であり、年貢用の椎茸以外は商人にこっそり流して銭を蓄積するのだった。
一つの村を救った私だったが周囲にはまだまだ困っている村がある。
座五郎村長と伝がある村を巡り、米と芋を広め、そのついでにその村で困っていることを助ける。
ある村は洪水が頻発するが領主が手を打ってくれずに困っていると言うので洪水を止めるのは難しいので、必ず洪水になる箇所を作り、水を逃がせばどうかと提案し、更に水が逃げる箇所を竹林にすることで洪水による土流の被害を軽減させたり、土を数メートル盛って、周囲よりも高い場所を作り、そこに非常食を備蓄すればどうかと提案をした。
抜本的な川の道筋を変えることは領主でもないと不可能なので村でできる提案をした。
また別の村では水源に乏しく、米作りに向かない為どうしたものかと困っていたので果実と養蜂をしてはどうかと提案し、まずは実るのが早い桃と珍しい酒ができるからとぶどう、それにみかんの苗木を沢山渡し、育て方を教えた。
また米が無理なら麦を育てた方が良いとし、雨が十分に降るので、麦畑を作れば良いし、税は当分は麦を売ってしのげは良いとし、小麦を使った料理を一緒に教え、養蜂は果実が実り始めたらこうしなさいという指南書もその村の村長に渡した。
三つの村を救うと村人達が安慈という人物が困っている村は助けてくれると触れ回り、それが耳に入ったのかとある武将が私を探し始めた。
その人物は冷泉隆豊···大内水軍を率いる大内一門衆かつ、現当主大内義隆の愛人(男色相手)でもある。
まぁ大内義隆が愛人にする人物はなんだかんだ能力が高く、この隆豊も文武に優れ、文治派と武断派に分けられる大内家臣団でも中立を示し、水軍衆を率いていることもあり、大内義隆の経済政策にある程度理解できる頭脳を持ち合わせていた。
それ故に有能な者を探す嗅覚も優れており、お芋様と長門と周防の国境の村々で噂される安慈(私)を結びつけて探し回っていた。
で噂を辿れば知恵遅れで仏門に入れた嫡男亀童丸の寺へとたどり着く。
その日は私が他の村に出かけていたので帰るのが夕刻となったが、寺に戻ると見慣れぬ男達が寺に居たのでこっそり寺に入り、宇治を捕まえて事情を聞くと安慈という人物を探しているのと亀童丸様(私)の様子を見に来たとのこと。
和尚は対応に困っており、私はこの人物が最後まで大内に尽くした事を知っていたので顔を出すことにした。
「亀童丸様は冷泉様のみと会いたいと願われた為にお付の方は部屋の外にてお待ちくだされ」
「なんと! 我らは駄目だと申すか!」
「これよしなさい。亀童丸様は体調が優れないことは有名です。知らない人が多ければそれだけ負担になる。和尚済まないね急にお仕掛けてしまって」
「いえいえ、滅相もない···ではお入りください」
戸を開けると部屋には多くの書物が棚に並べられており、紙の束と筆が机に置かれていた。
そして襖を開けると正座をした顔立ちの良い少年が座っていた。
「誰だ貴様!」
「お探しの安慈でございます。正確には大内義隆様と万里小路の姫より産まれた者でございまする」
「馬鹿な亀童丸様なハズ無かろう! 彼は重度の知恵遅れ出会ったのだぞ」
「完治致した故に···まぁ家臣の皆々様には知恵遅れの印象強く、私が表に出ても良いことは無いでしょうに」
「···亀童丸様ではなく安慈殿として扱うが宜しいか」
「妥当でしょうな。どうぞ」
「村々を知恵と神仏の奇跡を持って救うと噂されているが、真か?」
「確かに私は村々を巡り助言をしておりますが、その土地で生きる者あっての事。私はまだまだ若輩でございまする故に」
「ほう、では私にも助言を頂きたい」
「何なりと」
「次期当主となる(大内)晴持様は文武共に優れたお方であるが、親方様には跡継ぎとなる人物が晴持様以外だと亀童丸様しか居られない。しかも亀童丸様は仏門へと入り、晴持様に何かあれば亀童丸様が跡取りとなるが、果たして大内の家中を統制する力はあると思うか?」
ずいぶんとまあ···本人によう聞くよ。
「しからば、大内を整理する必要がございまするなぁ」
「整理?」
「今の大内を統制する力は亀童丸様にはござらんだろうな。ただ中先代(北条時行)の真似事はできると思われる」
「大内は執権北条と同じ道を辿ると?」
「いや、元(中華王朝の方、明の前王朝)に近いと思われるな。強大故に内憂が危うい」
「貴族か?」
私はニコリと微笑む。
「噂に聞くが万里小路の姫とお館様(大内義隆)の仲は相当悪いと聞く。いや、亀童丸様が知恵遅れであった事によりお館様との仲が破綻、お館様は更に男色を強められたご様子。まぁそれは良いのです。ただ今お館様の近くに女は官位の低い貴族の女子のみ···万が一その女子にお館様がお手つきとなり、更に子供ができたらその実家はお館様の親族となる。身分の低い貴族が大内の親族という理由で偉ぶれば他の貴族はどう思うだろうな」
「ならばなおさら亀童丸様に跡継ぎになられなければならないのではないか?」
「武家を統制する自信はある。文治、武断共にな。ただ相良武任を糾弾し、陶は粛清しなければならんな」
「何故に?」
「陶家は大きくなり過ぎた。相良武任は人徳が無い。一時的に文治、武断両方の力が弱まるが大内の力であれば再建は容易。もっとも私は今の大内では天下は取れないと思っている」
「何故?」
「先代様が失敗している。今の大内の限界を示したのが先代の管領代就任であり、室町を終わらせる気概でないと天下など無理よ」
「では大内が天下を取るにはどうするべき?」
「民からの信頼を得る事、九州の地を安定化させ背後を固めること、時勢を待つこと」
「二つはわかるが時勢を待つのか?」
「膨張した尼子とぶつかる必要があり、無理に倒そうとすれば大きな出血を大内は強いられる。まぁ尼子はいつかは潰さなければならんが今では無い。少なくとも尼子経久死後五年は動かない方が良いだろう。その頃には(大内)晴持様も大きくなり、大内にもゆとりができる。そのゆとりがあるうちに北九州勢力を駆逐。北九州平定という実績を持ち、大内家の実権を晴持様へ移行させる」
「その頃にはを尼子と京の情勢が大きく変化しているだろうから再度上洛を目指す。そして幕府に忠義を尽す振りをし、周辺勢力及び幕臣をこちらに引き込み、時期を見て将軍を追放、朝廷より征東大将軍(征夷大将軍とは別)の地位を引き出し、東国の諸国を平定、そうなれば敵はおらず幕府を新たに創るも良し、新たな枠組みを創るも良しであろうな」
「それが大内にとっての理想か」
「まぁ全てが上手くいけばこうなるだろうが九州の雷神や越前の朝倉、東国の三大強国(今川、武田、北条)と一筋縄ではいかんだろうな」
「···話を聞いてますます安慈殿が欲しくなった」
「私は仏門に居る身。民を豊かにするのに注力するまで···」
「また話を聞かせては貰えないか」
「できれば先触れを出して頂きたい。待たせる事になるのでね」
冷泉隆豊との話は終わるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます