四つ角のビル上の大時計が11時59分。白き光に包まれた誠実さ醸し出す街の、『四つ葉屋百貨店』へとそよ風にサマーコートの裾を捲られるも、赤髪ミディハーフアップヘアの後ろ髪までも翻されつつ「おしゃれしていいしね、太浪」の思いで入って行く響妃美華。


 尖りツインの帽子屋根のホテル――白い光に包まれたレンガ造りで楕円形の玄関口から……チュニック丈グレー系プリントTシャツにロールアップミリタリーパンツでサンダル履きの私服で出て来る北条仁美……。

「休憩時間が二時間はありがたいわ。銀座まで行ける。フフッ」と笑みを浮かべる仁美が営業用お団子ヘアを解放した……ヒップ上までの明るめロングヘアをサラサラ靡かせつつ……スマホをポケットから出してピッとさせ! 歩道を軽い足取りで行く……。

 ヨーロピアンな鐘の音が、ガラーン、ゴローンガラーン……と奏ではじめる……12時の時報。ポケットにスマホを持ったまま右手も突っ込んで、地下へと消える一瞬の、左の横顔が……フフッと、言った感じに笑みがまたまた零れる。


 遠くで奏ではじめたガラーンゴローン……の鐘の音。デパートエントランス口を入ってきた赤髪妃美華が……そのままフロアを奥へと行く……。

一階フロア案内板のコスメ各種店舗明記があり、『……flournosecologne』の店舗を確認するためか? 一瞬その眼(まなこ)が横に流れる……。


 地下鉄丸ノ内線の車内――乗客の混み具合はそれなりで……進行方向左側のドア前の座席の横に立っているミリタリールックの北条仁美。その視線の先は地下の暗い壁で……脳裏の忌(い)まわしき記憶を投影するかの如く……見詰めている……。

 暗がりに投影されている北条仁美の記憶は……「かあさん! 真紀ィ……目、開けてよぉ」と薄暗い霊安室で、すすり泣く父の北条玄平が背後で見守る中。姉の亡骸にセーラー服を着た自分の腕が縋って、滲む視界で呼び続けているJKの北条仁美……。

「母さんと待ち合わせの銀座に、近道路地を行こうとしたとき、レイプ魔に襲われて……どうやら、無理やり……」と、すすり泣きを堪えつつ状況を話す玄平……「母さんが駆けつけたときには、もぉー二人とも亡骸状態で。警察に寄れば……母さんがスマホを握りしめたままで……俺に電話する画面で壊れていて……逃げたレイプ魔を捜査してくれている」

「でも、でも、真紀も、かあさんも……もぉー」と言った途端放心状態になる自分の脱力加減が……怒りと悲しみの限界点を超えてしまったときの涙など出もしない極限に達してしまっているJK仁美!

 地上ではなくとも明るくなった目の前のホームに、『銀座』の案内文字を見たミリタリールックの仁美がハッとして、(ええい、お給料も出たから。今日は憂さ晴らしに四つ葉屋行ってみようっと)と地下鉄丸ノ内線をホームに降りる。


 その視線が! 『flournosecologne』の店舗ロゴの香水屋を捕え……さらに近づく。「あのぉーアハッ」と視線の主が店主女子にあっさり気楽に声をかけると。「あら、いらっしゃい、妃美華さん。スゥー」と鼻を吸う……「うん。いい匂いです。やっぱりお似合いですよ、ローズとミントの配合コロン」

「ウフッ。今日もお願いできます?」と何処から出したのかスプレーミスト式で手に収まるサイズの容器。「あ、はい。一時間ほどお時間下さい」「なら、上に行って来るから。エヘッ。新作ブティック見てくるね」と手を挙げて行ってしまう赤髪妃美華……。


 地下口から四つ葉屋百貨店に入るミリタリールックの北条仁美……。入ったエントランスからエスカレーターで上階へと行く……サラサラロングヘアの仁美。

 後から入ってきた見覚えのある三人つるんだ男らが……サラサラ髪がヒップあたりでセクシーアゲアゲな感じに、そそられたのか明らかなる色眼鏡で見つめて……頷きあう。「いい」「誰が射止めても」「いいってことで」とエスカレーターで後を追う……。足下から上に向けられた助べえな三つの視線が……脳行ってしまっている素足サンダル履きの締まった足下を捕えるも。つゆ知らずのサンダル足は、とっとと行ってしまう。


 プリティなウーマン状態の赤髪妃美華……レディースブティックフロアで、各種ブティック表示のブース内で品定めして……とりあえずな洋服を沢山お買い物用カート籠に放り込んで試着室コーナーに行く。「アハッ。いつものお姉さま、お願い」と空気の如くついてきた女子店員に、「手伝っていただける?」とお願いして、ニンマリの店員の色に了解を見る。「まずは、ゆるTとショートを」と手渡されたブティックを手に、カーテンを閉める赤髪妃美華。中で着替えて……カーテンを開けて、「ウフッ、どう?」と店員に見せて……次の服を要求し、またカーテンを閉める。

 ゆったりネックTシャツとショートパンツ――ブラ魅せゆるシャツと花柄ミニスカート――紐無しセクシーショルダーオープントップスとフレアスカート――サラサラ花柄ワンピースインナーに羽織るだけ黒系ジージャン……出ては入ってを繰り返す赤髪妃美華の試着コーナーに人だかりが……うっすら出来はじめる!


 ご存じ警視庁の庁舎ビル――とある廊下を歩く芝田竜次巡査部長と南城真美巡査……。

「あ、小江戸のおっさん。防犯カメラ映像をSDデータでコピー……」とスマホで話す芝田竜次に。「ああ、PDFの方がいいよ、竜次さん」と横槍を出す南城真美。

 目を剥いて見る芝田に、「これでもIT関係エクセレント級なの!」と真美。

 スマホ画面をタッチ操作して、また耳に当てる芝田。「あー例のことで何か進展情報は?」

「北関東郊外の採石場地下保管所でパクられちゃった、発破用ダイナマイト100本入り木箱! どうやって、運び出すの?」と南城真美巡査が小首を傾げる。「下野所轄署から、まだか。ま、難儀しそうだが、ヨロシク!」とスマホを切る芝田竜次巡査部長。


 四つ葉屋百貨店のレディースフロアで他のお客の迷惑顧みず……ファッションショーを展開している赤髪妃美華を。下からエスカレーターで上がってきた北条仁美がその疑い深い光景に驚くも……色とりどりなオーラ出まくりのスレンダー女子にすっかり虜になる。

「ねえ、イケビッジさん。ふふっ。撮っていいですか?」と愛想笑い顔で近寄り……スマホを向ける仁美。

 一瞬、「エヘッ!」と驚いた赤髪妃美華だったが、「アハッ。写真ね。いいわよ。アタシに後でちょうだい! ウフッ」と微笑むも衣装選びが佳境となっていて手が止まらない……七分丈スカッツパンツにピンストライプのジャケット。インナーはセクシーとおり越しのエロ可愛い魅せブラ一枚状態でソフトピンク的オーラを放つかのようにポージングする赤髪妃美華!

「ふふっ。うう、ん!」と連射で角度を変えつつ撮りまくる仁美……。

人目の人目も憚らず。むしろ周囲のカップルらは、カノジョすらスケベ面カレシの頬を抓るが憧れ的眼差しを注いでいる……お試ししまくる赤髪妃美華……ファッションショー。

 撮りまくっているうちに……「よおぉーし!」とスマホをポケットに仕舞った仁美も……赤髪妃美華につられて、競うように……ツイントップアパレルファッションショーを展開する……その場モデル化の美形女子ら。

 麻地のロング裾丈ジャケットに、ミニスカの妃美華!

 白の臍だしトップスに、ダメージブルージーンズの仁美!

 白一色の魅せブラ、ミニスカ、網目サンダル、ショート丈ジャケットの妃美華!

 麻地部分網目ショート丈ワンピに、ライトブラウングラディエーターサンダルの仁美!

 スミレプリント柄のベルト付き白地ワンピに、ボタンなしショートベストの妃美華!

「あ! それ、そのワンピ、いい! ふふっ」と口走ってしまう仁美。

「エヘッ。決めた!」と店員に服を数枚手渡す赤髪妃美華。

 *   *   *

「これとこれ。あと、これも」と付き合っていた女子店員に手渡す三種の洋服……。

 お試しのウインドウショッピングを終えた北条仁美が、脱いだ花柄ワンピースを元の位置に戻している。

 三つの包を……店員に差し出された赤髪妃美華だったが、「これ、ペパーミントグリーン系の花柄ワンピは別の袋にして、エヘッ」とモノ申す。

 後ろ髪惹かれる思いで、「楽しかったです。ありがと、ビッジお姉さん」と赤髪妃美華の後ろを去ろうとする北条仁美。

「アハッ待って」と言いとめて店員から別に渡された包を仁美に差し出す。

「ええ? 何? くれるの? アタイに?」と仁美が半信半疑でも手にするワンピースが入った包。

「オホッ。付き合ってくれたお礼。アタシもご一緒出来て楽しく充実感ありありなときを過ごせたからね」と赤髪妃美華が微笑む。

「……」一瞬言葉を失うも、「そういうことなら遠慮なく」と胸に抱えて微笑み返す仁美。

「お茶しようか。カノジョ。時間ある?」と珍しい満面の笑みの赤髪妃美華。

 スマホ画面の時計『12:34』を見て、「え、ん、あ、はい」と仁美も満更顔をする。

 さらなる上へと、エスカレーターで横一線になって……上がって行くミリタリー仁美と赤髪妃美華……。「あ、ご飯、おごるね。ウフッ」「え?」「付き合ってくれたお礼よ、オホッ」「遠慮なく、ふふっ」と二人の会話も上がって行く。


 どこかの日の光が届かない――薄暗い廊下にある重々しい鉄の扉。『STAFFONLY』の文字のドアをピッキングする紺色作業服の北条玄平五十歳。カチッとした音を耳にして、再度あたりを見て、大き目スーツケースを手袋をはめた手で持って入って行く……。


 赤髪妃美華が四つ葉百貨店一階の……『flournosecologne』の香水屋へと行くのを。待っているミリタリー仁美に。ナンパ野郎三人が声をかける。

「ナンパ! お門違いよ」と凄む仁美。その左肩にかかるブティックロゴ入り紙袋。

「いいねぇ。勇ましい女子っていうのも」とデブ男。

 三人に囲まれる戦う気満々でファイティングポーズをとっている仁美。

「お。やるって?」とチャラ男。

「いいぜ。俺たちも心得は多少あるし」と顎髭男。

 三人が一斉に、仁美に襲い掛かろうとしたとき。割って入って、仁美と背合わせ状態になる赤髪妃美華。その右肩にかかるブティックロゴ入り紙袋二つ。

「警察を」と店員。「待て。あの御三方は。目を瞑るんだ。おい、何となくスタッフの円陣で取り囲め」とクールビズスラックス中年男が指示を出す。

「ピンポポーン。一階コスメスペースでブン太さんが御出でです。お心当たりのスタッフは御越しくださいませ。ピンポポポポン……」とアナウンスが流れる。

「こいつらって」と仁美。

「こいつらん中に、いるぅー候補?」と赤髪妃美華。

「勘弁してって、ビッジお姉さま。こんなクソ男子!」と戦闘態勢のミリタリー仁美。

 打合せ無しの同意の頷きを確認し合った二人のビッジが、間髪入れずに――動き……ものの数秒間で三人を伸して、しらっと見て、何事もなかったように並んで歩き出す……。


 ご存じ警視庁の庁舎ビル――前の通りを行くⅬのエンブレムの白いクーペ。運転する芝田竜次と、助手席で車窓の流れを見ている南城真美。


 奥で人だかりの中に倒れているナンパ男ら三人を顧みず、四つ葉百貨店エントランスを出て行く……ミリタリー北条仁美と赤髪妃美華。スマホを見た仁美が、「あ、タクシー」と。赤髪妃美華が、「アタシもだから」と。無傷の三つの紙袋を持ち、まるで姉妹の如く……。


 通りを走るⅬマークの覆面車――フロント越しに芝田竜次と南城真美。

「そういえば、腹減った」「お昼まだだもん、竜さん」

 Ⅼマークの覆面車が『ガスディー』看板のファミレス駐車場へと入って行く……。


 銀座通りで――タクシーを拾い……「駅」「丸の内口へ」と見詰め合い乗る仁美と妃美華。


 その車内では、「そういえば! アタシ、妃美華、響妃美華」「そうでした! アタイは北条仁美」「エヘェー」「えぇー」『あのホテルで働いているのぉー!』と流石にリンクする二つの美声……今日いちで盛り上がった互いの共有の瞬間だった!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る