ご存じ警視庁の庁舎ビル――捜査課の今はクリーンイメージの壁のないフルオープンの大フロア。窓に背を向けるデスクで年配男が、目の前のデスクの島に向かってがなる。

「おい、爆弾の件はどうなっているんだ!」

「デカ長。目下捜査中ですが。通報があったのが今朝ですので」と待機している若気なスーツ男が答える。その真正面でPパッドを見ている今時ルックのアラサー女子。

「で。新設捜査第四課班長の芝田はどこだ。連絡は」とがなるデカ長。

「さー。あれから連絡は入っていません」とアラサー女子が答えて、Pパッドを弄る。

 ――画面に、東京都全域の地図が出るが……なんら変哲もない地図!

「気配消していますよ。芝田さんら」とモノ申す若い男。

「何処に雲隠れしているんだぁー芝田らは。二時間は経っているんだ。何か手掛かりぐらいは……」と些か呆れ口調になったデカ長がドッカリと椅子に座る。

「デカ長ぉさぁん!」と、南城真美の声がして……。

「少し厄介な事件が……」と芝田竜次の声も続いて……。

 声のした方を見るデカ長。と、待機中の若い男とアラフォー女子のデカも見る。

 別室に行くようにとボディサインを送っている芝田竜次と南城真美。

「なんだね」とムクッと言った感じで立ち上がったデカ長が……芝田らに近寄って行く。

 目深に来たデカ長に……口の動きを手で隠し耳打ちする南城真美。

「女子の方がいいでしょ、デカ長さんも」と小言で話す芝田。

「まあ南城君が気にしないのなら……」とデカ長。

 耳打ちし終わった真美も、「まあ、デカ長さんもギリ、なしよりのありっていうことですね」と口走る。「なしか? ありか? 男の魅力……」とデカ長が呟く。

 少し行ったドアに入って行く芝田と真美とデカ長……閉じるドアに、『MEETING・ROOM』のプレートが貼ってある。


 同・MEETING・ROOMの中は、いっさい窓のない壁のみの天井に照明機器とスピーカーと空調の送風口。十人が座れるほどのブリーフィングテーブルが中央にあり。出入りドアの対面壁に……向けられている今時タイプのルームシアターデジタル映写機。

 ドアが開いて……デカ長と、南城真美と、終いに芝田竜次が入って、ドアを閉める。

 真美が左腰のショートなポシェットから白いスマホを出して……起動準備する。

「まあ、少々お時間が」と真美がデカ長に言う。と、同時に芝田も適当な位置の椅子に腰かけて、「デカ長も」と。「なんで、儂が格下に指示されるんだ」と言いつつも座るデカ長。「新設するなら役職上下もキチンと。兼任でなく……本部長殿は」とデカ長のぶつくさも。

「これを見てください、デカ長さん」と真美がスマホ画面をタッチ操作しつつ……。

「何が始まるのかね、南城君」

「見るはやすしで。デカ長」と芝田。

「できた。行きますよぉーデカ長さん」と真美がスマホ画面タッチする……と!

 照明が落ちて……ドアの対面白壁に……動画映像が流れはじめる……。


 銀次の一件の映像――KINGの部屋のリビングで、ソファに座った持田銀次が、小江戸支配人の立ち合いで、芝田竜次と南城真美に、事情をつべこべと話している――映像が流れる。壁に投影されたスマホ画像の片隅に、11:45の現在時刻。


 ツインの尖り屋根のホテルのKINGの部屋――開かれた扉の向こうにキンピカイメージのリビングを臨みつつ持田銀次が、ベッドに置いたスマホに話しかける。

「ああ兄さん。支配人の紹介できた二人のデカさんに話したよ」と銀次。

 スマホから持田金雄の声が返って来る。

「何もかも分からん人探しは、デカさんらに任せて……」と金雄。

「正体がつかめれば……」と銀次。

「ああこっちの流儀で落とす!」と金雄。

「サイバー事は立証が難しい上に、時間もかかる、司法主義では。時は金なりの俺ら事業家には致命的に無駄な時間を有する」と銀次。

「金じたい戻ってくる保証もない。こちら流儀の尋問で……」と金雄。

「ああ兄さん。いい女だったが、あの細腕では数秒で吐く」と銀次。

「それで致したのか?」と金雄。

「いいや、シャワーから出てきたら消えていて」と頭を掻く銀次。

「とりわけ、腕利き闇ハッカー娘を見つけた。データハッキングはこちらで追う。デカさんらには女を突き止めてもらえ」と金雄。

「持ち帰って、内密に、必要最低限のデカさんのみで動くと言っていた。ま、デカさんが嘘をつくとも思えない。公になるリスクのことは言っておいたよ、兄さん」と銀次。

「そうか。支配人に昨夜の防犯カメラ映像を送るように言ってくれ。こっちでも追ってみるがな」と金雄。

「モッチーエージェント始動だな、兄さん」と銀次。

「おい!」と、がなる金雄の声。

「ああわりいわりいー。兄さん。隠密だったな。でも今は俺しかいないぜ。じゃ動きがあったら連絡するよ、兄さん」と銀次がスマホの『切る』をタッチする。

 スマホの画面に、11:50の大きな文字が出て、スリープ画面となる。


 警視庁のMEETING・ROOMの中で――壁に投影されたスマホ映像を見ているデカ長と、芝田と、真美が話す……。

「と、言うことなんです、デカ長さん」と真美。

 顎に手を触れて悩んだ感じの芝田。

「ううん……ん。ガイシャがガイシャだけに……ぃ。よしこの件も二人に任せる。爆弾の件もだ」とデカ長。

「ええぇー爆弾はどなたかに、お譲りしますよ、デカ長さん」と真美。

 白壁の映像が――ドレッサーに書かれた『……I got』の口紅文字で止まっていて!

 それを見つめるように顔を向けて顎を弄っている芝田竜次。

「いいや南城君。方針は変えられんよ。殉職でもない限りね」とデカ長がクッキリ笑う。

 なっていたしかめっ面を緩めた芝田が、デカ長を見て、角口をする。

「なにかあるか、文句が。本部長預かりの新設四課班長が巡査部長は異例で。警視庁配属巡査だが、南城君。お前さんが芝田君の、本部長推薦のバディだ」とデカ長。

 ニンマリと頷く真美がスマホを回収すると、照明が昼間でも外光の無い室内の明るする。

 ……目の焦点がどこか別方向にあるようで、真顔で首を振る芝田。

「巡査部長。何かあるのか?」とデカ長。

「ええ、胡散臭くて」と芝田。

「そうね、如何にも女子を垂らし込みそうなヤバジゴロだったわ」と真美。

「持田銀次と言えば、金雄の弟で。君主テキ金雄と軍指テキ銀次の……金角銀角と言われる凄腕の……」とデカ長がポケットからスマホを出して、起動させた画面をスラッシュなどして……映写機にレーザーを向ける。

 と――また程よく暗がりになって、先ほど投影していた壁に、『事業家・金角銀角兄弟が新世代を築く!』の見出しのビジネス誌の電子版記事映す――

「この通りで、国家も一目置いている二人だ。隠密にプライベートは処理するのは分からんでもないことだ」とデカ長。

「へぇー知らなかった。そんなにスゴイ人だったんだ」と真美。

「まぁ表向きはな」と芝田。

 頷いた真美が、右手を表と裏を繰り返す。

「おぉーそこは分かるんだ、南城も」と芝田。

「だから、名前で呼んでって。竜次さん」とモノ申す真美。

「今は、デカ部屋だ、いいだろ南城で」と芝田。

「日ごろからの癖付けが必要でしょ、竜次さんったら」と真美。

「……」と口パクするも言葉を選べずの芝田。

「おい、そういうのは後でやれ。この一件は隠密に二人と儂でやる。上にも現時点では内緒にする」とデカ長。

「ムフッ」とソフトに握った両手を口の添えて笑い……「デカ長さんの、そいとこ好き」と惚れ顔を向ける真美。

「からかうなよ」とハンカチを出して額を拭い……「南城君。どうせ無いんだろぉ、儂は」とデカ長。

「あら、デカ長さんも焦れるんですね。可愛いしッ」とウインクする真美。

「爆弾の方は、今のところ手がかりはありません」と芝田。

「ボムが爆弾で。銀次はヤバジゴロで」と真美。

「ま、いいんじゃないっすか、デカ長」と芝田。

「よし。その隠語で行こう、芝田竜次巡査部長。南城真美巡査。改め二件の捜査命令を出す」とデカ長が、むくッと立って胸を張る。

 南城真美巡査が気を付けして十度の例をして。

 芝田竜次巡査部長も、「はっ!」と単発な返事で、十度の礼をする。


 四つ角のビル上の大時計が11時55分。魅惑いっぱいの夜のネオン街も、白き日中の光の中にあっては誠実さも醸し出す。停車可能な路肩でタクシーを降りる赤髪妃美華。


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