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ツインの尖り帽子屋根の東京駅のホテル――若干北に位置する丸の内地下道口から地上に出てきたパープル系スーツを羽織って、前髪を自然に垂らすサイドバックで襟足長めヘアの芝田竜次と。アウター白系ボレノとビスチェ、ポシェット付き腰ベルトをしたピンクボトムルックで、長めボブヘアの南城真美が……体を寄せ合う恋人設定で、人の流れに身をゆだねるように……白い光に包まれたレンガ造りで楕円形の玄関口に入って行く。
「ああ、支配人の小江戸さんを」と、いきなりフロントでかます芝田竜次の声。
フロントのあるロビーのエントランスでは、キャスター付きトランクや肩にかけた大きなバッグを持った宿泊客を送るスタッフらの時分にあって……その片隅で立ち話する芝田竜次と南城真美。対峙する小江戸支配人……。
「お待ちしておりました、芝田様。支配人の小江戸がご案内します。さあこちらへ」と支配人。
「芝田様って。何か下心でも、小江戸のおっさん」と芝田竜次。
「まあ、今は、格式高いホテルの支配人業務中につき、便宜を図ってもらおう、芝田君」と顔を近づけ……先より声を潜める小江戸支配人。
二人のやりとりを黙って上目線で窺っている南城真美だが、その口が膨らんだり、しぼんだりと、何か言葉を挟みたがっている様子……。
「っで。要件は。支配人」と芝田竜次。
「セレブ持田様の一件でして……何か厄介ごとが……」と支配人が二人のみに小声で話す。
「持田って……持田コーポレーションの?」と、ようやく声を出せて通常に話す真美。
「流石はその手の貉様。察しがいい」と、にっこりと笑い顔を真美に向ける小江戸支配人。
小江戸の様子から只ならぬことと察して、「シィ!」と芝田竜次が真美の口を塞ぐ。
ニカッと笑った小江戸が、「まあ立ち話も何なんですので、あちらへ」と手を差し伸べて……エレベーターを示す。小江戸を挟むように歩き出す三人……。
「あ、一応、後輩の南城だよ」と小江戸の紹介する芝田。
「一応って、私は竜次さんの付録?」と不服顔の真美。
「はい。改めまして。支配人の小江戸です。お見知りおきを」と小江戸が丁度来たエレベーターに……中に乗っていた客人らの出るのと丁重に整理して、芝田と真美を手招く。
芝田竜次と南城真美が……小江戸支配人の案内でエレベーターに乗る……。
「あ! 竜次さんの友達に、確か?」と小首を傾げる真美。
「ああ、わたくしの甥です」と小江戸。
エレベーターのドアが閉じた中で……「身内ごとだ、トップでシークレットな、南城」と口止めする芝田。
「もーいうまでもないし。それに、恋人設定ですよ、竜次さん。真美って呼んでよぉ」とブー垂れ口調の真美。
四階でエレベーターを降りた三人――自然で結果的にレディーファースト気取りになってしまって先にエレベーターを降りる羽目になった南城真美が先に客室ドアの前に行く。『QUEENのお部屋』のプラチナ文字がドアにあり。ドアノブのカードキー差込口に意味深な擬態しているデバイスプレートタイプが後付けされているが、高級ホテル泊りなどには無縁の南城真美には、変な感覚すらなく……そんなものかとドアノブに手を伸ばす。
「おい。こっちだ、南城」と芝田に注意されて、声のした方を見る真美。
些か距離のある降りたエレベーターの向こう側で、小江戸支配人と芝田竜次が薄笑み浮かべてこっちを見ている。そこにドアがあるのであろう……廊下壁の凹みの前で。
「ええぇーそっち、竜次さん。降りるときに教えてよ。右か左をね」と若干ブー垂れ顔も見せて……でも、スキップじみた歩調で、小江戸と芝田が待つ方へと行く真美。
「なにか? 浮かれていますね、南城様」と小江戸。
「いいえ。でも、こういうホテルの客室って、入室するのって何故かワクワク気分になっちゃいません?」とドアに向いた横顔がにこやかな真美。
「ま、ラブホ経験ぐらいはあるんだろ、南城だって」と芝田。
「やーぁだぁー。そんな。コンプライアンスアウトですよぉー竜次さん、ったらぁ……」と照れまくっている真美。
「おおーおぉ……」と顔を引き「え!」と驚くもニヤケる芝田。
小江戸は支配人的フォーカーフェイスをキープしている。「さあ、こちらです」とドア横のボタンを押す小江戸。「支配人の小江戸で御座います。ご面会人をお連れしました」
小江戸の呼びかけから些かの間をおいて……カチッと音がして、レバー式ドアノブが降りて、中から持田銀次が顔を見せる。
「おお、支配人。来たか。待て」と一旦ドアを閉じる銀次。が、すぐ開けて三人を部屋に招き入れる。
内側に開く『KINGの部屋』のドア……支配人の小江戸が、「失礼いたします」と、お辞儀して、一歩先に入って横に寄り。芝田竜次と南城真美に入るように手で誘導する。
真美が入るときに、ドアを見て小首を傾げるも、部屋が違うのでドアにも若干の違いがあるのかとスルーする。『KINGの部屋』のカードキーデバイスにお洒落観は有れど通常のモノで、変に盛り上がったり被せたりの無いシンプルなモノなのだが……。
支配人も、『QUEENのお部屋』のドア自体、壁の凹みで見えずに疑いようもない。
一方では。庇屋根で薄暗がりの八重洲口タクシー乗り場で順番が来て、タクシーに乗り込む響妃美華。「銀座四丁目まで」の指示を受け、テールランプを赤く点灯させたりして……徐行で公道へと走り行くタクシーの後部シートに乗車している赤髪後頭部の響妃美華。
KINGの部屋で――突っ立ったままの芝田と真美と小江戸に、リビングソファに座った持田銀次が対峙する。
「それで!」と真美が口火を切る。
「実は、大金をやられてしまって、お嬢さん」と銀次。
胸前で腕組みして三人の様子を見守っている芝田竜次。
「何があったのですか、銀次様」と小江戸。
「昨夜俺の店の前で、フウカと名乗る古風な女に……」と立ったままの三人に上目をちらつかせ、時頼その目が左上を見るも……昨夜の出来事を話しはじめる銀次……。
* * *
明治から昭和を経て二代目のビル上の大時計が10時を示している夜のネオン街。大きな通り中ほどのビルの前に、一台の黒っぽいワゴン車が横付けする。『しのぶ』などの高級クラブの表札がある一階玄関口自動ドアから幾人かの部下を従え出てきた持田銀次に、突然ぶつかり、腰にしがみついてものを申す……黒髪オカッパヘアの古風女子の響妃美華扮する風華。
スケベ心全開の銀次が紳士的に対応し、強張り頼られた風華を庇うため……ワゴン車で行く。
魅力的な都会の夜景の一角――ヨーロピアン調でツインの尖り帽子屋根ホテル前のロータリーに横付けした黒っぽいワゴン車から下車した銀次と風華が、ホテルの玄関口を入って行く。
ホテルのエントランスロビーのフロントで、係からカードキーを受けとった銀次が風華とエレベーターに乗り……こげ茶の柱縁に白壁調の清楚な感の廊下を通り……『KINGの部屋』のスイートルームに入室して……ルームサービスをとってリビングで寛(くつろ)ぐ――ところまでを銀次の都合のいいように話し……。
現在の『KINGの部屋』客室で――南城真美と小江戸支配人は立ったままで聞いていて……聞きながらもリビングをウロウロと歩き回っていた芝田竜次が、一旦銀次を見る。
「それで!」と些か強い口調で問う真美。
「風華君の怯えが納まって、お礼にと体を寄せてきたので。俺も遠慮なくと。古風で俺好みのいい女だったし」と銀次――また続きを独壇場に話しはじめる。
* * *
「ねー銀のお兄様。シャワーしてきて」と風華が上着を取って……。
「そうだな、お嬢……風華……」と銀次がリビング壁の凹みに行く……。
「ピカピカにしてきて、あそこもね、キャーッ」と風華がソファのクッションを抱いて、上目遣いに見る。
* * *
――「俺は、そのままシャワーに入って」と三人に話す銀次――
「バスローブ姿で出てきたら、姿が無く。それが」とドレッサーを指差す銀次。
ドレッサーのミラーに、『もう一度顔のチェックをね。I got!』と口紅文字!
ドレッサーにお試しコスメの箱入り口紅が一つキャップを外した状態で置かれている。
リビングソファのテーブルに、縁に引っかかるように投げ置かれている帯付き札束!
「っで、何を盗られたんです?」と芝田が根本的なことを問う。
「俺は酔っぱらっていて、シャワーを浴びた後でもあったので、ここで寝てしまった。今朝目が覚めて、兄さんからの電話で知ったのだが。電子マネー資産が0になっていて……」
「そのことと、今のお話は、何か関連が御座いますか、銀次様」と小江戸。
「あの! 口紅文字が証拠だ!」と話す銀次……。
テーブル上の帯付き札束を、ハンカチを使ってパラパラとめくってみる芝田。
「どうやったのかは知らんが、あの女が色仕掛けで言い寄って来て、雑誌とかで俺が金持ちと知って、この国自体がまだ盲点となっている電子マネーのデータを、故意に操作したとしか。クラブで遊ぶために現金化したのが昨日の夕方で。二百万ほどをな。数億単位の残高はあったのは確かだよ」と語る銀次。どこかしか金持ちドヤ顔口調もちらほらで……。
「あの札束は?」と訊ねる真美。
「ああ、お金を貸そうと」と銀次。
「うううん……」と小刻みに頷く芝田。
「ま。ことが事なだけに、分かるよな刑事さんなら。兄さんほどではないが」と銀次。
「内密なことですが、私たちだけではどうにもですよ、ヤバジゴロさん」と真美。
「一旦持ち帰って、上の判断も。でないと。単独ではサイバー的犯罪は手が込んでいるようなので」と芝田。
「そこをなんとかならんのか? 威信(いしん)にかかわるんだよ」と銀次。
「ごもっともですなぁ。皆様が仰っていることは。ですが銀次様。警視庁もバカではありませんよ。個人情報漏洩(ろうえい)は流石に謝罪せざるを得ないでしょう。特に、お兄様が世界にも名だたる国内では有数のお金持ちなんですから……」とニンマリする小江戸。
廊下に出てきた芝田と小江戸。続く真美が、廊下奥を見て目を剥く。
向こうからベッドメイク用品の乗ったワゴン車を押してくる……メイド! メイドもこちらを見て、目を剥いて。こちらから真美が、向こうからメイドがて、『タアー……』と、気合を入れて走り合って! 出会ったところでいきなりの、バシ、バシッ! の鈍い音が廊下に響く。互いに繰り出したパンチが互いの腕をクロスして、それぞれの頬を射抜くように殴っている。小江戸支配人が手を前に出して固まって。芝田竜次が胸前に腕を組んで渋った顔をしてみている。必然に捲れたその左の袖から顔を出したアナログ時計。
一瞬の間が……アナログ式腕時計の秒針がひと目盛り分刻む間の沈黙! があって、カチッとなった瞬間! 『ブフッ』とまた沈黙の場から堰を切り時間が流れて、『ムハッ、ウッハハハハハハハハハァー……』と乾いた感じの笑い声で場を包む南城真美とメイド!
「……ハハハハハハ、ハァーア! 鈍ってないね、真美」とメイド。
「ううん、そっちこそっ。北条仁美」と真美。
「ううん? どうしてフルネーム?」とメイド改め、北条仁美。
「ああ、だあってぇー。久々のヒトミーズパンチだったし。それにあることへの便宜上のことでね。後者は気にしなくていいよ、私たち登場人物はね。仁美」と北条仁美らその場に居合わせるキャラたちには何の事やらなことまでお気遣いいただいた南城真美が語る。
親しき女子らが再開した時の……詰め寄り手や体をくっつけ合ってベタベタする……ボディパッションをしあっている北条仁美と南城真美……。
「何だったんだ?」と流石に目を丸くする芝田竜次。
「あ、北条君。こちらのお部屋のベッドメイクはまだいいから、そちらを」と手を差し伸べる声踊支配人。
「え? はい。でもこちらもドアノブに『NON MAKE』の札が下がっていますよ、支配人さん」と北条仁美。
「なら、下の階をお願いします。北条君」と小江戸。
「畏まりました。支配人さん」とワゴンを回転させていこうとする北条仁美。
「あ、仁美。お友達シールドしてる?」とポシェットからピンクのスマホを出す真美。
「あ、ん、いいよ、繋がろ」と振り向いてスマホをエプロンポケットから出す仁美。
交換したスマホをポケットに仕舞って、「ジャッ」と、くるりとターンして、ワゴンの押して行ってしまう北条仁美の……後ろ姿。
「うん」と返事して、「フフッ」と笑う真美に。背撫で見ていた芝田竜次が問う。
「どういうことなんだ? 何故いきなりのクロスカウンターパンチ合戦なんだ? 南城」「ああ。向こうが力石で。私がジョー推しなんです、竜次さん」と半身ふりかえり、舌をペロンと出し入れする真美が……意味深に微笑む。
「え? ジョー? 力石? なんだそれ?」
「関係ないわ、竜次さんでも。さあ行きましょ。デカ長に色々と報告でしょ、竜次さん」と正面向いて歩き出す南城真美。
「ま、そうだな。って、指示は先輩の俺が出す」と後に続く芝田竜次。
whyをジェスチャーの両手を脇で肘から上に折り曲げ肩を竦むポージングを自然と出した支配人の小江戸も……続く。
ルームクリーニングのワゴン車を押したメイド姿の北条仁美が廊下を来る……エレベーター前の壁に、『3F』の文字前を通過して、まだドアが閉じている客室の前に来て、ドアノブの、『checkout』の掛札を確認して、メイドエプロンのポケットから出したスペアーのカードキーでドアを開けて、ドアキープ状態にして客室へと入って行く……。
ベッドに使用済み寝具を根こそぎ剥いで床に置き……新たな寝具でメイクする。ワゴンに置いた寝具を突っ込んで……と、部屋をセットしていく北条仁美。レストルームもきれいにして……掃除機をかけ端模様としたとき! 呼び出し音が鳴り……ポケットからスマホを出して、『友ッシー』ホーム画面を見る北条仁美が『矢吹真美』と、唯一だったもう一人の履歴をタッチする。
――画面に、『48h・angjt・bkh』とコマンド――
確認しただけで、起動もせずに、再びスマホをポケットに戻して作業を続ける北条仁美。
表情を複雑に変化させた北条仁美がスマホをポケットに突っ込んで……窓辺に行って外を若干眺め……(白の輝きが増した駅前ロータリーの光景が見えて)閉めて、ワゴン車を押して出て行く仁美……。
閉じるドア。カチッと閉まる音! シーンと静まり返った清潔新品同様になった白壁ベースのツイーンの客室。
タクシーで移動中の妃美華。フロントガラスやらの車窓が、昼の顔の銀座に入っていく。
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