4
人の行き来が出てきた――駅の地下北口自由連絡通路の階段を、『八重洲口』へとグラディエーターサンダルの爪先を段に付けて通常の速さで上がって行く響妃美華のローアングル。スキニージーンズは黒で。ホワイト系の要するにライトグレーでピンストライプ柄のサマーコートの襟にかかる……ミディで赤髪をバレッタで止めたハーフアップヘア。
上から降りて来る……カジュアル系の若い男女は、芝田竜次巡査部長33歳と南城真美巡査24歳だが、一見仕事上の先輩後輩若しくは恋人も想像できる設定で、すぐさま刑事とは思えないであろう……。
擦れ違いざまに……芝田竜次巡査部長と南城真美巡査の話し声が、妃美華の特殊な能力を使わずしても聞こえる。が、ま、一般的な人の群れは、他人のそういったことに一々干渉するすべもなく、単なる男女の雑談程度にしか思わない。
が!
芝田竜次がスマホに出て相手を確認してポケットに戻し、左耳のインカムをオンしてごにょごにょと話す。「はい。ああ小江戸のおっさん」
横で竜次の顔を覗き歩く……南城真美!
「え? ホテルですか。おお内密なことで……はい。丁度駅周辺に。はい。行きます」とインカムをスイッチオフにする芝田竜次。
「女の子の誘拐は? 別件ですか? 竜次さん」と、いきなりのフレンドリー口調で問う南城真美。
「いずれも、インしてからだ。ここでは、障子に耳あり状態のリスクも予測できる」
「はい。ではそこまで、今度は恋人設定で……」と、しがみつく真美。
「歩きずらいんだよ、この設定は」と芝田竜次が拒むも。
「ホテルにインでは、このシチュエーション、ありでしょ、竜次さん」と本気で恋人同士を演じる南城真美。
あと数段を残したところで足を鈍らせ……流し目で後ろを気にする妃美華。
階段を降りたところで、止まって、ふりかえる芝田竜次が、あからさまに見る。
「もーいきなり浮気ですか? 竜次さん」とブー垂れ顔の真美。
「だあってぇーイイ女で、いい匂いがしてぇ」と妃美華の背に見とれている芝田竜次。
「もー行きますよ、竜次さん。ホテル! ガン見するなら私にして」と芝田竜次の頬を抓って引っ張って、進行方向に向ける真美。
恋人っぽさを醸し出しつつ……北口自由連絡通路を行く……芝田竜次と南城真美。
振り向いて、「ホテル」のワードをクッキリ耳にして、上から……去り行くその二人を見ている赤目の響妃美華が、昨夜のことを……その人工脳裏に思い浮かべる……。
客室『KINGの部屋』から出てきて……こげ茶の柱縁に白壁調の清楚な感じの廊下で、古風妃美華が赤く輝いて……一瞬裸同然のシルエットが輝きの中に浮かんで……納まると! 赤髪ミディハーフアップでボディラインクッキリな黒のトップスに、黒系ローライズパンツを纏ったスーパーモデル容姿の響妃美華の姿を現す。
「アタシ、現ナマじゃいやなの。データがいいの。この国ではまだコンプリ解明できないんだから、ね! イヒッ」と捨て台詞を『KINGの部屋』の閉じたドアに吐いて……バックステップからのターンで歩く響妃美華。「津々浦々まで行き届かない政策には……」
エレベーターに乗らずにそのまま廊下を行く……妃美華。止まって掌を翳し、ピッと音がして、ドアを開けて入って行く……妃美華。閉じるドアの『QUEENのお部屋』のプラチナ文字表示。「……ほんと、泥棒家業者にはありがたいしね」
その客室は――スイートルームで、シルバーと言うよりは、白金枠に淡いマーブルタイル装飾のリビング。
「オホッ。もーキモイったらありゃしない。例えられた動物が不憫だけれど、蛇みたいに絡みついて豚みたいにクンニンしやがって。くうー、シャワーしようっと!」
と、入って来ていきなり赤い閃光を全身から放った響妃美華が! その輝きが納まると全裸になっていて……ハーフアップ止めのバレッタを外し、テーブルに置き、首を振って自然に髪を解しつつ……星型のちょろっとアクセも揺れて、壁の凹みへと姿を消す。
バシャ! スーパシャ! と、バスルームからドアの開閉音がする。
マッパ(全裸)の妃美華がいった先は、もうお察しの通りで、バスルームだ。
流石は名門ホテル。シャワーを出すといきなりのお湯。湯気が立っているのがその証。
高い位置の固定具に今はかけてあるシャワーのヘッド……一旦止めたシャワーヘッドに何処から出したのか……カートリッチシャワー口を取り付ける。
「イヒッ。アタシは車? 洗車するようにお湯、シャンプー、保湿仕上げって。太浪ったら……エヘッ」とシャワーを赤髪ミディの頭から被って……ダイヤル式ヘッドを回転させる妃美華。次に洗車機の如く液体シャンプーを浴びてホテルのボディタオルでて、腕、上半身に、たすき掛けして背中……と足先の爪や指の間まで丁寧に洗うと、モコモコ塗れとなる妃美華。星形アクセチューカーも泡塗れ。
またヘッドを回転させて戻しお湯を浴びる妃美華……ボディタオルまでモコモコの泡を落としきると。またまたヘッドを回転させる……今度はお湯とさほど見た目は変わりない透明液体が出てきて……その美ボディにつくと若干の光沢のある液体と判明する。
ハンドタオルを用意していて、体を洗った要領で、でもソフトになじませるように全身を拭って行く……と! ヘッドを最初の位置に戻しお湯を浴びるが、カーコーティングの如く! 飛沫を上げてお湯が跳ねる。
「カーワックスよね。イヒッ。でも車じゃないって、た、ろ、お」と囁いて、一体化したチョーカーの星型アクセを揺らし、バスルームを出て行くマッパの妃美華。
脱衣所に出てきたマッパの妃美華が首にかけたハンドタオルを、洗濯籠に放り入れる。
「イッケなーい。居ないんだった、太浪の奴」と吐いた小言を残して、「ま、フローラルはローズでいい趣味ね、元お洒落番長は。アハッ!」とタオルも巻くことなく洗面所もスルーして……。
リビングに出て来るマッパで赤髪ミディの妃美華がライティングの反射でスベスベ美ボディな感じが見て取れる。「アハッ、充電しようっと!」と中間照明に落としてリビングソファも通過して……妃美華が二枚ドアのうち向かって左を開ける……と、そこは、流石はスイートと認めざるを得ない真っ白な寝室。壁も、ベッドも、寝具もすべて白金な感じのシルク地光沢ホワイトの空間。
ベッドルーム――ベッドに仰向け寝そべったマッパの美ボディ妃美華が、プラグコンセント口に右の人差し指と中指を当てる……と、目を閉じる……「ア! いっけない、忘れるところだった。エヘッ」と目を開いて、左の人差し指をインターネット有線通信用のルーターコネクター差込口に当てる。アクセの星型が淡い黄色に輝き……。
「有線じゃないと。こればかりはヤバいわよね、太浪。オホッ」
目を閉じる妃美華の美ボディまでもが淡い黄色に染まって……言い得て奇妙な中世ヨーロッパの画家が描いたような芸術的な……光景だ。
*作者からのお願い事。実際の犯罪行為もさることながら……壁の備え付けコンセントプラグなどに触れると、実際には感電すると思われますので、これを参考に実行するのはやめていただきたくぅー by 音太浪*
天井一点を向けて目を開いたまま眠ったように……芸術主役の美ボディ妃美華の赤髪が、くっきりとシルクの白系にミスマッチな感じが逆によく! 芸術性を高めてしまっている。
ボディはスリープ状態にあっても――その人工頭脳の内部では、未だ本日の出来事情報処理中で……0と1とそれらの数字が重なった羅列処理が猛スピードで行われている――
「ウワーお! しばらくは困んないね。イヒッ」
と、その脳裏では、刻まれた持田銀次の口座から……響太浪の口座へとハッキングした残高額が10億円也! と、加算される――
と! 『使用可能エナジー22%』の自己データ表示がなされていて――電池マークがスマホ画面の如く……点灯する。
ヘッドレストの温度計が24度を表示し――湿度が33%と、出ている。
大きく両手両足を伸ばして……大の字になるマッパ響妃美華が目を閉じて寝言か!
「エヘッ。充電と……ああークールダウンもで、明日活ね。お休み、太浪」
八重洲口地上に出る階段を上がり切った響妃美華が、また振り向く……ゆっくりとした瞬きをパチっ! と、一つして。白い光に包まれた地上の雑踏へと蜃気楼の如く消えていく……バレット止め赤髪ミディヘアハーフアップの響妃美華(ニュートラルな響妃美華をミディ妃美華と、以後称すことにする。by 音太浪)。
閑静な住宅街の中にある公園沿いの歩道――キャメルカラーパーカーを羽織った響太浪が、『Ⅿt.不二の湯』銭湯の『殿方』ドアを入っていく。
同・銭湯内――フリースペースのフロントロビーに……入ってきた響太浪が、「ううん、お!」とポケットからスマホを出して……起動させ、見る。
「やりやがったな、妃美華の奴」とニンマリして、「……赤ジャケット盗人の憧れ女盗賊データラーニングしたからな」と券売機で……スマホ決済して、「……ただ、あの魔性女子観が欲しかったのだが」と『殿方』大暖簾を潜っていく……響太浪。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます