ヨーロピアンクラッシック調の東京駅――丸の内口に100年に渡り居座り続けているレンガ造りの四階建て――ツインの尖り帽子屋根はホテル――今朝もお日様の恵みなる光をその背に受けている。

 内装――玄関口からエントランスを経て――フロントとレストランのあるロビーへ。2階、3階、4階の客室まではエレベーターで一般的には移動する……エレベーターホールが開くドアに見えて……こげ茶の柱縁に白壁調の清楚な感じで廊下が続き……各界の各客室ドア前へと連絡している。例えば4階の二部屋は……『KINGの部屋』の金文字と『QUEENのお部屋』の白金文字各種ドアのスイートルーム。


 東京駅の地下北口自由連絡通路――それなりの人混みの中を、見た目アラサー女子の響妃美華が……薄笑みを浮かべてまっすぐ前を見て、歩んでいく……身なりは手ぶらで、ミディロングの赤毛ヘアをハーフアップにした逆立ちボイルドエッグ型フェイス。星型のちょろっとアクセが揺れるチューカー。インナーの臍だしトップスはニット系の赤で、ピンストライプのホワイトグレーのサマーコートの裾を棚引かせ……黒のぴっちりストレートスキニージーンズ。インナーの赤に近いグラディエーターサンダルを履いたおみ足が力強く颯爽と歩幅を取っている……。

 一瞬止まって来た方を振り返る妃美華。その背に、『丸の内口方面』から『八重洲口方面』への案内板が壁に貼ってある。

 また歩こうとしたそのとき! 抵抗をくったことに足下を見る妃美華のころにジーンズにソフトクリームの白がべったりとついている。転んだ女の子が、泣く寸前の水面の表面張力状態の静かでフリーズのとき!

 その頭脳では……y=1/2・F/Ⅼ……の方式を0コンマ0000000……∞(むげんだい)の速さで解き! 感情に似た言動へと結びつけた妃美華が、「ごめんね」と表情変化は薄いが微笑む。

 強張った色を濃くする尻餅状態の女の子。

 屈んで女の子を立たせて……服の埃程度の汚れを手払いする俄かな笑顔の妃美華。

 それでもどっちつかず状態はまだ、臨界状態な様子の女の子の顔を……一瞬にして分析アンサーした妃美華は、「アハッ。アイス、ね」と問うが、ポカンとしたままの女の子。

「目、瞑って」と妃美華の言葉に。素直に女の子が目を閉じる。見定めて、瞬間移動的動きで無人売店に行って――キャッシュレス決済のピッという音が鳴ると、尋常な目では止まらぬ速さで戻っていて、その手には今女の子が持っていたソフトアイスクリームが?

 他人がどうしようと無関心な周囲は、怪奇現象じみた動きをした女の事実に無関心で追求することもなく平常どおりに行き交っている。

「目、開けていいよ。エヘッ、弁償するね」と頭を撫でて、また微笑む妃美華。

 素直に目を開いた女の子が、流石に目をパチクリさせる?

「ちょおっと。あなた、この子に何を?」と前からレジ袋を提げた女が来て凄む。

 女を見る妃美華の目が、些か赤く点滅するような何らかの干渉を得る。

 女が妃美華をガン見して、その女の子の手を引いて行こうとする。

「保護者さん?」と問う妃美華。

 無言で女は、女の子の手を引いて、行ってしまう。

 その姿を目で追う妃美華が小首を傾げつつ……口角を広げた薄笑みを浮かべて再び歩こうと背を向けたとき!

「ありがとーお姉さん」とその背に贈られた女の子の感謝の言葉が。

「ウフッ」と肩を竦めた妃美華が振り向かずに後ろ手にバイバイしつつ……歩く。

 手を引かれながらも、ソフトクリームを食べつつ……ずううっと妃美華の背に視線を送り続けている女の子。

 立ち止まり、振り向く妃美華。が、もう人混みに紛れてしまっているレジ袋を提げた女に連れられた女の子の姿。

 妃美華が天井を見て、「エヘッ。I got!」とほざく響妃美華。

「よーお姉さん。俺たちとモーニングでも如何?」とカジュアルルックの茶髪顎髭男。

「フー、クールビッジ! 僕たち三人がお相手しますよ」と天然カールのチャラ男。

「それとも、誰か一人選んでもらってもいいし」とパンチパーマの巨漢の貫禄デブ男。

 男どもに、気にも留めることなく背を向けたまま『八重洲口方面』案内板の下を歩き続ける響妃美華。

「よーお姉さん」と後を追う顎髭男。

「フー、クールっすねぇーヤバいっすよ、ビッジさん」とチャラ男。

「とりわけみんなで、朝飯っていうのは? カノジョ」とデブ男。

 妃美華の行く手を遮り、声をかけまくるナンパ野郎三人は二十代半ばで、身に着けている服や装飾のネックレスに、ブレスレット、ピアスなどは高級品ばかり。

 が、いたずら好きの風に苛まれては、仕方ないと言った感じで歩く妃美華。

「よお!」と妃美華の腕を掴む顎髭男。

「暴力だよね」と一瞬にして男の手首をロックして捻って倒す妃美華。

「いて、何すんだよ、お姉さん」と上半身を右肘立てて……上げて、尻餅状態の顎髭男が流石にキレた顔で問う。

「いやーああーイケてるし! ビッジさんは気位高めっしょ!」と左右の人差し指を向けて俄かに軽めな苦笑いを浮かべるチャラ男。

「おお、大事か? ヤスオ」と顎髭男に手を貸して起こすデブ男。「てっめー下手に出りゃーいい気になりやがってええええ……俺はセレブの息子だ!」と両腕を振り上げ羽交い絞めに取ろうと近づくデブ男。まんまと技にかかった妃美華、だったが……瞬きの一瞬に! デブ男が、「うわぁー」と吹っ飛んで――『八重洲口方面』の案内板の壁にドーン! と打ちのめされている。

 チャラ男と、顎髭男が……吹っ飛ばされているデブ男と、お姉さんの妃美華を幾度となく交互に見て……戸惑っている。

「君たち!」と巡回中だった制服警官男子二人組が尋常極まる現場と判断し近づいて来る。壁に打ちのめされた状態のデブ男を見て、「あなたが?」と明らかに妃美華に問うもう一人の警官。警察沙汰ならどこからともなく湧いて出てくる野次馬連中の垣根がとっとと出来上がり……パシャパシャ……など素人記者から向けられるスマホのカメラレンズ!

「この四人で喧嘩してました。お巡りさん」と野次馬からしゃしゃり出るスクエアーバッグに背負われているように背負い、ボヘミアンコーデのボブヘア、眼鏡使用アラサー女子の緑沢青美。「目撃者かな?」と警官が訊ねる。

「はい。ドンと。鈍い音がして、見たらそこの大きな人が壁に飛ばされていました」と眼鏡女子の緑沢青美。よく見れば首に巻いている青ハートちょろっとアクセのチョーカーが。

「では、わかる範囲でいいのですが……」と対応した警官が眼鏡女子の緑沢青美を少し離れたところに誘導し……話を聞く。

 ざわめく野次馬……そのほとんどがスマホのカメラを対象者四人に向けている。自動フラッシュがたかれ……パシャ、パシャ……ツイットやナイン、インストラムなどのインターネット素人投降可能なSNSに投稿しているのはあからさまだ。

 ――自由通路で暴行事件が。まさかのヤサ女子が、巨漢男を投げ飛ばしたのか?――

 ――東京駅構内にて、ナンパからの逆転劇。クールビッジの勝利――

 ――○○○○★○☆○☆彡――

 などと……

職質中の妃美華が……対応しつつも! 眼を赤く点灯させている……。

 と! すべての今のSNS投稿が……無効化されていく。

 ――自由通路で暴行事件が。まさかのヤサ女子が、巨漢男を投げ飛ばしたのか?――

 ――東京駅構内にて、ナンパからの逆転劇。クールビッジの勝利――

 ――○○○○★○☆○☆彡――

 などと……

「あれ? 消された!」「強制削除?」「どうして……」「一瞬ハックされた?」「スマホのセキュリティには反応なしだ」などとスマホガン見して野次馬らがほざく。

 離れたところで証言を終えた緑沢青美が、騒ぎをチラ見して、去っていく。

 こちらでは、気にも留めずに涼しげな顔で職質を受けている妃美華。

「あれ、君。目が赤いが」と気がつく警官。

「身体的欠陥」と妃美華。

「おお済みません。この一件とは無関係なことでした。では、本題に……」とノートタイプのタブレット通信端末機のポリスパッド、仇名はPパッドを活用して職質を続ける。「……戻します。身分証を」ポケットからカードタイプの身分証を出して見せる妃美華。

「ええ、お名前が響妃美華さん。年齢はこちら……」とPパッド画面を示す警官。画面に――に……年9月9日生まれ27歳――と記載されている。

 言葉無くコクリと頷く妃美華。

「身分証明書が……マイナンバーIDで、照会したところ、御職業がフリーのバーテンダー女子さんと」と警官が照会情報読み上げ確認する。

「エヘッ、昨今は腕、上がって、いい稼ぎになっています」と妃美華。

「ええーと。住まいは一定でないようですが……」

「アハッ、アタシのいい人が、夜逃げして宿無し状態なもので」

「今は、おおー未婚で、ほおーホテル住まいですなあー」

「イヒッ、昨今は何とか支払いに余裕が出ています」

 Pパッド画面にマイナンバーIDの源泉済み年収データも――2000万円――とある。

「へえー羨ましい限りですよ。我々公務員の月給からすると」と愚痴を混ぜる警官。

「ウフッ、安定性はゼロですけれど、自由です」

「ま、一度プライベートでカクテル頂戴したいですよ」と警官。

「オホッ、では、今夜、よろしければ、いらして、昨今はここのホテルのラウンジバーで、やっていますから、アタシ」と首を振りサラサラ髪アピールの妃美華。

 香しきミントとローズのコロン香りが仄かに漂う。

 目をトローンとさせる警官。

「ジン系ドリンクなら、一杯、サービス料なしのワンコインでおつくりしますわ、お巡りさんらなら」とウインクする妃美華。

「ああーはあーい」と見事にハニートラップに囚われてしまっている顔色もある警官。

「先輩! 三人の職質完了しました」とビシッ! と効果音がしそうな敬礼をしたもう一人の警官。「どうやら持田金雄氏の御子息です」

「あ! あ、おおーおー、そうだったか」と我に返った先輩警官も、後輩警官にそれなりの敬礼を返して、「では、今夜」と妃美華にも敬礼する。

 ナンパ野郎三人組が横並びに去って行く……。見るともなくの二人の警官……「先輩、顔赤いっす」「いいや、少し職務に集中した所為だよ」「そーっすかー先輩」「ああそうだよ。しつっこいぞ後輩」「そっすか……」ともう三人のナンパ野郎らには聞こえてはいないが……妃美華の耳には推定距離二十メートルの地下自由通路の人混みの中でも聞こえていた。

「……にしてもいい香りだったなあー……」「あれ? 小江戸先輩、ハニー的にやられまくってますう?」「ばーっか。うんなわけ、ないだろーがーでも、何もなければ行くか、和夫」とお猪口で一杯のジェスチャーをする先輩警官の小江戸。「あ、俺、金ないっすよ」と後輩警官の和夫。「おごるよ」「ええいいんすか」「一杯だけな」「え! 一杯だけっすか、セコ」

「イヒッ!」と振り返りざまに笑った妃美華が、前を見て歩き出す。

 視線の先には……舌の根も乾かないうちのナンパ野郎三人組が、大きなリュックを背負った明らかなるティーン女子三人組に声をかけている……「ねえー君たちぃ」「修学旅行かな?」「どう、俺たちが案内しようかぁー」――煙たい感じの仕草を見せているティーン女子ら――歩くルートを若干……ナンパ野郎らの後ろに修正した妃美華が、俊敏な蹴り三発を放つ!

 バシッ! ドスッ! ボコッ!

 天井に、壁に、柱に散り散りに吹っ飛ぶナンパ野郎ら……安堵の色を見せているティーン女子らに、薄笑みを一瞬向けた妃美華がウインクする。

「好みじゃない勘違いザコ男なら、これくらいしても。自分を守るのは自分たちだから!」と、背を向けて後ろ手にVサインのバイバイするバックスタイル……妃美華。

「キャッ」「キュン」「デレー」の表情になってしまっているティーン女子らが、ハッとしてスマホのカメラを向けるが……もうその姿は人込みに、蜃気楼の如く消えている。

「素敵だったね」「このー」と完全グロッキーのデブ男の頭を蹴るティーン女子らだが、蹴り慣れてはいないようで、半紙も破けないほどの威力だ。


 地上へと八重洲口階段を上がって行く……ローアングルの響妃美華……。


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