SUNSET

「ごめん、今夜は夕飯いらない」


 結婚してから二年。

 瑛二さんとのすれ違いが増えている。


 きっかけは、うまくいかない妊活。

 頑張ってはいるものの子どもができないのだ。

 最近瑛二さんは仕事が忙しいようで、疲れているのにあまり無理も言えない。瑛二さんの様子を見ながら、はしたないようだけど勇気を出して私からも誘ったりしてみた。でも、不満そうな表情を浮かべながら、作業的に行われるセックスは、私にとってとても辛いことだった。


「あのさぁ、嫌ならやめるけど……」

「ご、ごめんなさい! 瑛二さん、すごくいいです!」

「……チッ」


 嫌な視線を浴びせられ、舌打ちまでされて、なぜこんなことをしなければいけないのか。それでも、子どもができるまでの我慢だと自分に言い聞かせた。

 ことが終わると、自分だけ後処理して布団に潜り込む。


「あぁ、疲れた。ったく……」


 そんな言葉を耳にしながら、寝室を出てシャワーを浴びる。

 あまりにもみじめで涙が止まらない。

 私の嗚咽は、シャワーの音でかき消されていった。



 朝、私の作った朝食には手をつけず、瑛二さんはそのまま出勤していった。瑛二さんのために作った朝食は、私の昼食。もういつものことだ。


 瑛二さんは何が不満なんだろう。私の何がいけないんだろう。私とのセックスが嫌ならば、もう子どもは諦めた方が良いのだろうか。いくら考えても答えは出ない。私は途方に暮れた。


 ポコン


 チャットアプリのメッセージの着信音。私のスマホじゃない。

 ダイニングのテーブルに目を向けると、瑛二さんのスマホが置いてあった。忘れていったのかしら。



『水曜の夜は激しかったね! スッゴク良かったよ! 今日も会いたいなぁ~。今日は大丈夫な日だからね♪』



 目を疑うメッセージ。

 女の影――


 突然瑛二さんが帰ってきた。出迎える私を押しのけ、慌ててテーブルのスマホを手に取った。


「言ってくれれば、駅まで届けたのに……」


 笑顔で応える私に、瑛二さんは安堵の表情を浮かべる。


「次はそうするよ……」

「気をつけてね、いってらっしゃい」


 私は笑顔で瑛二さんを送り出した。

 でも、それは私の精一杯の虚勢だった。


 私はその場に膝から崩れ落ち、ただ絶望した。



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