HOLY & BRIGHT
年明け、瑛二さんの実家へ伺わせていただき、ご両親に挨拶をさせていただいた。怖いお姑さんだったらどうしようかと、そんなネットの情報で心に影を落としていたが、それは杞憂に終わった。優しい笑顔で出迎えてくれたご両親は、私たちの結婚を歓迎してくれているようだ。
そんな彼のご両親に嘘はつきたくない。私は自分の出自を正直に話した。幼い頃に両親を亡くしたこと。施設で育ったこと。中学卒業後、すぐに就職してそこの専務さんのご厚意で親代わりになってもらっていること。
結婚を反対されると思った。そんな女に大事な息子をやれるかと。
「沙織さんは苦労してきたんだな……瑛二! 沙織さんを絶対に幸せにしなさい! いいな!」
お義父様の気遣いの言葉に涙が溢れ、お義母様はそんな私の背中を優しくさすってくれた。世の中にはこんなにも優しいひとたちいる。だから、私も優しさを返さなければ。そんな強い思いを心に刻んだ。
その後、ご両親と一緒に散歩に出掛け、視界いっぱいに広がる畑を見せていただいた。全部ご両親の土地だそうだ。
「少し売っ払って、沙織さんにプレゼントでも買ってやるか」
「あら、アナタいいアイデアね! 車とか――」
ご両親の会話に慌てる私。それは丁重にお断りさせていただいた。
「私、料理が好きなんで、採れたての野菜を期待しても良いですか……?」
私の言葉に大喜びしてくれたご両親。実家の野菜で瑛二さんにたくさん美味しいものを作ってあげたい! そんな気持ちが通じたんだと思う。
瑛二さんのご両親への挨拶は大成功だった!
勤め先の専務にも瑛二さんを伴って挨拶。私が十代の頃から手厚く面倒を見ていただいた専務。自分の娘が嫁ぐかのように、涙を流して大喜びしてくれた。
ただ、瑛二さんの希望で専業主婦となるので、これまでお世話になった会社を去ることになり、その点だけはとても残念そうだった。
「俺に仲人をやらせてくれ! それが退職の条件だ!」
それは目立ちたいとかそんな軽いものではなく、私の面倒をこれからも見ていくんだという専務の親心から来るものだった。大恩のある専務に仲人をしていただくなんて、こんな喜ばしいことはない。瑛二さんからも「ぜひ」という言葉をいただいた。
結婚の準備、新居の手配、仕事の引き継ぎ……毎日バタバタしながらも、何とか結婚式の日を迎えた。小さな会場でパーティライクな結婚式だけど、ウェディングドレスも着ることができ、瑛二さんのご両親や専務、会社のひとたち、大勢に祝福してもらうことができた。笑顔でいただく「おめでとう」「お幸せに」という言葉に胸が熱くなった。
チャペルから祝福の鐘の音が聞こえる。
私の周りに微笑みを浮かべた天使たちが飛び回っているように感じた。
「……こんなに幸せでいいのかな」
「この程度の幸せでいいのかい?」
私のつぶやきに笑顔で返した瑛二。
私はそっと身体を寄せた。
――夢を見ていた。結婚式の夢だ。
「おはよう」
ベッドの中で私に優しい視線を投げかける瑛二さん。
あぁ、夢じゃないんだ。
新婚旅行先のホテル。朝の爽やかな日差しを浴びながら、私は瑛二さんと口づけを交わした。
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