第27話

『違うわ。私がいたのは隣のブントの街よ。ここよりも少し小さな街ね』


『言葉もわからないのに、よく生きて来れたな』


『……まぁ。ねぇ。女なら身体からだひとつで稼ぐ方法が有るから、ね……』


 娼館か。俺はまだ異世界の娼館に行った事が無いけど、この世界にゴムは無いんだろう? 病気は……無いのかもしれないけど、妊娠のリスクは高いだろうな。よく半年も働いていたなぁ。


『なに辛気臭い顔してんのよ! 私だって生娘って訳じゃ無いのよ~。学生の頃は売りもしていたし。言葉が通じないから罵倒しても問題無い分、ラクな物よ。それにこの国じゃ珍しい見た目で結構人気有ったんだから』


 赤裸々過ぎる告白にドン引きだよ。売りまでしてたのかよ!


『でもねぇ。日本の風俗と違って時間制じゃないからキツイのよ。30分くらいで終わる客は良いけど、3時間以上粘る野郎もいて最悪よ~。それで同じ料金だから収入が安定しなくてねぇ』


 娼館で働く裏事情とか要らないから! 興味も無いよ! 

 ってか、早く終わる方が良い客なのか。それは心に止めて置こう。いつか役に立つ時が来るかもしれないからな!


『そんなある日、お店から配給された石鹸が日本製だったのよ。香りが良いからお店としては奮発したんでしょうね。客の入りも多くなったし』


 へー。石鹸だけを大量に買っていく人がいたけど、そんな使い方してたのか。大口購入が増えたのは転売かと思っていたけど、そうでも無かったんだな。

 袋は大量に買って行っても商売をしている人なら使い道は沢山あると思うけど、ライターを大量に買って行く人は何に使ってるんだろうな。ライターなんて1家に1本あれば充分だと思う。分解して複製しようとしてるなら危険だけど、怪我するのは本人だけだと思うから放っておこう。


『店長を問い詰めて、購入したのが隣街だって知っちゃったら、居ても立っても居られなくて。全財産叩いて移動中の保存食買って定期便の馬車に飛び乗ったって訳』


『ん? 全財産叩いたって、俺に出会えなかったらどうするつもりだったんだ?』


『この街にも娼館くらいあるでしょ? 最悪の場合でもナントかなるかなってね』


 肝が据わってるというか、女は強し。だな。

 俺にはとても真似できないよ。


『だいたいは解った。俺に訊きたい事はあるか?』


『あんたの、そのスキル? 能力?って、私も持てるのかな?』


『俺のは異世界に転移して来た時に、その場に有った本を読んで取得したんだ。その本は俺が読んだ後に消えて無くなったからな……』


『じゃあ、私もその本を見付ければ日本に帰れるかも知れないって事? ……待って、ここって異世界なの?』


 そこから説明が必要か。

 俺みたいに物語で異世界の事を受け入れて無いと状況の理解に苦しむよなぁ。


『太陽があんなの・・・・だから、ここが地球じゃ無いって事はわかるだろ?』


『黒い太陽・・・日食みたいよね』


『たぶん正解。黒いのが惑星で、ここが衛星なんだよ。それと……これは地球に戻れる俺しか知らない事だけど、ここと地球では時差があるんだ』


『時差って、日本と海外みたいな時差の事?』


 地球上の時差は常に一定だ。日本とロンドンでは9時間の時差だが、それは10年経っても9時間だ。異世界との時差は、時間の流れる速さが違うという意味だ。


『地球での1日が、ここでは10日になるんだ。ここで10年過ごしても、地球では1年なんだ』


『ほんと? それなら日本ではまだ数日って事になるわね』


 彼女も日本に残して来た恋人や家族が居るのだろう。そりゃあ心配してるだろうし、彼女だって気がかりだったろうな。


『もし、日本に連絡を取りたい人がいるなら手紙であれば持って行ける』


『あぁ、大丈夫。そんな人は居ないから!』


 そう……なのか……。彼女の家庭環境まで深入りする必要は無いか。


 俺も日本に大切な人が居るのか? と聞かれたら”否”だ。

 両親も恋人も友達も居ない。仕事も辞めた。ついでに貯金も無い!




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