第26話
「ドロシー、ただいま。1人雇う事にした。俺の部屋でしばらく話しをするから2人だけにしてくれ」
3人に計算を教えていたドロシーが、バッと立ち上がり険しい表情で俺たちに詰め寄って来た。
「2人だけで……部屋で? あ、あなた、名前は?」
震える声で、ドロシーが話しかけて来た。
「・・・
「そう……リリナさん。勝ったと思わないで。……私は、負けないから。 絶対に負けないんだから!」
そう言ってドロシーは店の外に出て行ってしまった。
計算を教えて貰ってた3人が、ポカーンとしているが、俺もポカーンだ。
「どうしたんだ? ドロシー、何か有ったのか?」
『・・・はぁ。唐変木にはわからない事よ。それより早く部屋に案内して。訊きたい事が沢山あるのよ』
唐変木って俺の事か? そんな日本語久しぶりに聞いたぞ。
『日本語の方が話しやすいだろう? 俺は
『私の名前は
『俺も訊きたい事はあるが、先にリリナの質問に答えた方が良いだろうな』
彼女は堰を切らせたかのように、一気に質問して来た。
『この店で売ってるのは日本製の商品よね? どうやって手に入れてるの? あなたはイツからここにいるの? 日本には帰れるの?』
『っちょ、ちょっと待ってくれ。順番に答えるから、落ち着いてくれ』
『ご、ごめんなさ。つい……』
『一番気に成ってる事だと思うが、俺はイツでも日本に帰れる。そういうスキルというか、能力を持ってるんだ』
『じゃあ、私を連れて帰って!』
『試すのは良い。でも、今まで試した事が無いから、他人も一緒に移動出来るとは限らない。失敗した時にどうなるかも解らない。それでも試してみるか?』
彼女は力強く頷いた。 彼女は俺の左腕をガッシリと掴み、更に握手もしてお互いにシッカリと握り合った。
彼女の胸の膨らみを意識してしまう邪まな俺が、顔を覗かせていた事は内緒だ。
「転移!」
・・・・・・あぁ。
「転移」
部屋に戻った俺は、1人呆然と立ち尽くす彼女に掛ける言葉が見つからない。 俺が戻った事を確認すると、彼女は大粒の涙を流してその場に崩れ落ちてしまった。
★
『・・・グヂュッ。見っとも無い所を見せて御免なさい。もう大丈夫よ』
気丈に振る舞ってはいるが、目を真っ赤に腫れ上がらせている姿は痛々しく、俺だけが日本に帰れる事を申し訳なく思ってしまう。
『リリナ、君の事を教えてくれ。日本に帰るヒントが見つかるかも知れない。……日本での最後の記憶は何だい?』
『私は、、、トラックを運転していたわ。携帯が鳴って、気が付いたら目の前に電柱と人がいて、、、その後の記憶が無いわ。目覚めたら暗い森の中だったの―――』
トラック・・・? あ! 思い出した。
俺が最初に異世界に来るキッカケになった、あのトラックだ。引かれる寸前に俺は運転手の顔を見ていた。ギルドで彼女を最初に見た時、何処かで見た事有るような気がしていたが気のせいでは無かったのか。
『―――近くに建物が有ったけど、中に入るドアが無い変な建物だったわ』
ドアが無い建物って、俺が最初に転移した協会っぽい建物じゃ無いのか? あの時、俺は建物の中にいて、彼女は建物の外にいたのか。
『中に入れないんじゃ留まっても仕方ないから、森を歩いて道を見つけたわ。1時間くらい歩いたらキャンプをしている人を見つけて助けて貰ったのよ』
俺が建物の外に初めて出たのは、日本時間で2週間後だった。異世界時間なら140日後だ。それだけの時間があれば彼女が歩いた痕跡は無くなるだろうし、俺の時には居た盗賊もまだ住み付く前だったんだろう。
『言葉は通じなかったけど、親切な行商の人で次の街まで案内してくれたのよ』
『次の街って、このデキムの街にずっといたのか?』
言葉も解らない異世界で、1人で半年近く生き抜いてきたのか。俺なら絶対に無理だな。心が折れる自信が有る。
この街の人口は2万人か3万人くらいだ。同じ街にいても偶然出会う事なんてそう簡単には出来ないだろう。
でも、今はこうして出会えたんだ。同じ日本人として助けたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます