第25話
今日は2回目の給料日だ。
最近は客足も落ち着いて来たので、そろそろ人員整理をする肉壁冒険者が居なくても大丈夫だろうか。
ここ10日で変わった事と言えば、ピリヨとリィズがお釣りの計算をマスターした事だ。
ただ、計算が遅いのでまだ実践ではあまり使えない。
ドロシーには成功報酬として金貨6枚を贈呈した。今後も計算が早く出来るように鍛えて貰おう。
ミンミの計算は、まだ成長が見られない。頑張って貰おう。
明日は店の定休日だが、俺は商業ギルドで店員希望者の面接がある。それが終わったら、地球に転移して商品の仕入れだ。
なんだかんだと忙しく、ダンジョンにも行けて無いし、図書館にも行けて無い。金貨を換金しにも行けて無い。
俺が想像していた、物語の中の異世界とは全然違うな。
日本で働いていた頃と同じくらい働いてるような気がする。
★
「あなたは今、店員です。お客が銀貨1枚の商品を18個と、銀貨5枚の商品を5個買おうとしてます。金貨1枚で支払った場合、お釣りはいくらですか?」
今回の面接は3人だった。もうこれ以上募集しても集まらないだろうと、ギルドから言われてしまった。だから、この3人の中から選ばないといけない。
頼むからキチンと計算が出来る人がいてくれ。
最初に手を挙げたのは20才くらいの男性だった。
「計算など出来なくても働けます! 私にお任せください!」
何を言ってるんだ? 俺は計算の出来る人が欲しいんだよ。ぶっちゃけ、掃除とか接客とか出来なくても計算だけ出来れば良いんだよ。
だが募集しても人が集まらないんだから、一応訊いてみるか。
「……では、あなたは何が出来ますか?」
「走れます! 道案内が出来ます!」
募集しているのは店員だぞ! どうして自信満々に答えれるんだよ。走る事も道案内も俺の店には必要無いんだよ!
なぜウチの面接に来たんだ? 意味が解らん!
次に高齢の女性が話し始めた。
「あんたが何話してるのか、あたしには聞こえないよ」
見た目で高齢とは解っていたが、耳が遠くて会話に支障があるようだ。それでも計算さえ出来れば、工夫次第で働けるだろう。
俺は先程の問題をメモに書いて女性に渡した。会話が成立しなくても、商品を見て計算して自分でお釣りを用意出来れば問題ない。
女性は目を細めながら俺のメモを読んで、
「あたしは読み書きは出来るんだよ。本当だよ。……目が悪くて……見え無いだけなんだよ」
どうやら計算以前の問題だったらしい。この様子ではお金を数える事も出来ないだろう。
残念だ。あと10年、いや20年早く出会っていれば採用していただろう。
最後の若い女性は、少し肌色が違う。
『あなたは日本人なの?』
驚いた。彼女は日本語で話しかけて来たのだ。
肌の色や顔の創りが、日本人っぽいとは思っていたが、本当に日本人だった。
俺以外にも異世界に来ている日本人が居るとは思わなかった。だが今は彼女の生立ちよりも重要な事がある。
『俺の店で働く気はあるか?』
『……そうねぇ。訊きたい事も沢山あるから、それで良いわよ』
「わかった。じゃあ、採用だ。急ぎの用事が無いなら、今から店に案内する」
「あ、あり、がと。……だい、じょぶ。いく」
なんだ? 彼女のしゃべり方が拙過ぎる。
「鑑定!」
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えっ! ステータスが無い?
たしか、地球で鑑定を使ったら皆こんな感じの表示だった。異世界に行かないとステータスが取得できないと思い込んでいたが、異世界に来ても取得出来ないのか?
だが俺は取得してるぞ。
俺がステータスを最初に取得したのは……協会みたいな場所で本を読んだ直後だった。あの本はその後消えてしまったから彼女に使わせる事が出来ない。
片言でもしゃべれてるんだから、自力で異世界の言葉を覚えて貰おう。
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