第21話

 やっと終わったぁ・・・

 途中から記憶が曖昧だ。眠すぎる・・・


「ドロシー、悪いけど俺は先に寝かせて貰う。あとは頼む」


「もちろんです! この店の女房役として頑張ります!」


 俺が地球で買い付けの段取りを終えて、店舗に戻ったのは開店する間際だった。俺の体感時間では16時間働き続けていたのだが、そこから1日の仕事が始まったのだ。

 今回ほど異世界と地球との時差を、キツイと思った事は無い!

 早く計算が出来る人を雇って、店番をサボれるようにしないと俺の体が壊れそうだ。このままでは社畜をしていた頃と何も変わらない。


 ★


「全員集合!!」


 気持ち的には8時なのだが、朝の8時だ。ちなみに、異世界に時計は無い。毎日、昼には正午を知らせる鐘が鳴るので何処かには有るとは思うが、一般には広まっていない。


 俺は当初、時計も売れるのではないか? と思ったのだが、自分だけが時間に正確でも全く意味が無いのだ。

 この街には、日の出と日の入り、正午の鐘の3つしか時間を知る術がない。その結果異世界人の時間感覚は非常にアバウトだ。

 明日の約束をする時に、時間を指定しない場合は大抵昼からを意味する。午前中に約束をしたい時は、”日の出から少ししたら”という風に伝えないといけないのだ。



 4人が集まって来た。

 本当は昨日話しをする予定だったのだが、昨日は疲れすぎて寝てしまった。だから、改めてみんなを呼んで話をする事にした。


「このお店の方針を発表します。お店を4日開いて、1日休む! です」


「「「「 えっ!? 」」」」


「てんちょー。そんなに休んで、お給料は貰えるのですか?」


 ミンミが最初に訊いて来た。ミンミはまだ計算が出来ない。この店では一番肩身が狭い存在だ。その事は自分自身が一番わかっているのだろう。

 異世界には曜日が無い。7日に1度の休みも無い。それをいきなり、5日に1度休みにすると言われたら不安になって当然だ。


 店員の募集をする時に商業ギルドで訊いた事だが、休みは店長の気分次第で決めて良いようだ。ただ、大抵の店長は従業員に休みを与える事は無いらしい。

 これだけを聞くとブラックな社会なのだが、従業員側はいつでも辞めれる権利があるようだ。

 冒険者という命を賭けて働く仕事よりも、安全と安定が得られるので簡単には辞めないらしいが、冒険者よりもキツイと思ったら次の日から出勤しなくても良い社会だ。


 法律ではなく、需要と供給で労使関係が作られてる事に驚いたが、その基準が冒険者だった。つまり命を賭けてジェムを集める冒険者が異世界での根幹なのだろう。


 それを知っていた俺は、初日のドギツイ仕事終わりにショートケーキを食べさせたのだ。明日から来なかったら困るからな!


「大丈夫だ。10日に1度、キチンとお給料は出します」


「店長、私とミンミは良いですけど、ここに住んでるピリヨとリィズはどうするんですか?」


 流石ドロシーだ。ちびっこの2人の事も考えてくれてるようだ。


「本人のやりたい事もあるだろうけど、今はその休みを使って計算を覚えて欲しい。全員がお釣りの計算を出来るようになるのが目標だ」


「はい。この店の母として、シッカリ教えて見せます!」


 ミンミが涙目になってしまった。ドロシーの教え方ってスパルタなのだろうか?

 気にはなるが、知らない方が良い事もあるな!


「ピリヨとリィズは訊きたい事は有るかい?」


「休み……ごはん……」


 ピリヨの言葉にリィズも頷いてる。2人にとっては、仕事や給料よりも確実にご飯が食べれるかが重要なのだろう。


「休みの日は、計算だけでなく調理も教えて貰おう。それならみんなで食べれるだろう? 食材を買う費用は給料とは別に用意するから沢山食べても大丈夫だぞ!」


 2人がニッコリと微笑んでくれた。その調子でお釣りの計算も頑張って貰いたい。


 結局、みんなは4日働いて1日勉強するのだ。

 俺だけは勉強しなくて良いので、シッカリと休むけどな!



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