第16話

 店に戻ると、ドロシーが食料品を大量に買い込んで戻って来てた。


「店長、2人に調理を教えるので作った料理はみんなで食べた方が良いと思うんです。だから余ったお金で食材を沢山買いました」


 お金の事は良いよ。でもねー。 

 俺は異世界では殆ど食事をしてないんだよ。だって超不味いんだもの!

 異世界の主食は小麦粉っぽい物なんだが、全然小麦粉では無い! 色が白く無い点は許容範囲として許す。だが味が悪いのはダメだ! 生臭いというか、青臭いというか、独特の風味があるのだ。残念なのはこの風味が焼いても煮ても消えない事だ。パンのように焼いても青臭く、うどんのように煮込んでも汁ごと青臭くなるのだ。

 だから俺は早々に諦めて、毎日日本の弁当を食べている。時々屋台の肉串は食べているが、オークの肉は硬くて食べれないので、ホーンラビットの肉串限定で食べてるのだ。

 異世界定番の旨いメシという幻想は、本当に幻想だったようだ。


「ホーンラビットの肉なら少し持ってるから欲しいなら言ってくれ」


「はい。 もう少ししたら看板を取り付けに来るので、お金を払って下さいね」


 えっ? 昨日の今日でもう出来たのか! 仕事が早い職人なのか、暇過ぎる職人なのか知らないが、ドロシーの人脈が凄いのはわかった。雇って正解だったな!


「買い出しの片付けが終わったら、ミンミの方も手伝ってくれ。ジェムの整理で泣きそうになってるから」


「あれって、店舗用ですか? 販売用じゃなくて?」


「店舗で使う分だ。700個くらいあるから2年は買わないでも大丈夫だろう」


「店長……2階に住むなら2階の3部屋と廊下、あと調理室にも必要なので1年も持ちませんよ」


 マジですか。ジェムってそんなに沢山必要なのか。日本の電気代とは比べ物にならないくらい高いな。


「普通の家庭って、そんなにジェムなんて買えないだろう? どうしてるんだ?」


「ランプを持ってる家の方が少ないですよ。ジェムを使える人なんてお店をやってる人くらいです。殆どの家庭では、割安な灯し油ともしあぶらを使ってますが、食事の時以外は使わない家庭も多いです。どうして店長はそんな事も知らないんですか?」


 痛い所を突かれた。別の世界から来ました、なんて言えないしな・・・

 灯し油ともしあぶらって、時代劇とかで見る、皿に油を入れてヒモに火を付けるアレだろ?液体の油をそのまま使うから屋外では使えないよなぁ。だから今まで俺は見て無かったのか。

 でも油だろ? この世界に菜種油が有る様には思えないぞ。農家が油が取れる植物でも栽培してるのだろうか。


「まぁ。俺の事は良いよ。油って何の油なんだ?」


「殆どがオークですね。オークの油を搾ったのを灯し油ともしあぶらとして使って、搾りかすを調理用の燃料に使うんです」


 ああ。なんか俺の中で色んな事がつながった気がした。

 冒険者ギルドで売却した時に、オークの肉が1kg100円と安かった理由は、オークの体の殆どが油だったんだな。加工前の油なら安くて当然だ。

 街の近くに森が沢山あるのに、森の中を歩いても切り株が殆ど無かった。燃料として木を使わないので森が減らない。逆に森に住むオークなどがガンガン増えるって事だ。

 露店販売でライターがバカ売れした理由も、一般家庭で灯し油ともしあぶらや調理用の燃料にちょっとだけ火を付ける作業には最適だったって事だ。


「俺は2階の部屋に行くから看板が届いたら呼んでくれ。 食事は俺の事は気にしないで4人で食べて良いから、特にピリヨとリィズには沢山食べさせてくれ」


「店長は食べないんですか?」


「俺の分は作らないで良い。 あぁ。それと、ピリヨとリィズにも計算を教えてくれ。成功報酬は出すから」


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