第14話

 翌朝、商業ギルドでホーソンさんを呼んでもらった。


「私の担当では無いので断言は出来ませんけど、雇える人数に制限があったと思います」


「制限?」


「ふぅ。ここだけの話しですよ……。国から出る予算は多くは無いです。私が見たのは2年前の資料ですが、当時雇える子供の人数はストリートチルドレンの6割くらいだったんです。ギルドも思案したようですが、1人当たりの報酬を下げて8割まで雇う事にしたようです。それでも全ての子供は雇えないので、5日働いたら1日休みのように順番で休みを与えるしか無かった」


「だったら、なんでコイツらは街の外で無茶をしてたんだ?」


「ギルドとしては出来るだけ均等に雇うのですが、仕事の内容は子供しては重労働です。どうしても体力の無い子供は働ける機会が減ります」


 集めは重労働だ。臭いだけなら我慢できるかもしれないが、一杯にウンチが入ってるのだ。子供が持つには重い。体力が無い子は子供同士の輪からも外されてしまう、という事か。

 あの2人はガリガリだった。仕事が無いからお金が無い。だから食べ物が買えずに痩せていく。負のスパイラルだ。

 俺も安月給でブラックな企業にコキ使われてたからな。負のスパイラルは嫌と言うほど知っている。


「2人をウチの店で雇っても問題は無いだろ? 住む所は……店の2階を使わせる」


「問題はありません。ですが・・・他の子供たちも雇って欲しいと、押しかけるかもしれませんよ」


 その時は、その時だ。その時になってから考えよう。


 この国、というより、クシュリナ大陸にある全ての国では奴隷制度が無いらしい。

 異世界の生活様式は中世に近いから奴隷制度が有っても不思議では無かったのだが、俺の予想に反してホワイトな社会だったのだ。

 俺は物語のような奴隷ハーレムとかには興味が無いので、どちでも良かった。だが、店で働く店員がなかなか雇えない現状を思うと、労働力の売買が出来る奴隷制度にも一長一短があるなぁって思ってしまう。

 奴隷制度が無いので、子供を労働力として売買する事も無いのだが、親の無い子供は自力で仕事を見つけないと生きて行けない世界だ。

 奴隷制度の是非に関して俺が言える事は無いが、生きるチャンスすら与えられない子供がいる事は、日本で生活していた俺に取っては受け入れがたい現実だ。


 ★


「全員集合!!」


 別に8時という訳では無い。

 ドロシーとミンミに新しい従業員を紹介するのだ。


「今日から雇う事にした、ピリヨとリィズだ。2人は2階の部屋に住む事になる」


 ドロシーがジドーっとした目で俺を見て来た。幼い2人を雇うと言う事は、ドロシーの負担が増えるという事だ。ドロシーからしたら面倒が増えるだけだもんな。お給料を上げるから頑張って欲しい。


「・・・店長、この国では12才未満と関係を持つ事は―――」


「っチョット待て!! そういうのじゃ無いから!! キチンと働いてもらう為に雇うんです!」


「店長が犯罪者になったらお仕事が無くなるので、私も頑張ります!」


 ん? ドロシーは何を頑張るのだ? まぁ良いか、ヤル気になってくれたのなら好都合だ。


「ドロシー、2人に必要な物を買って来てくれるか? 2人を連れてっても良いから」


「・・・布団と、着替え。あとは……ここに住むなら食器かしらね。調理器具も必要かしら? 店長、ここに住むなら奥の部屋で調理させるんですか?」


 2人ともまだ幼いが女の子だ。将来を考えるなら料理が出来た方が良いだろう。


「改装出来る人に心当たりはあるか? ドロシーから頼んでおいてくれ。金は後で俺が払うから」 


 俺はドロシーに大銀貨を20枚渡した。日本円に換算したら20万円相当だ。


「ドロシー。安物で済ませようとしなくても良いけど、ネコババするなよ」


「大丈夫です! 泥棒猫は許しません!」


 なんだろう。微妙に会話が成り立ってるようで、成り立ってないような。

 俺の言語理解【S】がバグったのだろうか・・・




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