第10話
俺は今、兵士の詰所に来ている。
来たくて来た訳では無いし、迷子に成った訳でも無い。
「なるほど。わかった。・・・では、もう一度最初っからだ! 説明しろ!!」
騒ぎが起きた経緯を何回も説明させられている。同じ事を何回説明しても新しい事なんて解るはずが無い。無意味な取り調べをもう1時間も続けている。流石に腹も減ったし、眠く成って来た。もう勘弁して貰いたい。
★
「・・・よし分かった。もう良いぞ―――」
はぁ。やっと帰れるようだ。今日は疲れた。飯食ってサッサと寝よう・・・
「―――次は商業ギルドに行く。付いて来い!」
えっ!? まだ帰れないのかよ!!
異世界に弁護士っていないのかなぁ? 早く帰って眠りたーい。
★
「うーん。 兵士からの報告書を読ませて貰ったよ。ヒーロ君。残念だがこのような騒ぎを起こしてしまった以上、露店の許可は剥奪する事になる。今後も許可は出せないね」
えっ! マジで? これって俺が悪いのか? 理不尽過ぎるだろ!
「あのー。俺に非は有りますか? 俺が騒ぎを起こした訳じゃないのに」
「非が有るかどうかでは無いのだ。混乱を招いた原因を排斥するのが目的だ。数年に1度は君のように騒ぎを起こす行商人がいる。本人に問題が無くても、商品に問題が有るという事だ」
じゃあ、もう異世界では商売が出来ないって事なのか? 会社まで辞めたって言うのに、この先どうすれば良いんだよ!
あれ、今の言葉・・・何か引っかかるな・・・
「俺・・・以外にも、前例が有るんですか?」
「件数は少ないが、何件かある。このデキムの街はリーブラ国の中では地方都市に当たる。つまり王都発祥の商品や地方発祥の商品が両方集まるのだ。このような街は、王都の最先端の流行を田舎でも売るように工夫する場として、又は物の価値を知らない田舎者が王都で混乱を起こす前に止める役目があるのだ」
この街の名前を始めて知った。デキムっていうのか。しかし、今は街の名前なんてどうでも良い。
ようするに、俺は物の価値を知らない田舎者のアホだって言いたいんだな。
「……俺のように、この街で問題を起こした行商人は全員、すぐに街を出たのでしょうか?」
「殆どの行商人は次の街に移動するが、中には店舗を構える者もいる」
「え? 許可を剥奪されても店を持てるのですか?」
「露店の許可は出せないが、店舗の許可は出せるよ。露店よりも高額なので殆どの者は街を出て行くがね」
今日みたいに、あれだけ商品が売れるなら店舗型の方が良いな。それに俺だけでは客を捌ききれない。人を雇うなら店舗型の方が良いだろう。在庫を置ける倉庫がある店舗なら最高だ。
「あのー。少し相談なのですが・・・」
★
異世界に来て初めてグッスリと眠れた。ただし、寝心地が良かったのは俺の布団だからだ。
今はもう、昼を過ぎた頃だ。異世界も1日の長さが24時間だったので、宿の部屋にも置時計を置いたのだ。転移してきても現地時間がすぐに解るようにと思って置いたが、寝過ごした時にも便利だ。
昨日は深夜まで商業ギルドで話しをして、いくつか解った事がある。
この国では土地を所有する事が出来ないようで、家や店舗を買う場合は建物の利用権の売買になるらしい。農家などはどうしているのか不思議に思ったが、それを商業ギルドで訊いても仕方が無いので訊かなかった。
家や店舗を借りる時は30日単位の契約になるそうだ。30日を12回繰り返すと1年という概念になるらしい。この星には季節という物が無いのに、どうして360日で1年なのかを訊いてみたが、”昔からの風習”としか返って来なかった。
まぁ、俺に1時間はどうして60分割されてるんだ?と質問されても”昔から決まってる”としか答えれないので、それと同じなんだろう。やはり異世界の人間は地球からの移民のようだ。
店舗を借りる値段は立地や大きさで変わるようだが、建物のレンタル料と商業ギルドへ支払う許可料の合算が提示されるらしい。今日はこれから商業ギルドの案内で数件の物件を見に行く予定だ。
その前に、今あるお金を数えておく必要がある。自分の財布にいくら入ってるか解らないようでは、支払い能力が無いアホだと思われてしまう。
店舗で人を雇いたいと相談したら、2日ほど待つように言われた。明日には数人の候補者を紹介して貰えるようだ。この国の識字率は知らないが、最低でも計算が出来る人でないと困る。
今はコツコツと昨日の売上を計算している。
最初に用意した商品は、ライターが1200個、固形石鹸が600個、手さげポリ袋が300個だった。袋は実際に売った数は290個くらいだろう。
売値はライターが銀貨1枚、固形石鹼が銀貨1枚、手さげポリ袋が銀貨5枚で売った
昨日は完売しているので計算上、銀貨3250枚の売上になる。
今数えたコインの数は、金貨が11枚、大銀貨が103枚、銀貨が796枚だから・・・銀貨2926枚分だ。
「商品、1割盗まれてる!!」
畜生!俺は異世界をナメていたようだ。
いや、俺がナメられたようだ。
今に見てろ!
絶対に、異世界人からムシリ取ってやる!
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