第9話

「以上で説明は終わりです。他に訊きたい事はありますか?」


「露店を出す場所は、空いている場所ならどこでも良いのですか?」


「区画内であればどこでも大丈夫です。ただし、著しい問題が発生した場合は現場の兵士に従って貰う必要があります」


 国を守る兵士が治安維持の目的で、商業ギルドの為に働いてるって事だろう。日本でなら利権が絡み合ってズブズブの関係に成ってそうだが、異世界ではどうなんだろうな。俺に被害が無いならどんな関係でも良いけど。


「そうですか。解らない事があればまた来ます」


「では雑貨で5日間なので銀貨2枚になります。ランプ用のジェムは必要ですか?」


 そう言えばジェムは全部冒険者ギルドに売ってしまって、1つも持っていない。


「ジェム1つでどのくらいの時間光っているのでしょうか?」


「およそ2日くらいです。オークのジェムならもっと長く使えますが、その分値が張ります」


「それじゃあ。普通のジェムを1つ下さい」


「では合計で銀貨4枚になります。今、青いランプを用意して来るのでお待ちください」


 思ったよりもジェムが高い。冒険者ギルドにホーンラビットのジェムを売った時は、大銅貨5枚だったと思う。買う時は4倍の金額になるのか。時間を作って自分でジェムを集めた方が良いな。

 異世界に来て税金という言葉を聞いたことが無い。この街には税金が無いのか、凄く低いのだろう。国の収入源の多くをジェムの取引で得ているような気がする。常に薄暗い異世界では絶対に儲かる仕組みだ。

 俺のイメージと違い、冒険者ギルドに依頼を貼ったボードが無かったので不思議には思っていた。冒険者ギルドでは依頼を受けなくても全部のジェムを買い取るのだから依頼は必要無いのだろう。

 あえて依頼を貼るなら”何でも良いからジェムを持って来い”に成るだろうな。


 ★


 うーん。露店の空いている場所を探して歩いているが、なかなか良さそうな場所が空いていない。

 ・・・この辺りのスペースは空いているのだろうか。


「すみません。隣の場所は空いてますか?」


「……たぶん、空いてるわ。開いて無くても場所は早い者勝ちよ」


 見た事も無い野菜を売っている女性に訊いてみたが、思いの外不愛想だった。売れなくて不機嫌なのか、元々の性格なのか解らないが客商売として、それで良いのだろうか。


 俺はブルーシートを広げて商品を並べる。もちろん、試供品の用意も忘れてはいけない!

 今回商品として用意したのは、ライター、固形石鹸、手さげポリ袋50枚入の3品だ。定番と言えば定番の商品だ。


 ライターは百均で3個入りのを400個購入した。合計1200個だ。露店を市場調査した時に、店の人や行きかう人を鑑定したが火魔法を使える人はいなかった。盗賊を返り討ちにした時、駆け付けた兵士は取得していたが使える人は極僅かなのだろう。


 固形石鹸も百均で3個入りのを200個購入した。合計600個だ。露店でも石鹸っぽい物は売っていたが、どう見ても動物の油を加工した物だった。ジャパンクオリティーの石鹸は香りまで素晴らしいのだ!


 百均の手さげポリ袋50枚入りのを300個購入した。実際に販売するのは270個~280個だろう。これは商品を買ってくれた人に、商品を入れて渡す事にも使用する。固形石鹼なら6個くらい入るサイズの袋なので、購入した人が持ち歩くだけで宣伝になる。


 商品を並べ終わったが・・・流石に並べただけでバンバン売れるという事は無いようだ。

 隣のお姉さん? おばさん? に、石鹸1個とライター1個を袋にいれてお裾分けしよう。少しは宣伝になると良いな。


「え!? くれるの?」


「使い方はわかりますか?」


 おば?さんが袋の中から石鹸を取り出すと、表情が変わった。ジャパンクオリティーの石鹸は手に持っただけで香りが薫るほどなのだ!


「使ってみますか?」


 俺は試供品に用意した洗面器と水を渡してみた。

 石鹸で手をゴショゴショと洗ったおば?さんが、自分の手の匂いを嗅いで、


「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 吠えた。

 次の瞬間、周辺にいた人たちが一斉に俺たちに振り向いた!

 俺は動揺して思いっきり目が泳いでしまったが、勘違いしないで欲しい。俺が破廉恥な事をしておば?さんが吠えた訳では無い!

 心配して近付いて来た人達の顔に、おば?さんが自分の洗いたての手をバッと突き出すと、


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 吠えた。

 そこからはもう、しっちゃかメッチャカだった。

 ほんの十分で用意した石鹸の半分が売れたと思ったら、今度は袋を欲しがる人でゴッタ返した。

 袋が品切れに近付いた頃、試供品で置いてあったライターに偶然火を付ける事に成功した人が現れた。今のライターは昔と違って安全装置が付いているので簡単には付ける事が出来ないのだが、頭の良いツワモノが居たようだ。


 気が付いたらブルーシートはモミクチャにされ、商品はもう無いにもかかわらず客がドンドン押し寄せる始末。収拾が付かない。


「申し訳ないが売り切れだ! 次は3、4日後にまた来る」


 俺の言葉を聞いても商品を欲しがる客たちが、全く聞く耳を持ってくれない。マジでヤバい。暴動が起きそうだ。


「お前たち! この騒ぎは何だ!!」


 騒ぎを利き付けた兵士が来てくれたようだ。助かった。


「お前がここの店主か。すぐに店を片付けろ。お前を連行する」


 あれ!? 助かって……無い?


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