第7話

 今日は冒険者専用の安宿ではなく、少し良い宿を探そう。

 食事は付いて無くても良いが、ベットだけは布団が有る宿にする。板の上に寝るのはツライのだ!


「ウチは1泊、大銀貨1枚だよ。食事の分は、その都度別料金だ」


「あのー。ベットは板のままですか? 布団は有りますか?」


「もちろん、布団も着いてるよ」


 良かった。この宿なら今夜はグッスリ眠れそうだ。


 部屋には小さなテーブルと椅子も置いてあった。広さは3畳ほどだろう。基本的に寝るだけなので広さは全く問題ない。

 俺はテーブルにお金を出して、残りの金額を確認する事にした。

 この宿を転移の拠点にするなら、少なくても10日分の宿代を前払いして部屋を確保する必要が有るからだ。


 異世界の1日はだいたい24時間だった。日の出から日の出までの時間と、日の入りから日の入りまでの時間を計ったのだ。正確には計れて無いので誤差20分は有ると思った方が良いだろう。

 日本での1日は、異世界での10日になる。だから10日分の宿代を先払いする必要があるのだ。


 今日、ギルドに売却したのはオークが39匹とレッサーウルフやホーンラビット、ゴブリンのドロップだ。どうやらゴブリンのドロップはとても安かったようだ。

 オークは1匹当り大銀貨1枚くらいに成るようだ。日本円にして1万円の価値って事になる。1kg100円の肉と考えたら思ったよりも安い。ギルドがボッタクってるのだろうか?

 思いの外稼げたのは、俺が持ち帰った量がオカシイだけだろうな。街まで持ち帰る労力を考えると、肉その物の価値は殆ど無いのだろう。

 現代日本でも4トンの荷物を運ぶには、大きなトラックが必要になる。運送費用を考えるとマイナスになる。

 異世界でもローバーという動物に荷馬車を引かせてはいるが、どう考えても4トンは運べそうに無い。

 人間がオークの肉を背負って運ぶなら2人で1匹が限界だろう。命賭けでオークを狩って、50kgの荷物を背負っての帰路。手に入るのは5000円だ。命を賭けて5000円の報酬が高いのか、安いのか・・・


 異世界で稼ぐって言うのも、なかなか難しいようだ。


 明日は午前中に市場を廻る事にしよう。日本からの交易品を考えないとな! 上手く商売して、ガッポガッポ稼ぎたいな!!

 それと、、、日本円を稼ぐ方法だが・・・

 やはり、金貨を日本で換金するしか無いだろうか。金貨を大量に持って行くと出所を詮索されたり、色々と面倒な事が起きそうで怖いな。

 日本に戻ったら、金貨の価値だけは確認しておこう。


 明日の昼頃に日本に戻るなら・・・

 異世界に80時間くらい滞在したって事になる。計算が正しければ、日本では夜の10時くらいだ。次の日は月曜日だ・・・


「ハァ・・・会社、行きたくないなぁ」


 今、考えても仕方が無いな。


 明日の事は、明日の俺がなんとかしてくれるだろう!


 ・・・今日は、ゆっくりと寝よう。


 ★


 拝啓、日本の寝具メーカー様。

 異世界の布団と、メイド・イン・ジャパンの布団を同じに考えていた俺がバカでした。最先端技術を使ったジャパンクオリティーに慣れた俺の体に、異世界の布団はムリです。自分がこんなにハイクオリティーを求める人間に成っていたなんて知りませんでした。

 布団にフカフカを求めていた俺がバカでした。この異世界には羊?ウール?が無いようです。当然、毛布のような物も無い。動物の皮を繋ぎ合わせた物が敷布という事らしいです。フカフカも暖かさも無いのが異世界クオリティーです。

 一番の問題は清潔感の欠如! 多少はノミやダニが居るのは覚悟していのですが、それ以前の問題でした。布団全体がジメジメと湿気っているのです。たぶん搾ったら水が出るくらいに!

 この異世界には直射日光という概念が無い事を忘れてました。”布団を干す”なんて文化は無いようです。

 異世界での快適な睡眠は、今後も難しいようです・・・


「次からは、自宅の布団を持ち込むしか無いな!」


 収納魔法から取り出した弁当を食べながら、俺はジャパンクオリティーの素晴らしさを感じていた。


 ★


 宿屋で教えて貰った、露店が並ぶ通りに着いた。

 その通りはきらびやかで美しく見えた。それぞれの露店がランプを掲げており、それがイルミネーションのように光り輝いているのだ。露店によって赤や青とランプの色が異なっている。

 常に薄暗い異世界だが、この通りだけは明るくて活気がある。

 露店の数は1000を超えるだろう。多くの人々が集まってる通りだが、思っていたよりも治安は良さそうだ。時々兵士を見かける。巡回しているのだろう。

 露店を取り仕切っているのは商業ギルドらしいし、その商業ギルドは国が管理しているようなので、国を守る兵士が治安維持の為に働いているのだろう。


 しばらく通りを歩いて気が付いたが、食料品を売る露店や雑貨を売る露店が乱立しているようだ。

 野菜を売ってる隣では服を売っている。その隣ではを売っている。全く一貫性が無い。これでは欲しい商品が何処で売っているのか、見つけるだけで一苦労だ。


 3時間ほど歩いて、だいたいの品揃えは理解出来た。次は商業ギルドに行って見よう。


 ★


「あのー。露店を開きたいと思いまして、費用がいくら必要か知りたいんですが」


「露店の担当はこの廊下の先なので、そちらで訊いて下さい」


 国の管理下に有るだけあって、商業ギルドは非常にだった。

 露店は最低5日間の契約。売る商品によって金額が変わる。扱う商品毎にランプの色が異なり、お金を納めて許可が出たらランプが貸し出される。


 あの色とりどりのランプには、そんな意味が有ったのか。ランプの色で遠くからでも、どんな露店かわかる仕組みだ。常に薄暗い異世界ならではの工夫だな!

 ただし、燃料は自前だ。詳しく訊いたら、この世界のランプは全てジェムを使って光っているらしい。


 冒険者ギルドに納品していたジェムの使い道を始めて知った。

 魔石っぽいと思った石ころのようなジェムだったが、直接エネルギーを取り出す技術があるなんて驚きだ。

 異世界は昼間でも薄暗いから室内では常にランプが必要だ。冒険者ギルドでジェムが割と高値で売れていた理由が解った。供給よりも需要の方が上回っているのだろう。


 これで情報収集は終わりだ。

 次、異世界に来たら大儲けするぞ!


「転移!」


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