27 Showtime《ショータイム》
姉妹が戦いあって、負けた者が勝者のモノになる。
そんな試合をロキアスに提案された俺達は円陣を組んで作戦会議を始めた。
「スクルドに勝てる算段はあるのか?」
「機体や戦闘システムは私やヴェルの方が上だわ。ただ、スクルドには未来予測の機能が有るからそれを使われると厄介ね」
「条件を整える為に未来予測を封じる事を要求するか?」
「それもアリだね。こちらは武器なしが妥当かな。ただ一番厄介なのがロキアスだアイツの未来予測ほど難しい者は無い」
何考えているか分からないって事だな。
「ねー? 決まった?」
ウルドは戦いの条件をロキアスに告げた。
「スクルドは未来予測を禁止、私とヴェルは武器禁止。敗北条件は先にシャットダウン、若しくは立ち上がれなくなった方が負け。敗者は勝者に身を差し出す。この条件でどうかしら?」
「うん、潔くていいね。それで行こう。じゃあ戦うメンバーはコートの中に入って」
スクルドはうさ耳のカチューシャを外し、ステージの端に置いてあったであろうメイスを持ってステージから降りて。ホール内のラインが描かれたコートへと入る。
「私が行くわ。レンいいかしら?」
「気は進まないが……やらないと進めないからな。分かった勝とう」
「ありがとう、レン」
ウルドは持っていたレールガンをヴェルに預け、ぬいぐるみをニイロに託した。
「ありがとう。ヴェル、万が一の時は任せたわ」
「分かった。健闘を祈る」
コートに入った二人は互いに一瞥する。
「姉さん……久しぶり。ごめん……あれ~?? よわよわなのに武器無くていいの?」
「大切な妹にそんなもの使えないわ……変な言葉遣いでメモリー割かれてるんじゃない? そんなんで戦えるの?」
「覚悟してる……だいじょうぶ。イキってるおばさんはしっかり分からせてあげる♪ ざぁ~こ♡」
「勝ったらその言葉使いから修正学習させるわ♪」
ウルドの顔が悪い魔女の顔になった。スクルドもメイスを構える。
ロキアスはそんな二人を舞台の上から満足そうに眺め、戦闘の開始を告げた。
「ではバトルロワイヤル開始! ファイッ!!」
ロキアスの合図と共にウルドとスクルドの戦いが始まる。
スクルドはメイスを振り回しウルドの足を狙っていく。しかしウルドは動きを読んで柔く避けていた。
「姉さん手加減しないで……私の足を! ぶっつぶれちゃえ♡」
スクルドは上からメイスを打ち込むが、ウルドが左手で防いだ。同時に床がみしりと軋む。
「メイス重すぎなんじゃない? 関節が悲鳴あげてるわよ?」
確かに、スクルドはウルドと比べて動きがぎこちない。
そんな姿を眺めてヴェルダンディは分析する。
「やっぱり関節が固いね。肉弾戦を学習させても
思わぬワードにヴェルをジト目で二度見してしまった。今、真顔ですごい事云わなかったか?
「成人向けって……どういう事だ?」
「 彼女の型番は【HDL-
体位って……思わずニイロを見た。彼は離れた所で座って戦いを見ていた。良かった。話聞かれていなくて。可動域と柔軟性と言った所だろう。だから動きがスクルドより滑らかなのか。
「でも三人とも戦闘向けなんだろ?」
「まあね、戦闘特化の内容としては、他のモデルよりフレームとケースが丈夫に出来ている。後は戦闘データを扱うからメモリが大容量で情報処理能力も高い、それに
確かに、彼女達は致命傷にならなければOKというとんでもないアンドロイド達だからな……
「スクルドは何で同じボディで製造されなかったんだ?」
「この時の為さ。一番弱いモデルにしないと敵対した時に詰むからね。あと彼女の趣味」
大事なミッションに趣味を持ち込んだのか……じゃあ、この戦い、実はこちらが有利なのでは!? と明るい顔をしてヴェルを見たが、そこに彼女はいなかった。彼女はニイロの隣に座り……
「僕達は自分の仕事をしよう。ニイロ、ユグドラシルの準備続けよう?」
「はい! ヴェル!」
そう言って二人はノートパソコンを取り出し何か始めたのであった。
ポツンと取り残された俺とミノスは腕を組んだまま固まっている。戦いを見たままミノスが聞いてきた。
「レン、俺達は応援で大丈夫だよな?」
「ああ、俺達に今できるのは応援だ」
「うぉぉぉぉ! ウルド! 美しいぞぉぉぉぉ!!」
どんな応援だ。
ウルドは動きが安定していた。最低限の動きで攻撃を避けながら、時折低く攻撃を入れて足を狙っている。武器を持っているスクルドが押されている。
「よし! もう少しだ!!!!」
強制停止ボタンは眉間を長押し10秒。ひらりと身をかわしたウルドはスクルドの後ろに回り込んで羽交い絞めにしてボタンを押そうとした……時だった。ステージに爆音が響いた。
「「「何事!!」」」
「あー、やっぱりね……」
俺とミノスとウルドは驚いて音源を見た。
右奥の壁が壊れ、ゆらりと人影が現れる。赤い髪と美しい筋肉、そしてハンマー
「ドナール!?」
なぜ彼がこんな所に!
ドナールは迷うことなくコートに乱入し、ウルド目掛けて攻撃を始めた。スクルドとドナールに責められてウルドは必死に逃げる。
ウルドから表情と人間らしい仕草が消え、すべてのメモリは戦闘へと割かれた。
「はい! ゲスト参戦のドナール
ゲスト参戦って何だよ!! 話が違くないか??
俺はロキアスに抗議する。
「ロキアス! これはレギュレーション違反だ! 試合を止めろ……!」
ロキアスは俺を見てニヤリと笑い宣告する。
「いや、合っているよ。あの姉妹の他に参加者は限定していない。対戦人数も。
それに武器禁止をしているのは、ウルドとヴェルだけだ。他の参加者は何も禁じていない」
「何だよその屁理屈!!」
「やられたね。ニイロ作業中断だよ。こちらも乱入しようか? レンとミノスちょっといい?」
そう言ってヴェルは俺達に耳打ちする。
彼女はある作戦を提案した……
「分かった、やってみる」
追い詰められたウルドはドナールのハンマーで壁に打ち付けられる。彼女は壁に寄りかかりながらも立ち上がった。あいつ二度もウルドを!!
「じゃ、二人とも頼んだよ? 僕は行ってくるね」
「ああ! 任せろ!!」
「うぉぉぉ↗!!! 戦だぁぁぁ↑↑↑」
ハンマーと斧がぶつかり不協和音を奏でる。
「最強の戦士と会い塗れるなんてめったにねぇぇぇぇ!!!」
ミノスの攻撃でドナールに隙が生まれる。ミノスとドナールが距離を取ったその時、
―――ガキィン!!
ミョルニルに何かが命中してドナールの手から離れていく
それを見た彼は驚愕して、飛んできた方角……レールガンを構えた俺を見た。
「何! またお前か!! 多勢に無勢だぞ!!」
「チートハンマーは1人換算で充分だろ!!」
空を舞うハンマーに狙いを定め、出力を最大まで上げ引き金を引いた。プラズマ化した弾が放たれ……。
―――バチィン!!!
命中し、ハンマーはまたも壊れる。今回は爆ぜず、静かに地面に落ちた。
「おのれぇぇぇぇぇ!!!!」
「相手は俺だぁぁぁぁぁ!!」
斧を持ったキマイラ・ミノスと、全身サイボーグ・ドナールとの戦いが始まる。
俺達の作戦はこうだ。
俺とミノスでドナールを押さえている間にヴェルがウルドに加勢してスクルドを止めてウルドを救出するという作戦だ。
ヴェルはスクルドの足を払い、転んだ彼女からメイスを取り上げて窓を目掛けて放り投げた。だが、スクルドはすぐに立ち上がり、ヴェルを襲うが、胴に思いっきり蹴りを入れられて、壁に打ち付けられる。素早くウルドの近くに駆け寄ったヴェルは彼女に肩を貸した。
「よく頑張ったね。さあ、ウルド帰ろう。途中棄権による決め事は何もしてない」
「そうだね、決めてない。だけど逃げられるかなァ?」
ステージに座るロキアスはにたりと笑う。
ロキアスの後ろにゆらりと人影が現れる。三人目乱入者が現れ俺は言葉を失った。
新たな乱入者はコートに降り立つと持っていた槍でヴェルの背中を貫いた。プラズマを纏った刃は簡単に彼女の薄い体を貫通する。彼女は目にノイズが走りフリーズと同時にバランスを崩して倒れる。
「兄さんも来たの? 新型グングニルの調子もよさそうだね♪ 僕の出る幕なくなっちゃうじゃないか」
ウルドは彼を見上げてノイズが混ざる声で呟いた。
「お父様……」
ヴェルに刺さった刃を抜くと今度はウルドに対して構えた。
ウルド目掛けて突き刺そうとした時、同じ槍がそれを妨害する。
ギリギリのところで俺は攻撃を止めた。
「何であなたが!? なんで!!……オーゼ先生!!!」
乱入者の正体は先生だった。先生は俺と同じ槍を持っている。
舞台の上で観戦してるロキアスが楽しそうに呟く。
「新旧のグングニルが揃っちゃった! なぁんだ!!君は兄さんが拾ったヨツンの生き残りかァ」
先生が距離を取り、俺を静かに睨むと話しかけてきた。
「この子達を迎えに来た。レン、君も帰るよ」
「分かんないよ! なんでウルド達を攻撃する! なぜロキアスの側に居る!!」
「兄さんこの子に何も教えてないの?酷だね~」
「黙れ、ロキアス……」
ロキアスは舞台から降りると俺達の傍にやって来た。
「何も知らないって辛いよねェ? この人は英雄派のトップ。
「何を言ってる? 先生が月側の人間だと!?」
先生は俺から目を離さず槍を構えながらも答えた。
「……そうだ。研究所も彼女達も
呼吸が荒くなる。何を言っているんだ!
ウルドと先生、どっちが正しい?
「戦場で迷うと死ぬって言っただろ?」
先生に俺の槍を払われ、距離を詰められると腹を思いっきり蹴られ思わず後方に吹き飛ぶ。一撃が重い……入口近くに居たニイロの所まで飛ばされてしまった。
「レンさん。大丈夫ですか?」
「ああ、ニイロ、隠れて……」
「いえ、撤退です」
「?……何を言ってる??」
「ヴェルはウルドの救出に失敗しました。サイボーグ三体は手に負えません」
「そんな! そんなことしたら三人とも捕まる……」
「いえ、捕まりません……壊れるのですから……」
悔しそうな顔をしてニイロはつぶやいた。壊れる?
おい! まさか!!!
身体を起してみるとオーゼ先生の背後で三姉妹が三つ巴の様に各々小さな銃を頭に向けて構えていた。銃なんていつの間に!!
振り返り返ってその光景を見たロキアス達も驚いてる。
「「「さようなら」」」
そんなやめてくれ!!!
―――ダァン!!!
三人は糸が切れた操り人形の様に地面に沈んだ。
そんな……
「捕まるくらいなら逃げるって? ははは……はははははっ!!!! 面白い! ここまで思い通りに行かないなんて!! モイライ姉妹、いや! ノルニル姉妹はやってくれる!ははははは!!!」
ロキは
呆然とするミノスに向かいニイロは叫んだ。
「ミノス!帰えろう!!」
「え? え? ……そんな!! 二人はどうするんだ??」
戸惑うミノスにニイロは今までで一番大きな声で怒鳴った。
そうだ、帰るだなんて……
「おいて行く! 三人の意志だ!!! 帰るよ!!! さぁ、レンさんも……」
「嘘だ……まだ治る! 頭は形が残ってる!! お願いだ!! 傍に行かせてくれ!!」
そうだ! もしかしたらメモリが生きているかもしれない! 予備機を使えば……
「ごめんなさい、レンさん……」
ニイロは静かに謝ると俺に何か突きつけた。体が痺れる。
俺はスタンガンを食らい体が動かなくなった……ミノスが近寄ってくる音がする。
「ミノス、レンさんを頼みます。……ヴェル……」
ミノスが俺を背負いニイロはパソコンが入ったリュックにぬいぐるみを入れて俺の槍を抱えた。二人は来た道を急いで帰る。
気が遠のく中、最後に見たのは彩りを失い倒れている三姉妹の姿だった……
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