26 Skuld《スクルド》
―――未来を騙る乙女は語る。
『私のオーナーと成り得る、幾人かの候補者の予測は出てたんです。でも目覚めた時すぐに目に入ったのは、確率が一番低くて一番恐れていた人でした。ご満悦な彼の顔と、これから彼が何をするかを視て、人工知能ながらも運命を嘆きました。絶対変な事学習させられる!』
◇ ◇ ◇
ヨツンの西・ウートガルズ遺跡群にて悪趣味な舞闘会が始まる。
みんなで台車に乗り、その遺跡にやって来た。どこにでもある寂れた遺跡だ。
荷台の上のウルドが俺達に向けて最後の注意をする。
「みんな、私達に何か有ったら構わず逃げるのよ?」
「はっは↗! 何言ってる! 負ける気がしない!!」
一晩休んで疲れが癒えたミノスは、謎の自信に満ち溢れていた。彼をみてヴェルダンディはため息をつく。
「はぁ……ニイロ。いざという時は頼んだよ?」
ニイロはヴェルを真剣に見つめながらコクンと頷いた。
狂人とそれに使役されるスクルド。気を引き締めていかねば……
遺跡の入り口に、白い棒のような物が落ちていた。アンドロイドの白い左腕だった。指を曲げられ道しるべのように置かれている。ホント胸糞悪い。
それを辿るとホールの様な施設の看板にピンクのリボンが結ばれていたので、一同はその中に入った。
建物の奥に進むと明かりが点灯する。
「やぁ、いらっしゃい諸君!!」
広いホールの奥に舞台が有り、その上には……うさ耳を付けウサギのぬいぐるみを抱えたピンク色の髪の少女と、黒いゆったりとした服を身に纏った青年が居た。ああっ!あの二人は!!
「アトとロプト!」
思わず叫んでしまった。ホール中に声が響いて自分でも声の大きさにびっくりした。慌てて口を押える。ウルドも俺が叫んだ事に驚いてこっちを見た。
「レン、二人を知ってるの?」
「ああ、ニブルヘイムに行く途中で立ち寄った村に居た、旅芸人だ……」
「スクルドは以前アトポロスと名乗っていたの。それにロキアスが良く使う偽名がロプトなの……」
ウルドは苦々しい顔で説明した。
成るほど、だから村で会ったアト……スクルドは食事をしなかったのか。まさかあんな所で会っていたとは。
今の彼女は黒いふりふりとした衣装を身に纏っている。しかし今回はウルド達と同じチョーカーが見えていた。品番までは読み取れない
舞台の上のスクルドは村の舞台で見た時と同じように、身振り手振りを大きくポーズを取ながら話し始める。
「こんにちは~♡ よわよわの姉さん達をわからせに来たよ~♡」
「やあ~!クロとケシ!久しぶりだね!!うん、クロも人格と容姿の解釈一致だね!! 素晴らしいオーダーだ」
そう言って彼は顔の隣で良く響く拍手をした。ステージの上から俺達を一瞥する。クロとケシ? ウルドとヴェルダンディのことか??
「ニブルヘイムのお子ちゃまに、美女狂いのキマイラ。あれ? あの時のお兄さん! やっぱり再会できたね!? 運命かなッ?」
「あっ♡ 私よりヴェルを選んだキマイラさん!!!私を選んでよ~っ!特別にファンサしちゃうんだから♡」
そう言ってスクルドは“ポーン”とうさぎのぬいぐるみを、ミノスに向けて投げた。
しかも、ウインクしてポーズを決めてる……だが、コントロールが悪く、その前に居たウルドの腕の中にぼすっと納まった。
二人のテンションに追い付けず一同唖然。
やっとの思いでウルドが言葉を発する。
「ちょっと……スクルドに変な学習させたり、悪趣味な事やらせないでよ……。あと、私達名前を変えたの。今はウルドとヴェルダンディよ。以後お見知りおきを」
彼女が冷たく言い放つと、ロキアスは嬉しそうに身震いした。
「だって~♡ 僕もアンドロイドのオーナーになってみたくて。ケシ……ヴェルダンディは反応薄くてつまらないし、ウルドは僕の事嫌ってるから、アトポロスのオーナーになる事にしたんだ!ね~?」
「えっ!?……ね~♡ えっと……姉さん達は人間に近づき過ぎて、よわよわの雑魚だから。ロキアス様にわからせられればいいのよ! さ~こ♡ざ~こ♡」
「そうそう!良く覚えたね」
言わされてる感が否めない。元清楚が生意気な言葉でイキる姿を見て、姉たちの様子が変わる。
無表情に定評があるヴェルは下らないっと言わんばかりの顔をして、傍若無人なウルドですら頭を抱えた。
当のスクルドは泣きそうな顔をしている。
「あいつ、可憐なスクルドに!……あの子が絶対に言わなそうなセリフを……」
「くだらない。どちらかといえば、スクルドがロキアスから、わからされてるじゃないか……」
姉たちはそうぼやいた。
あの特徴的な言葉遣いはロキアスの趣味だったのか。
アト……いや、スクルド可哀そうに。二人の言葉を聞いたロキアスが反論する。
「だから面白いんじゃないか! ウルドだとこんな可愛い雰囲気でないし。ヴェルに言わせても感情が籠ってなくてつまらないからね!」
確かに、ウルドは憎しみを込めた本気の「
「……ロキアス、分からせてあげましょうか?」
「姉さん、バカを相手にしても時間の無駄だよ。さっさとスクルドを返してもらおう」
ヴェルは時々辛辣だ。
「あぁ~! いいねヴェル!もっと冷たい目で罵って欲しいなぁ~」
「……喜ばれるのは
ダメだ話が進まない!!同じことをウルドも思ったのか、咳払いを一つして話し出す。
「ロキアス、スクルドのオーナ権限を放棄してほしいの……」
「やーだねっ♪」
……
ウルドは持っていたレールガンを構えた。レールガンに電力がチャージされる。
今撃つのか!?
「姉さん、弾が勿体ないからやめておきなよ。彼も人間判定だから僕達じゃ致命傷を与えられない」
ベルにそう諭されて、ウルドは悔しそうに銃を降ろす。
「そうね。私アイツ苦手だわ……」
「僕もだよ」
二人の苦悩をよそに、ロキは演説を始めた。
「僕もさ、大変なんだよ? 間に挟まれて。そんな僕をアトだけが癒してくれるんだ。ね? よしよししてよ~」
「ロキアス様おかわいそう♡ よしよし」
その姿をみて俺達は絶句した。スクルドは嫌そうな顔をしながらロキアスの頭を撫でる振りをしている。実際には頭に触れてない。ロキアス、どんだけ人望無いんだよ。
「「…………」」
遠い目をしたウルドとヴェルは視線を彼等から外さないままぼそりと話す。
「スクルドも彼を張り倒したい気持ちでいっぱいだろうね」
「それもそれで奴が喜びそうで気持ち悪いわ」
彼は何をされても喜びそうだ。
「二人とも僕の所のアンドロイドになr……?」
「「結構です」」
「え~姉妹のハーレム作りたかったのに! つれないな。じゃ賭けをしようよ?
「「「「「…………」」」」」
「誰も君を
ほぼ全員が絶句する中ヴェルは律儀に答えた。バッサリと。
無口だったミノスもとうとう胸の内を吐露した。
「俺、アイツみたいにならない様に気を付ける……」
ミノスは、アイツの変態さには及ばない。安心してくれ。
「私達は何を差し出せばいいの?」
「簡単さ、君たち自身だ。シンプルだろう?」
ウルドとヴェルは心底嫌そうな顔をした。ウルドはともかくヴェルがこんな顔するなんてよっぽどだな。だがこの戦い、俺も気が進まなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます