25 En gave til deg!《プレゼントをあなたに!》

 12年振りの帰郷だ。


 日も傾きかけて空がオレンジ色に染まりつつある。瓦礫はデイマキナ達や優しい人々の手によって片づけられたのだろう。浸食を始めた植物の間からわずかに残る石畳と建物の基礎だけが顔を覗かせており、街があった証拠を残していた。俺の家はどうだったのだろう……


 街に入ってすぐの広場に石碑が立っていた。


『ヨツンの民ここに眠る』


 そう書かれており、誰かが手向けたであろう白い花が枯れ果てていた。

 誰かが石碑を立ててくれた……生き残りで有る俺がなにもせず、申し訳なさと悔しさを感じた。


 みんな、帰って来るの遅くなってごめん。


 ウルドと一緒に石碑に手を合わせ、街の中央広場に向かい歩く

中央に行くほど被害は大きかった。それまであった石畳や基礎まで消えている。


 夕焼けに染まる広場の中央にボールのような物が落ちていた。


 それは人工物であり、今のこの場にそぐわない強烈な違和感を感じさせる程だ。広場に人の気配はなく、俺達はその違和感に近づく。


 アンドロイドの頭だった。


 プレゼントの様にピンクのリボンが巻かれ、その隙間から損傷して皮膜が半分剥がれた顔が覗いている。アンドロイドとはいえ気持ちいいものでは無かった。

 ウルドはそれを見て静かに首を振った。


「センサーの類は無いわ。完全に沈黙している」


 ウルドはそれに近づき丁寧に抱えた。ピンクのリボンを解くと白く短い髪がはらりと揺れる。

 ベルダンディの予備機だけあって、それは彼女にとても似ている。むごい仕打ちだ。これはニイロに見せたくない。

 ウルドは項付近からチップを取り出し、頭の瞼をそっと伏せた。


「良く働いてくれたわ……ありがとう」

「誰がこんなひどい事を……」


 ウルドは巻かれていたリボンを俺そっと差し出した。

 そこには汚い文字で書かれた文章が有った。


『招待状

 お姉ちゃん。一緒に遊ぼう!

 ウートガルズ遺跡で待ってる スクルド』


 狂ってる。


「あの子が喜んで書いたとは思いたくないわ……あの子の主人らしい悪趣味な招待状ね」


「ロキアスがスクルドに壊させたのか?」


「そう、考えるのが自然ね。機械の頭が飛ぶなんてよっぽどだもの。あの子の思考汚染が心配だわ」


「思考汚染?」


「AIの思考も闇に堕ちてしまう事が有るの。その場合消去されちゃうんだけどね……みんなの元に戻りましょう。この事を報告しなくちゃ」


 ◇ ◇ ◇


「回収ありがとう。何かあった?」

「悪趣味な招待状があった」


 俺はピンクのリボンをヴェルに渡した。

 ウルドも抱えていた首をそっと見せて、中に入っていたチップをヴェルに渡した。


「酷いことするね。ロキアスだってサイボーグの癖に。こんな事されるとスクルドが心配だね。先に彼女が壊れてしまう」


「ええ、私とベルは相関性が有るから、最悪欠けてもかろうじてシステムは動くわ。でもスクルドは替えが利かない。彼女が欠ける事はシステムの存在意義が亡くなるわ。このルート、あまりかんばしくないわね」


「ああ……早速明日御呼ばれにあづかろうか? ウートガルズ遺跡ってヨツンの西に在るやつだろう?」


「ええ、そうしましょう。時間もあまり残されていないようね」


 ◇ ◇ ◇


 夕食後ウルドとヴェルは予測されてる未来の再確認とサーバーの構築を急ぎたいという事で夕飯後別れた。

 ニイロも一緒に行くと抗議したが、ヴェルに優しく諭され睡眠をとる任務を与えられた。ミノスはやはり疲れていたのか、寝袋を敷くとすぐに眠りに落ちていた。


 二人の寝息が聞こえる中、俺は中々眠れず、気分転換に外の空気を吸いに行った。

広場には古い鉄製のベンチが朽ちずに残っていた。そこに座り夜空を眺める。


「眠れないの?」


ウルドだった。彼女は肩からパーカを羽織り、髪を降ろしていた。


「ウルドも休まなくていいのか?」


「星でも見ながら充電しようと思って。隣りいいかしら?」


悪戯っぽく笑うと右手に持った小型発電機を見せた。

星空をぼんやり見ていたらポツリポツリ言葉が溢れてきた。


「今日、ここにきて色々昔の事を思い出した。父さんと母さんの顔……仲良くしてくれた街の人……幸せであれがずっと続くものだと思っていた」


「…………」


「暗い話でゴメン、ただ色々思い出した懐かしくなって。そう言えば、パソコンを通じてやり取りしていた友達もいたんだ」


「友達?」


「クロートって云って顔は見たこと無いけど、文字でのやり取りしてたっけ……いろいろ話を聞いてくれて、いい奴なんだ。彼女も元気でいればいいな」


「きっと、クロートって子も元気だと思うわ」


「あの日彼女に四葉のクローバーをあげようとしたんだ。初めて見つけたから。―――と言っても、写真で撮って画像を見せるくらいしか出来ないけどな」


「え? 四葉のクローバー??」


彼女は俺の話を聞いて驚いた。子供らしくて今の俺からは想像できないだろう。


「そんな驚くこと無いだろ? 母さんから昔教わったんだ。四葉のクローバーを見つけると幸せになれるって、なかなか可愛い子供だろ? その日は見つかる気がしたんだ」


ひとしきり驚いた後彼女はにっこりと微笑んだ。


「そうだったのね……レンは優しいわね」


「なんだよ!いきなり。また見つけたらウルドにも見せてやるよ」


「ありがとう。ずっと、レンの事大好きよ。今までも、これからも」


「え?……」


「何が有っても、レンを守るわ。じゃあまた明日。おやすみなさい」


ウルドは立ち上がる前に俺の頬にキスをした。そして綺麗な左手が俺の髪をくしゃくしゃと撫でる。満足した彼女は振り返り去って行った。


「……ああ、おやすみ」


なんかフラグみたいで、嫌な胸騒ぎがした。

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