24 paradis i klippene《岩の中の楽園》
俺はウルド達の後を追って歩いた。
崖と崖の合間をしばらく進むと門が出現する。遠隔デバイスたちが門を開けると緑に満ちた空間が出現した。
広場だ。その広場にはヴェルダンディの遠隔デバイス達が思い思いの場所にいた。全員白いローブを着て、まるでその光景は妖精の集会場にでも迷い込んでしまったかのようだった。
広場には背の高い木々も生えており、その隙間から青い空が見える。
「すげぇ……こんな場所があったなんて……」
周囲を見渡すと岩の壁に囲まれているが、岩ををくり抜いて作られたかのような建築物が有り。おとぎ話の中に居るかのような幻想的な光景だった。
「岩に囲まれているし、上空からもわかりずらい。隠すにはうってつけの場所ね。居住スペースもあるわ。反対側にはラボ。サーバールームは地下にあるの。行きましょう」
陽の光を浴びてキラキラと髪が輝くウルドの後ろをついて広場の奥へ進むと、再び大きな扉が現れる。
それは岩の壁に繋がっているようで扉をくぐると世界は暗くなる。洞窟のような所だった。ウルドが壁に付いているスイッチを操作すると、点々と電球が灯った。
等間隔に並ぶ電球を辿るように整えられた通路を歩く。床の凹凸は少なく、とても歩きやすい。更に地下へと続く緩やかな階段が出現する。
「ここって、元々は違う施設だったのか? サーバールームを作るにしては大がかり過ぎるだろ?」
「ええ、元々ここは旧世界で採石場として使われていた所みたい。採石場の役割を終えたら、その使用用途は、工場だったり倉庫だったりと色々だったようね」
成るほど。旧世界の人々もここで生活していたと思うとエモい。
石が敷かれた階段が現れ、下りる度にヒヤリとした空気が頬を撫でた。階段を下った先には巨大な空間が広がり、眼下にはずらりと
「すごい……こんなに沢山。これ全部サーバーの機材なのか?」
「ええ、全てそうよ。あの筐体の中にレンが見つけたブレードが幾つも入っているの。ヨツンの民が集めてくれた貴重な物よ……集めてくれた彼らの為にも、成功させなくちゃ」
ウルドは悲しそうな顔でサーバールームを眺めていた。
「大丈夫か? ウルド……」
「ええ、大丈夫よ。ここは冷えるでしょう? 私には丁度いいけど、レンには涼しすぎるわね。凍えないうちに地上へ戻りましょう」
地上に戻り二人で居住施設に入ってみた。
古いがテーブルなどの家具が有る。
棚の中に数冊のノートが入っていた。何気なく手にとりペラペラとめくる。
……ここで作業をしたヨツンの民の記録だった。
ノートの間に何か挟まっていたようで、それはひらりと床に舞い落ちる。
拾ってそれを裏返すと……集合写真だった。その中に両親もいた。
父さん達もここで作業をしていたんだ。よくうちに遊びに来ていたおじさん達も映っている。母さんの後輩や……一気に過去の記憶が蘇ってきた。
写真に写るみんなの顔は希望にあふれた顔をしていた。写真には『絶対にサーバーを完成させるぞ!!』と柔らかい文字で書かれている。
「ウルド、ゴメン……。森を散策してくる。すぐ戻る」
そう言い残し、俺は森へと戻った。
12年ぶりに両親の顔を見た。写真の中の彼等は優しく笑っていた。記憶の中の彼らは、段々とぼやけていたのに。霞んでしまう前に逢えてよかった……
気持ちも落ち着いてきた頃だった。
森の入口から誰かやって来る。木陰に隠れて様子を伺うと、何者かが台車を引いている。台車を引く人物のシルエットに見覚えがあった。
ミノスだ!! よく見ると彼が引く荷車の上にちょこんと座るベルザンディとニイロが居た。
「え! もう着いたのか? 早くないか!?」
もっと遅くなると思ったのに半日しか変わってない!!
驚きのあまり、木陰から飛び出して彼らに駆け寄った。
「よぅ!! 待たせたな!!」
「荷車をもらえる事になって、ミノスが引いてくれた。彼力持ちだね。僕も引いたけどね」
「早い……怖い……」
ミノスとヴェルは普段と変わらない顔をしていたが、ニイロが真っ青な顔をしていた。乗り物酔いだろうか? それともよっぽどすごいスピードだったのだろうか……
「ニイロ、大丈夫か? 中で休もう。ミノスも、骨とか筋肉大丈夫か?……」
ニイロは小さくこくりと頷いて返事をする。
「はっは~↗ 嫁達の為ならこれ位朝飯前よ↑ いやぁ~レンがくれた茶とニイロが作ってくれた飯が旨くてな! あっというまだった!」
「そ、そうか? それならよかった……」
底なしの元気に、思わず乾いた笑みになってしまった。
バイクの隣に荷車を置き、彼らと共に施設の中へと歩みを進める。
「ミノス、ニイロお疲れ、確か中に居住スペースが有るから、そこでゆっくり休んでて。僕、姉さんの所に行ってくるよ」
「おう! わかった! 茶を飲んでる!! 行くぞ、ニイロ!!」
ニイロとミノスを居住区の一室に置いて、ウルドの元に向かった。彼女は地上広場の奥で遠隔アバター達と一緒に居た。
「あら? 早かったじゃない。彼女達が集めたパーツと私達が持ってきたものはサーバールームの方に運んだわ。相変わらずこんなに操作で器用ね。私は3体が限度だわ」
「ハッキングと遠隔操作は僕の十八番だからね、それもスクルドに抜かれそうだけど。姉さんこそあんな情報を捌くのだから末恐ろしいよ」
「ねえ……1体足りないみたいだけど、何が起きたか分かる?」
「ああ、昨日の夜1体襲撃に会った。ヨツンの中央で最後の反応が有る。姉さん達に回収を頼んでもいい?」
ヨツンで襲撃……このお伽噺空間で聞くには物騒な話だった。
「ええいいわ。レン、私と一緒に来てもらってもいいかしら?」
「ああ、かまわない」
ヨツンの街に独りで帰る勇気が無かったので、正直ほっとしてしまった。
俺はウルドをバイクに乗せてヨツンへと向かった。
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