21 Verdandi《ヴェルダンディ》

 旅の途中で聞いた、美女を追い回す月の怪物の正体がミノスだと確信に変わった時、ミノスが異議を申し立てた。


「失礼な↓! 女だったら誰でもって訳じゃないんだよ! 見ろ! 彼女達の不思議な瞳↑! ミルキーウェイの様にキラキラと煌めいて!!……」


 追いかけていた事実は認めるんだな……


「ねぇ、僕達の事アンドロイドって気づいてる?」


 いつの間にか補修が終ったのか、ノルニル姉妹とニイロが後ろに立っていた。

 ウルドの肩は傷も分からないくらい綺麗に補修されている。ニイロ、いい腕している。……と言う事は、ヴェルの手は自分で直したのか? 彼女意外と不器用なのかもしれない。


「ああ、勿論だ!! 気だるげな感じが最高だな↑↑! 俺の嫁にならないか??」


 それを聞いたニイロは彼女を守るように立ち塞がる。おおぉ!小さい騎士だ。

 ヴェルは少し驚きながらも……


「残念ながら僕のご主人様はニイロだから諦めて?」


 ヴェルはニイロに後ろから優しく抱きついて、ミノスにそう告げる。彼女の言葉にニイロは嬉しそうに微笑んだ。そんな仲睦まじい姿を見せつけられたミノスは、この世の終わりの如く嘆いた。


「嘘だーーー!! いやだーーー!! じゃぁ、緑のアンドロイド」


『じゃあ』という妥協案にウルドの眉間にしわが寄る。


「消去法で選ばれるなんて悲しいわ。私もご主人様が居るから願い下げよ? もう一発キツイのいっちゃう?」


 彼女は頬を膨らませて、スタンガンをバチバチ言わせていた。こら、やめなさい。


 二人に振られてしまったミノスはガックリと肩を落とした。電球切れだろうか、ミノスの周りだけ暗く感じる。


「何でダメなんだ↓↓↓ 俺がそいつらより年を取っているからか? 年下じゃないとダメなのか? ……はっ!! そいつらごと愛せばいいじゃないか!! いいぞ! 俺は器が広い↗」


 問題が解決したのは良かったけど、明らかに俺とニイロも巻き込まれているのを感じた。


「ねえ、それよりもなぜニイロの家はこんな状態になってしまったの?」


 取りあえず、ミノスの話題は横に置いておかれた。

 確かにそうだ。なぜ、誰が何のためにこんな事を……


 ニイロは顔を曇らせる。思い出が詰まった家が潰れてしまったのだ、これは非常にショッキングである。


「捲き込んでしまったばかりに、申し訳ない事をしたね……僕がこの部屋で目覚めた晩、外に出たら遠くにロキアスとスクルドが居たんだ。そしたらヘカテーを撃ってきて肝を冷やしたよ」


「 スクルドに?? ランデブーポイントが違う……それにオーナーも低確率で一番最悪な人物じゃない。しかもヘカテーなんて」


「そう、彼等英雄派に過干渉されてこの計画は芳しくないルートに入った」


「ロキアス……お父様からの命令ね」


「その様だね。せめてもの救いは、ロキアスはいつも通り遊んでいるだけって事だ。本気を出していない」


「本気を出していなくてこれか?」


「ああ、そうだよ? おそらく僕を消すか捕まえるつもりで居たんだろう。ただ、ミノスに妨害されて二人は興醒めして退散したよ。そこでミノスに見初められたみたいだね。でも、デイマキナに追われちゃって」


「月裏がデイマキナを奪おうとしてるわ、昨日月裏のハッキング痕跡があるアンドロイドを見たわ」


「なるほどね、追ってきたロボットは月裏の熱烈アプローチだったんだね」


「なぁ、そのロキウスって奴はヨツンにも絡んでいるのか?」


そいつが親父達の仇なのだろうか。俺はヴェルに尋ねた。もしそうならば俺は冷静でいられない。


「……いいや、今回とヨツンの共通項は《重力砲ヘカテー》だけだよ」


「重力砲?」


「ああ、旧世界末期の宇宙兵器で衛星軌道上を漂ってる。極小のブラックホールを発生させて対象を破壊する兵器だよ。急いで造ったみたいだからポンコツだけどね。アルカディア月裏研究所の変態がハッキングして手に入れた。12年前の使用で壊れて権限ごと凍結された筈だけど、無理やり使ったみたいだね? 威力は強くなかったのが不幸中の幸いかな。今回の攻撃でヘカテ―の反応は消えたから、逆にロキウスがヘカテーに止めを刺した形だね」


 そんなものでヨツンを消し去ったのか……あまりにも残酷すぎる……


「なぁ、もっとヨツンについて教えてくれないか?」


 するとヴェルは静かに首を振った。


「僕が持っているヨツンの情報カードはこれだけだ。残りは月裏のサーバーにしまってある。詳しく答えられなくてごめんよ」


「……いや、ありがとう。また一つしれて良かった」


 ヨツンを壊した兵器が消えただけでも救いだ。そんな兵器存在し続けてたまるものか。

 月裏の連中が関連していることは分かった。もっとだ…もっと情報が欲しい。

 考え込んでいると、手に温かいものが触れた。ニイロの手だ……彼は心配そうな顔で俺を見つめている。


 ダメだ、心配を掛けてはいけない。


「ニイロ、大丈夫だよ。心配かけてごめん。皆もすまなかった。話を続けようか?」


「じゃあ、おさらいとこれからの予定を話そうか?」

「ええ、そうね」


 俺達は、テーブルを囲み椅子に座り今後のスケジュールの確認を始めるのであった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る