22 Yggdrasill《ユグドラシル》
ウルドは皆の顔を見渡して、確認を始めた。
「まず私達の最終目標の確認だけど、私達は
「それが、ユミルのパーツで造るサーバーって事だな? 新サーバーに移行しないとヨツンの資料を閲覧出来ないし、デイマキナハッキングの件も解決出来ない」
俺は以前、彼女から聞いた話を思い出しながらしゃべる。と言ってもつい先日の出来事だが。
「そう、新サーバの設計はベルウッド夫妻に詳細を詰めてもらい。地上で動けなかった僕達に替わってこの計画の下準備をしてくれた。そしてサーバーに名前まで付けて貰った」
「パパたち……両親はこの新サーバー事を≪ユグドラシル≫と名付けました。先人が遺したプランを基礎に設計図を書いてます。僕のノートパソコンの中にそれは保存済みです」
彼は背をっていたリュックをおろし、体の前で抱えるように持った。
しかし……
「ユグドラシル?」
聞き慣れない名前だった。疑問符をつけて言葉が漏れてしまったので、隣にいたウルドが解説してくれた。
「旧世界の神話に登場する、
む~ん……なるほど、分かったような分からないような……。旧世界の神話になぞられて命名されていると言う事は分かった。
「このユグドラシルはどこに造るんだ? 電子機器で情報を扱うものなら場所選びも重要だろ」
「ええ、それはヴァ……」
「姉さん」
何か言おうとしたウルドを遮ってヴェルダンディが補足した。
「その件だけど予測がぶれた。ニイロ、ユグドラシルの設計図を姉さんにもシェアしてもらっていい?」
「うん!」
ニイロはリュックの中から板のような物……ノートパソコンを取り出して開くと、ケーブルを繋いでそれをウルドに渡した。彼女はそれを受け取りチョーカーに接続する。仄かにチョーカーと彼女の瞳が光を帯びた。
「……この場所って……それに、この設計図って」
ぽつりと零したウルドの表情が曇っている。なにか大きな問題でもあったのだろうか……
「そう、スクルドの合流予定とオーナーが代わって、僕も予定より目覚めが遅くなってる。予定が狂い始めていて、その影響はユグドラシルの設置場所と規模にも出ている」
彼女は悲しそうに俺を見つめた後、ゆっくりと瞼を閉じた。そして、ケーブルを静かに外しニイロに返す。
ウルドは申し訳なさそうに微笑ながらニイロに語りかけた。
「ニイロ、ご両親の意志を継いでくれてありがとう。ご両親にも感謝の気持ちでいっぱいだわ」
「いえ、両親やおじいちゃんの夢でもあるので、僕が叶えないとみんな報われません」
そう言って彼はノートパソコンを静かに閉じた。ニイロの隣に座っていたヴェルは彼の頭を優しく撫でた。そんな彼女が俺達を見て問う。
「ちなみにパーツ集めの進捗は?」
「ブレードが4つよ」
「収穫があって良かった。こちらも順調。予備機達を遠隔アバターとして情報収集とパーツの捜索に当たらせてる。そのまま新しい予定地に向かわせてるよ」
「ん? どういう事だ?」
茶を飲みながらミノスが尋ねた。聞いてたんだ!
ミノスの質問にニイロが丁寧に答える。
「ヴェルの予備機体のロボット達を彼女が遠隔で操作しているんです。そしてユグドラシルを据える拠点に向かってもらっています」
成るほど、だからこのラボにはウルドの所とは違い予備機が居なかったのか。確かウルドの所には10体ほど予備機がいた。ヴェルも同じくらい所持していたと考えると……10体同時に制御してるのか?? 涼しい顔して中々すごい事してるのでは……?
「なあ、ユミルのパーツは足りるのか? サーバーを作るとなったらもっと資材が必要になるんじゃ……」
「これから拠点となるべき所に両方あります」
そんな都合がいい事……
「ヨツンです。祖父の手記によるとヨツンはユミルのパーツを集めていました。それが理由で街は破壊されています」
俺はそのワードにドキリとした。ここで聞くとは思わなかったのだ、ヨツン……ユミル……先日、ドナールが吐いた言葉を思い出した。奴が言っていたことは本当だったのか……
ウルドを見つめるが彼女は申し訳なさそうに悲しい顔をして首を静かに横に振るだけだった。その情報は月裏サバーの中か……しかしこんな所に情報が有るとは……俺はニイロに尋ねた。
「なんで集めていたんだ?」
「動機は分かりません、ページが破り取られていました」
「でも街が破壊されんじゃパーツは……」
「祖父が残した手記には街から離れた場所で、ユミルを集めて作業していたようです」
ウルドは目を伏せた。あの森にそんなものが……
待て。確かユミルって機材の名前のハズだよな? 何でそれを組み立てただけであんな惨い目に遭わなければいけなかったんだ??
頭の中でぐるぐると考えを巡らせていると、ミノスが皆に向けてあっけらかんと尋ねた。
「なぁ、ユミルってなんだ?」
その問いにニイロが答える。
「ユミルは旧世界で造られたサーバーですが、もう一つ意味を持ちます。その中には同じ名前の人工知能が存在していました。旧世界の終末戦争の原因と噂されている人工知能です。でも終末戦争の始まりと共にユミルはシャットダウン、使用していた機器も分解もしくは破壊されました」
人工知能……そう聞いてノルニル姉妹は険しい顔をした。
旧世界の終りに人工知能が絡んでいたなんて、そんな話全然知らなかった。
「父さん達がそのAIユミルを? そんな危ない奴を復活させようとしたのか……?」
ニイロは驚いて、その後目を伏せた。
彼の情報もここまでと言う事だ。子供に詰め寄り過ぎてしまった。
俺は慌てて彼に謝る。
「レン、真意は記録を見ないとわからない。どんな結末でも真実を知りたい?」
心の中に住まう子供の俺が、父さん達は悪い事をしないと泣きそうな顔で叫んでいた。俺もそう信じたい……
「ああ、中途半端な事実は判断を狂わせる……全部知るまでついて行く。ユミルはヨツンのどこにあるか分かるのか?」
「ええ……。設計のメモによれば、ヨツンの東に有る森の中にそれは隠してある」
脳裏に灰色の空へと、鳥が飛び立つ映像が見えた。
俺がヨツンと運命を違えた場所……そこに全てはあった。
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