19 Spøkelse《おばけ》
―――アルカディアの所長は語る。
「ハルピュイア・リュカオン・ケンタウロス・ミノタウロス……何故、神話の生物を作ろうと思ったかって? 力を見せつける為さ。そして文明が廃れ混沌とした世界に神話の時代を作り我々が神として君臨する!」
◇ ◇ ◇
この日の夜、俺達は幽霊が出るという場所にやって来たが……それはウッドベルさんの研究所の近くだった。
周りに民家も無く、月明かりだけが不気味に辺りを照らす。俺達はライトを持ち周辺を探索した。野生動物の遠吠えに混じり聞いたことの無い鳴き声も聞こえてくる。まさかキマイラか??
「何も居ないわね……」
「ああ、動物や虫の鳴き声しか聞こえない……」
ため息を吐きかけたその時、裏山の茂みから、がさがさと慌ただしい音が聞こえたと聞こえてきた。何だろう? 何かが走ってくる……!
「まぁぁぁてぇぇぇぇぇ↗い!!」
野太い声が聞こえた。二人して用心深く茂みを見ていると
―――ドーン!!!
轟音と土煙を連れて影が三つ飛び出して来た。
先頭は白いボロボロのローブを頭からすっぽりかぶっている。ローブの裾から見える人の脚が虚空を蹴る。 まるで子供が頭からシーツを被り幽霊に化けている様だ! 手に大きな布袋のような物を大事そうに抱えている。
次に出てきたのは工業用人型ロボット。角の丸い四角で構成されたロボットが、手に鉄パイプのような物を携えてローブの幽霊を追っている様だ。
そして最後尾に大きい影が工業用ロボットを追いかけてる。頭から一対の黒い角を生やし黒い艶やかな短髪と浅黒く日に焼けた肌、半人半牛の筋骨隆々の青年……
一度にいろんな情報が飛び込んできて思考が固まった。そんな俺をウルドの声が現実に引き戻す。
「キマイラ……ミノタウロス!!」
ウルドが驚きながら叫ぶ。ミノタウロスの手には巨大な斧が握られて、ロボットを壊そうとブンブンと振り回していた。
先ほどの轟音と奇声は彼が発した物だろう。このキマイラ、昔から地上で生きていたかのように活きがいい……片や幽霊は一切反撃せず跳ねるように逃げるだけだった。
「幽霊の
「わかったわ!」
そう言ってウルドは俺にレールガンを投げて渡した。使い方はもう分かっている。
俺はライトを取り出し、ミノタウロスの着地を狙い、彼の目にライトを当てた。急に眩しくなったミノタウロスは動きが取れず俺に向かって吠える。
「うおおおお!俺の邪魔をするなぁぁぁぁぁ↗!!!!」
だがもう遅い、ワンテンポ遅れた彼の懐に飛び込み俺はレールガンをスタンガンモードにして押し当てた。
―――バチン!!
「うおぉぉぉぉぉぉ→」
大きな電撃の音と共にミノタウロスの巨体は地面に沈む。
一方ウルドは、ロボットの胴を思いっきり蹴って転ばせた。左手を使い器用に着地すると、
ロボットの上に馬乗りで座り、後頭部にある赤いボタンを押す。するとロボットは“ぷしゅ~”と音を立てて沈黙した。
その音を聞いた幽霊が振り向きウルドに向かって駆けて来た。
まずい! 敵対するのか? ウルドの援護を急がねば! スタンガンを撃つ準備をして彼女に駆け寄る。
幽霊は右手に銃を持ち、ウルドの頭に向けて構えた。同時に俺とウルドもそれぞれスタンガンとナノマシンの刃を幽霊に向かい構える。
月に照らされた3つの影は同時に動きを止める。
幽霊のフードから覗く口元が動き、中性的な声色で抑揚のない声が聞こえてきた。
「おや? この顔では初めましてかな?」
そう言って幽霊は銃を納めた。併せるようにウルドも刃を納めて微笑む。
俺も二人に合わせてスタンガンを降ろした。
「ええ、そのようね。やっと見つけたわ……ヴェルダンディ」
ウルドよりやや小柄な彼女は、バサリとフードを降ろした。
晴れた空の様な青い髪のショートカットに、吸い込まれそうな青い瞳。陶磁器のような白い肌。
その首にはウルドと同じEオビウム社のロゴが入ったチョーカーをしている。
≪HDL‐LS20‐Pt:B≫
彼女に見とれていると、腕に抱えられていた物体がもぞもぞと動いた。それは布袋ではなく同じくローブを着た人間だ。
「ゴメン、今降ろすよ」
優しく語りかけて、抱えていた人物を降ろす。その背丈はヴェルダンディの腰ほどの高さだ。同じく中性的な声がした。
「ヴェル……この人たち誰?」
問いかけながら目深に被ったフードを降ろす。
それは少年だった。
赤銅色の髪に茶色の瞳。今日俺達が探していた少年、ニイロだ。
ニイロはヴェルダンディに隠れるようにしがみつきながら俺達を睨む。
ヴェルダンディは彼の頭を優しく撫でると、無表情だった顔に笑みがこぼれる。
「ニイロ、彼女は僕の姉妹機、新しい名前は……ウルドだったよね? 姉さん。こんばんわ。いい夜だね」
彼女達の予測は現実となる。
俺達は無事にヴェルダンディとニイロに合流することとなった。
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