14 ELIZA《イライザ》
―――Re:
『返信』
◇ ◇ ◇
立ち寄った村で畑の手伝いが終った後、二人で近くの川で休んでいた。
人通りも無いためウルドはパーカーを脱ぎインナー姿になっている。
「はぁ~空冷~~~!!」
彼女は体に熱がこもる事を嫌がる。そして浅い川に足を浸し
「水冷~気持ちいい~~!!」
冷却タイムが始まった。
全身で伸びをして気持ちよさそうだ。背中まで伸びている若草色の髪も、風にそよがれて気持ちよさそうにたなびいている。アンドロイドってこんな感じだったっか??
彼女曰く『ホントはこの浅い川に寝転びたい』らしいが、肩が壊れている為入れないとのことだ。
いいのか悪いのか、彼女がインナー姿で寛ぐ光景に慣れてきた。だがしかし!最近悩ましい事柄が増えた。
もちろん、今の状態の彼女も自身で髪を梳かす事は出来る。実際その現場を俺は目撃している……俺が戸惑っていると彼女はしゅんと悲しそうな顔をした。
あ……甘えられてる??
結局彼女の要求通り朝晩髪を梳かすのが俺の日課となった。からかっているのか天然なのか……こちらの心臓も心配してほしい。
俺は川のほとりの木陰に腰をおろし、水筒の水を飲みながら休憩する。旅が始まり数日経つが、まだ彼女の妹の情報は入ってこない。
こればかりはもっとニブルヘイムに近づかないと難しいか……
などと回想しながらぼんやり彼女を眺めていると、川に入っていたウルドがくるりとこちらを向き直立不動のアンドロイドポーズになった。俺の方をじっと見つめている。
へっ!!!? 何だろう?? じろじろ見過ぎたかな???
「なぁ、君が連れている彼女って……アンドロイドだよな?」
「ひいっ!!!」
俺は急に話しかけられ、驚いて小さな悲鳴を上げた。
気配が全然しなかったんですけどっ!! 何者??
振り向くと俺より少し年上の男性が立っていた。金髪で青い瞳、白い肌容姿端麗なイケメンだった。彼が現れたから、ウルドはアンドロイドの真似をし始めたのか……。
そんな彼女は川から上がり、置いてあったパーカーを着こんでいる。
俺は恐る恐る彼の問いに答えた。もしや、川に入ってはまずかったな??
「はい、そうですけど……」
そう答えて俺はハッとした。否!もしや
この旅路でよく聞かれることがある。
『
不埒な
この人もその手の人か? ウルドの軽装姿を見たから心が騒いでしまったか??
プログラムとはいえ感情が有る彼女にそんなことさせたくない。そんな依頼の時は大抵このように断っている。
「あの、そういうのお断りしてます。彼女にそのような機能は無いので。無理やりやろうとすると誤作動や事故で折れたり怪我しますよ? エグいくらい痛いらしいですよ?」
嘘も方便だ。そう聞くと大抵青い顔して去っていく。
今回もそんなところだろうと高を
彼は土下座をしてきた。
えええええっ!? 何事!?!?
「違うんだ! 見て欲しいんだ」
―――見て欲しい?
何? え? 何を??
「な、何を彼女に見せるんですか? まさか変モノじゃ……」
「彼女にじゃない君に視て欲しいんだ!」
お れ に ????
怖い怖い!!
「俺、そんな趣味無いです!!」
「そんなこと言わずに!! 君にしか頼めないんだ!!」
ええええ? えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!……
◇ ◇ ◇
「へ~♪ レンのむっつりエッチ~♪」
サイドカーに座り風を浴びる彼女はプププと笑い、俺をからかう。
俺だって恥ずかしい。あれあは勘違い
「……やめてくれよ。 というわけでウルド頼む! アンドロイドの整備をお願いいたしいんだ」
「いいわよ? レンの頼みなら喜んで引き受けるわ♪」
先ほど話しかけて来た彼はヘンリーさん。
彼の家にアンドロイドが居るらしい。しかし動かなくなってしまい困っているとのこと。動いているアンドロイドを連れていた俺を見て、修理が出来ないか話しかけてきたのだ。
アンドロイド技術の全容は謎に包まれていて、現代の知識ではまだ追い付けない。もちろん俺も分からない! が……ウルドには分かる事が有るかもしれない。『そのアンドロイド、もしかしてウルドの妹だったらどうしよう?』という可能性を抱いてしまったので、こうやって依頼を受けることにした。
力になれないかもしれないが、見せてもらう事に。
「わ~……いっぱいありますね?」
教えられた彼の家に到着し、中に案内されると様々な機械のパーツが所狭しと並んでいた。あまりにも圧巻な光景を目の当たりにして、おれはポカンと口を開けて感心していた。
「散らかっててすみません……すこし狭いんですが。旧世界の機械を集めるのが趣味でして」
彼ははにかみながら答えた。俺も遺跡探査隊の一員なので、集めたくなる気持ちは良く分かる。ただ、集め始めるとその楽しさ故に沼に嵌る人を何人も見て来たので、俺は沼の淵で指をくわえて眺めているだけだった。
彼の話によると、家の前に例のアンドロイドが倒れていたそうだ。どうにか動かそうと彼なりに調べたり修理をしたものの、「うん」とも「すん」とも言わなくて途方に暮れていたらしい。気分転換に川辺を散策していたら俺達を見掛けたというのだ。
彼にパーツ置き場の奥の扉へ通されると、そこには一体のアンドロイドが横たわっていた。
ウルドと同じEオビウム社製≪HDL-L25≫
褐色の肌に白く長い髪を持った女性型の機体だ。シンプルなリネン素材のワンピースが着せられている。髪も梳かされ、汚れてもおらず埃も被っていない。丁寧に扱われているのがよく分かる。
ちなみに≪L型≫は生活支援型なので性的な機能は持ち合わせていない。もちろん、ウルドの様に戦えるわけでもない。ごくごく一般的でデイマキナにも多いタイプだ。
「この子なんだ……彼女が起動して動くところを見たい! どうか頼む!!」
彼は泣きそうな顔で、俺の手を握り近寄って懇願する。
ちょっと!? ヘンリーさん?? 距離距離!! 近いです!!
「わかりました! 落ち着いて!! 俺達もどこまで出来るか分かりません、なので期待しないでください……。あと修理中なんですが、部屋を覗かないで貰えますか?」
「いいですけど……まさか……」
ヘンリーさんは俺を疑いの眼差しで見つめる。
他人のアンドロイドに手を出そうとする奴が存在するのは、俺もこの数日で痛い程理解していた。彼は俺がこの機体に手を出さないか疑っているのだ。
他人から見たらただの機械仕掛けの人形だが、オーナーからしたら大切な相棒なのに、まったくひどい話だ。
「安心してください、そんなやましい事はしません。おれは……この機体一筋なので」
そう言ってウルドの左肩に両手を添える。
告白しているみたいで恥ずかしい……ちらりと彼女の顔を見ると、ウルドが目を細めて笑ってる!……ヤメロ!そんな目で俺を見るな。
だが、その宣言を信じてくれたヘンリーさんは嬉しそうに答えた。
「同志よ!! では彼女の修理をお願いします! もし、動いたらこの家に有るパーツ好きな物差し上げますので!!」
へっ? ええぇ!?……好きな物!?
部屋の中を見渡すが……パーツが有り過ぎて良く分からない。報酬は期待していなかったので急に言われてたじろいでしまった。
「わ、わかりました。では、何か分かったらお声がけします」
そう言って彼には部屋から出て行ってもらった。
「ふぅ……と言う事で、ウルドどうかな?……っ!!」
見ると彼女はニヤニヤしながら俺を見つめた。嬉しそうな魔女の笑みだ。絶対さっきの『一筋』発言の事を考えてるに違いない!!
「な、何だよその笑いは」
彼女は俺の頬を指でくるくるとなぞりながら、顔を覗いてきた。
「いいえぇ~別にぃ~♪ さて見ますか♪」
上機嫌な彼女は、自身の電源出力ケーブルを修理機体に接続した。電気音と共に静かに充電が始まる。
「これってさ汎用機だよな。ウルドの妹達ならきっと特別な機体に入るんだろ?」
「二つとも正解♪ この子は汎用機。当時人気のあったモデルね。妹達の機体は特別製なの。私達はデータ容量が多いからね。造らないと入れないのよ」
まぁ、それだけ人間らしさと戦闘に特化しているなら情報量が半端ないはずだ。
待て……造らないとと言う事は
気になる事をさらりと言いやがる。そこを詳しく聞こうと思ったら、修理機体の
ウルドは左手でその表示に触れるように操作する。
「利き手じゃないと不便ね……利き手設定しなければ良かったわ」
「利き手が有ったのかよ……」
「ええ、その方が人間の雰囲気が出るでしょ?」
雰囲気重視って!! だから、データが重いんだと思うぞ?
「……よし! これで回線を切って、彼女をスタンドアローンに出来た! お邪魔します♪」
そう言ってもう一本ケーブルを引き延ばすと修理機体につなげた。
すると修理機体の瞳のカラーがウルドと同じ緑に変わる。
「今どんな状況?」
「充電しながら、直接ハッキングして故障原因をサルベージしてるわ」
修理機体からウルドのゆったり口調の機械音声で答えられる。違和感で脳がバグりそうだ。
「機体名は
「どうした? 何か問題か?」
「レン、一つお願いが有るのだけどいいかしら? 気になる事が有って……」
「なんだい?」
「何故ヘンリーさんがこの子を拾ったかもっと詳しく動機を聞いて欲しいの。あと拾った時の詳しい状況も」
動機と状況?……彼なら教えてくれるとは思うが……何が有ったのだろう?
「分かった、聞いてみるよ」
俺は彼女達を残し、部屋を出た。
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