5 Camping kveld《キャンプの夜》
―――旧世界機械愛好家は語る。
『アンドロイド製造メーカーも種類が有りましてね。特に人気が高いのはE.オビウム社。丈夫で誤作動も少なくて、何より造形が美しい!! 当時のカタログを見ると、機械の体に脳を移植した『サイボーグ』と言われる存在も居たらしいですよ!? ロマン有りますね!!』
◇ ◇ ◇
夕食後、バス兼談話室に居ると探索隊のメンバーが物珍しさにウルドを見に来た。
みんな興味津々で『手を触らせてくれ』と云ったり、女性隊員により彼女の腰まである長い髪は櫛で丁寧に
ウルドは『ありがとうございます』と言う時だけ笑顔を見せたが、終始無表情を貫きアンドロイドを演じていた。
その夜、俺はテントを渡されそこに泊まるようにと指示された。
女性陣の宿泊テントに空きがなく、ウルドを男性陣のテントにも入れるわけにいかない。持ち主が管理してくれ……と言うことだ。
えっ!? ウルドと一緒……いや!彼女はアンドロイドだ!!……アンドロイド……思わず型番を思い出し顔が熱くなる。頭冷やして来よう……
落ち着きを取り戻した俺は寝袋の中に寝転がりながら本を読んでいたが、視界の端に映るウルドが気になってしまった。
彼女はパーカーを脱いで俺の隣に敷いてある寝袋の上で寛いでる。黒いインナーが見えているが、昼間とデザインが違い腹が隠れて露出が抑えられてる。ウルドは俺の視線に気付いたのか不思議そうに尋ねる。
「そんなにジロジロ見てどうしたの?」
「いや、その……」
俺は慌てて本で顔を隠す。インナーのデザインが変わっている事なんて聞けない。しかも本人に気付かれるくらい見てたなんて恥ずかしい。
「なぁに? 何か気になる事が有るの?」
俺に大きく影が落ちた。彼女は俺の髪を優しく撫でる。くるくるとブラウンの髪を指で弄びながら彼女は優しい微笑みで俺を見つめた。彼女の瞳に紫色の俺の瞳が映り込むぐらい近い!
俺は慌てて自分の身を彼女から離す。アンドロイドとはいえドギマギしてしまう。
「ウルド! 近いって……」
「あら? ごめんなさい? レンが可愛らしくって♪ 体が有るっていいわね?」
心から嬉しそうに微笑む。
そんな表情したら勘違いされるぞ……
「可愛らしいって、俺も男なんだ。そうやってからかうのは止めてくれ」
「えぇ~? 分かったわ。レンがその気になるまで待つわ」
ウルドはクスッと笑うと寝袋の上にうつぶせになって俺を見つめる。
「あ~ぁ。初日から楽しいわ。それにあんな大勢の人間に囲まれたのは初めてで緊張しちゃった。私、アンドロイドらしかったかしら?」
「ウルドにも緊張の概念が有るのか? ……別のアンドロイドかと思ったよ」
俺の返事を聞くと彼女は「やった~」と喜びながら子供みたいに脚をパタパタと動かした。
「みんな優しいわね。髪型のアレンジまで教えてもらって、靴まで貰っちゃったわ。明日、彼等に働きで返さないとね♪」
ウルドは自身の毛先を嬉しそうに弄び、テントの端に置いてある靴を嬉しそうに見ている
む? そう言えば、履いていたあの黒いヒールはどうしたのだろう? 貰った靴しか見当たらない。
「なぁ、ウルド。履いていた黒い靴はどうしたんだ?」
「あぁ! あれは結合したわ。新しい靴を貰ったからね」
「結合?」
「あれはナノマシンの集合体なのよ。何にでも形が変えられるの。ほらこうやって武器にもなる」
そう言って右手を伸ばすと肘から先に蠢く様に黒いドロリとしたものが体中から集まり刃の形を成した。あの銃を隠した黒いのもこれか……
「材料が少なくて増殖させるの大変なのよね。だからこれが限界かしら」
などと言いながら黒い刃をランプに
へぇ、面白い。自由に形を変えて強度まで変わるのか。
……しかし、もっと困ったことが起きていた。ウルドが着ていたインナーが消えている。いやな予感がする。動かないでくれ! な、何か見えた。
俺は枕に顔を突っ伏しながら聞いてみた。
「まさか、ウルドが着ていたそのインナーって……」
「ナノマシンよ♪」
成るほど、武器兼装備になると……
これは絶対に布の服を着せないと、うっかり武器を生成して大変な事になる。
「分かった。頼む早く元に戻してくれ」
「え? 分かったわ。……あら? 耳まで真っ赤よ。可愛い♪」
この子は羞恥心を学習して欲しい!
視界の端に映っていた刃が消えたのを確認して顔を上げた。
無事彼女のインナーは元に戻っていたので、安堵の息を吐く。
俺の知らない技術の見本市になっている。本当に彼女はアーティファクトなんだな……じゃあ、あの話も本当なのか? 俺は引っかかってたことを聞いた。
「ウルドは本当に未来の事が分かるのか? それに過去も」
「ええ、知っているわ」
「どこまで知ってるんだ? 昔もどこから知ってる?」
「この新世界の始まりから終わりまでよ。旧世界も少しだけデータが残っている。……未来を知りたいの?」
彼女は少し悲しそうに静かに笑う。未来も気になるけど……
「いや、俺が知りたいのは過去だ。……12年前にヨツンという街が消えた事も知ってる?」
「ええ、電子機器の研究者の街が突如消滅した事件ね……知っているわ。確か記録では男の子が一人助かっている。名前はレン=シーナ……ご主人様の事よね?」
ゾクリとした恐怖を感じた。何で知ってる? 思わず身を起して構えてしまった。
「……俺、事件の事は誰にも話していないのに、何で知ってる? 誰から聞いた?」
「誰からも聞いていないわ。私達は独自の方法で情報を集めるだけだから」
ウルドは寝返って仰向けになり、遠くを見つめるような目で話す。本人しか知りえない情報すらも集めるだと? だとしたら……
「じゃぁ、ヨツンが消滅した原因と理由も?」
「もちろん……でも、今は教えられないの」
「そんな! なぜ……!?」
俺は彼女の頭の横に両手を着いて顔を正面から見据える。彼女は悲しそうに説明した。
「この事件のデータは
「つまり……ウルドが言っていたユミルのパーツを集めて新サーバーが完成すれば分かるのか」
「そうよ? 私の事信じてくれた? それとも好きになってくれた?」
彼女は困ったように微笑んで小首を傾げる。そして、そっと俺の頬を触った。
一瞬遅く来た肩の痛みで冷静を取り戻した。熱くなってしまっていたが、この体勢は……恋人の距離だ。
「ごめん!!」
慌てて、俺は自分の寝袋の中に逃げ込んだ。
隣りからはライトを消し彼女も寝袋に入った音がした。
「私はレンのモノでもあるのだから気にしないで。さぁ休みましょう。明日は珍しい鳥が見れるわよ。おやすみなさい」
なんで……鳥?
「あ、ああ。おやすみ」
心臓がバクバクと騒がしくて眠るのに時間がかかるかと思ったが、昨夜の睡眠不足と昼間の疲れが祟って意外とすんなり眠りに就けたのであった。
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