第7話
自宅に戻った朱音は母へ疲れたから休むとだけ告げ部屋へと戻ろうとした。その際に母から
「やっぱり病院に行った方がいいんじゃない?」
そう言われたのだが、
「そんなんじゃないから、大丈夫、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから。」
と告げた。
「そう?……何かあったの?」
こういう時に母は何故か鋭い。
「いや、何でもないよ。本当にちょっと疲れただけだから。」
「うーん、そう?……分かったわ。無理しちゃ駄目よ。」
母の言葉が胸に染みる。たぶん何かあったであろう事には気がついているのだろう。母にありのままを話そうかとも思った。しかし、魚人の事に自分の身に起きた事。それらをどう説明したら良いのか分からなかった。
それを察してくれたのか分からないが母はそれ以上は追及してこなかった。ここは母の優しさに甘えさせて貰おう。部屋に戻った朱音は
「もう、何が何だかさっぱり分からない事だらけ、でもやっぱり元凶の1つはこの本よね。」
魚人とも関係しているのかは分からない。しかし、自分の身に起きた事と謎の声の事はこの本を手にしてからだ。手に残る感触を振り払うように、また罪悪感から逃れる為にも原因を追及する事にした。
「ちょっと中を見てみよう。」
本を開いて見る。
「やっぱり読める。えーと何々?真言とは……。」
本の内容はこうだ。真言を用いる事でバビロンへとアクセスをしその効果を実行する事ができる。その効果は魔法と呼ばれるに相応しい物で術者が望めば神にも等しい存在に進化できる可能性を秘めたものである。
「バビロンにアクセス?バビロンって何?」
願いを、実行したい事を真言で言い許可を取る。許可が降りればその
「許可?バビロンが許可を出すの?バビロンってもしかして神様?」
朱音がそう思うのも不思議では無い。
「だとすればこの始まりの書って神様の本って事になるのかな?」
願いや実行したい事は具体的である必要があり、抽象的な言葉となると実行されない。なので対象を指定し実行したい事を指示する。具体的な指示をする事により実行する事が可能となるのだ。
「これは何かプログラムみたいだな。」
そして自分の能力値はステータスウィンドウで確認が出来るとあった。
「ステータスってゲームみたい。どうにかすれば見れるのかな?
『ステータスオープン』
試しに
「おおっ!」
指で触れようとしてみるが、
「触れない。」
指は板を通り抜けてしまう。
「どうやって表示しているんだろう?」
空中に投影された文字はそこにパソコンの画面があるかのような感じだ。
「これが私のステータスなんだ。VRやった事ないけど、VRでゲームしてるみたい。」
朱音はそれほど得意ではないが、ゲームはそこそこする方だ。もっぱら手軽なパズルゲームを主にしているが、RPG等もいくらかはやった事がある。なので自分のステータスを見るとなるとワクワクするものがあった。表示に目を落とす。内容は
名前 天王寺朱音
種族 人間 女
年齢 21歳
レベル 3
「レベルなんてある。3って低くない?人間普通に生きてきたならそんなもんなのかな?」
そこまで目を通して次を見た時
「何で体重なんて項目あるかな?スリーサイズまである!この画面は女の敵ね。」
そして体力、精神力、筋力、敏捷、幸運、と項目が続いていた。
「それぞれの項目の値も他の人と比べないと分からないな。」
そして、スキル
犬の気持ち(シロ限定)
「うん、まあ
「ワン?」
シロが自分が呼ばれたと思い返事をした。
「あ、いやゴメン。何でもないよ。」
そこまで言って気がついた。
「あー、そう言う事か。シロの言っている事が何となく分かるのをスキルとして認定されたのか。」
何となく府に落ちた。
「まあそれはいいとして、どうしよう。何ができるか、何をすればどれくらい精神力を消費するか試してみたいけど、家の中でやるのは怖いよな?うーん……。」
「ワン!」
シロが本に前足を置いた。
「試す前に全部読めか、確かにそうだね。」
再度本を開き中を見ようとするが、
「ここまでか……。」
先のページをパラパラとめくる。しかし何処にも何も書かれていないページが続く。
「何でここから先は何も書いて無いんだろう?」
シロも不思議に思ったのかそれとも真似をしただけなのか首をかしげている。
「仕方ない。今できる事を試してみるしかないか。えーと、簡単にできて安全そうな物……。」
ふと机の上に消しゴムが転がっているのが見えた。
「これを使ってみようか。」
『消しゴムよ動け』
しかし何も起きない。
「あれ?動かないじゃない。
「ワン!ワフワフ。」
「え?抽象的過ぎる?何で?」
「ワウンワフ。」
「動けだけだとどう動けば良いか分からない?」
言われてみればそうだ。犬でも気付いたのに私は……。気にしたら負けだ。
『消しゴムよ机から落ちろ』
消しゴムがパッと消えたかに見えた。というのも消しゴムが床に落ちた事で移動したのだと気がついた。
「え?瞬間移動した?」
「ワフンワフ。」
「速すぎて見えなかったのじゃないかって?そうか、速さの指定をしたら良いのか。」
消しゴムを拾い机の上に戻し
『消しゴムよゆっくり動き机から落ちろ』
今度は消しゴムは机の外に向かって最短距離をゆっくりとした動作でまるで何かに押されているかのように進んでいき、机から落ちた所で止まった。
「これが
「ワン。」
「もちろんって。何で分かるんだろうね?いつもの言葉とは全然違うのに。」
「ワウ?」
「そうよね。分からないよね。色々試してみたいけど部屋の中じゃそろそろ限界かな……。また明日にでも海岸に行って試してみようか。人も居ないだろうし。」
そこまで言ってから魚人の事を思いだした。
「また出て来る可能性もあるよね……。それは嫌だな。」
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