第3話

 「ただいまー。」

 「おかえり。今日は何か良いものあった?」

 そう返事したのは母、天王寺雅子てんのうじまさこ。今はこの家に母と2人暮らしだ。父、天王寺彰てんのうじあきらは地震で職場を失くし仕事を求め単身出稼ぎに出ている。地震で家が倒壊したり、家族が亡くなったのはこの町でもかなりの数がいるのだが、こうして家族が無事で痛みはしたが住める家があるのは幸運だったと言える。

 「やっぱり遅かったみたい。これといった物はなかったよ。」

 そう言って持っていたバケツを母に渡す。

 「そうかい。近所の漁師さんの話しじゃ、漁に出ても全然獲れないって言ってたしね。」

 「そうなの?魚でも何でもいいからお腹いっぱい食べたいよね。」

 「そうよね。でも復興が進まない事にはなかなかよね。どこの国も輸出しようにも港が駄目になっているとか、それ以前に畑が駄目とかあるらしいからね。元に戻るまで数年どころか数十年かかるんじゃないかって言われているわよ。」

 世界情勢も各国がそれぞれ自分の国の復興に忙しく他の国に構っていられないのが現状で、それは日本も例外ではない。いつもなら災害の起きた海外へ復興支援として人を派遣しているのだが、自国内がこの状況。どこの国も他国を気にする余裕など無いのであった。それの影響も在りニュースで流れてくる情報は国内の物が殆どで、海外の復興の状況等はなかなか見ないのが現状だ。

 「ふーん。そうなんだ。どこでその情報聞いたの?」

 「隣の山田さん。ラジオで聞いたんだって。」

 「ふーん、でも山田さん話しって適当だったりするじゃん。信憑性はどうなのよ?」

 「それは私に聞かれても困るわ。知らないわよ。」

 「ま、別にいいけどね。それじゃ私は部屋に戻るね。」

 「ちょっとは手伝いなさいよ。」

 「私はシロの散歩に行って疲れているのだ。」

 「もう、まあいいわ。その変わりまた後で海岸に使えそうな物探しに行ってね。」

 「えー、また?」

 「当然でしょ?働かざる者食うべからずよ。」

 「もう、分かりました。お昼食べてからで良いでしょ?」

 「そうね。お昼ご飯ができたら呼ぶから、それまでゆっくりしてなさい。」

 「はーい。お願いします。」

 朱音は軋む階段を2階の自室へと登って行った。

 「はい、シロ。あんよ拭いてね。」

 「ワン!」

 母がシロの前に雑巾を置くと、シロは器用に足を1本ずつ雑巾に擦りつけ、足を綺麗に拭いてから朱音の後を追いかけて行くのであった。

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