第2話
朱音は愛犬のシロとバケツを片手に海岸へ来ていた。
「何か良い物ないかな?」
そう言うのも昨日は嵐が来ていて海が荒れていた。嵐が過ぎ去った後には海岸には魚や様々な物が打ち上げられている。そういった物を目的としシロの散歩ついでに海岸へと来ていたのだ。
というのも日本、いや日本だけではない。世界中は疲弊していた。半年程前に日本を襲った大地震。関東から関西にかけて大きな範囲を地震が襲い日本は大きなダメージを受けた。そしてそれを皮切りに世界中で巨大地震が頻発し、各国は他の国の支援どころではなくなっいた。半年経った今でも復興はあまり進んでいない。
「シロ。何かないかな?」
「くぅん?」
太陽はすっかり昇って海岸を照らしている。早い人は明るくなる前に来ていただろうから何も無いのも当然である。
「あーあ、せっかく海岸まで来たのに手ぶらか。」
と言いつつも本音は何かあるのを期待していない。すると
「ワンワンワン!」
シロが波打ち際へ向けて走り出した。
「え?ちょっとシロ!何かあったの?」
そこに落ちていたのは1冊の本。
「うへぇ、濡れた本とか……。」
そう言いながらもその本を手に取る。
「あれ?濡れてない?」
その本をまじまじと観察してみる。表紙には見た事もない文字で
「始まりの書、か。」
〔¢ゝ〆〕
「ん?何か言った?」
波の音か風の音だったのか何かが聞こえた気がした。辺りを見回すが何も無い。あるのは海と砂浜だけだ。
そしてその本に改めて目を落とす。裏には何も書かれてほいない。表紙をめくろうとして気付いた。
「え?……何で?何でこんな見た事もない文字が読めるの?」
自分でも意味が分からない。見た事のない文字なのは間違いない。しかしその書かれた文字が始まりの書と書いてあるのも確信を持って間違いないと言える。
「気味が悪い。」
そう思うのだが、その本の存在が気になって仕方ない。
「うー、」
このまま見なかった事にして捨てていくか、それとも……。
「ワン!」
悩んでいるとシロが何かを見つけたのか走り出した。慌ててそれを追いかける。シロが砂浜に口を近づけ何かを咥えた。それは陽光を反射しキラキラと輝く。
「何それ?」
朱音が手を出すとシロは咥えた何かをそっとその手の平の上へ置いた。それを手に取り眺める。
「鱗?」
それは朱音の手の平程もある大きな鱗だった。
「こんな大きな鱗なんて初めて見た。こんな鱗を持った魚なんてかなり大きいんだろうね。」
その姿を想像して身震いする。イメージはサメだ。しかしサメには鱗など無い。それはもちろん知っているのだが、鱗の大きさから言うとそれくらいの大きさをイメージしてしまうのだ。
「想像したら怖くなっちゃった。もう帰ろうか。」
「きゅーん」
シロが不服そうに鳴いた。
「まだ散歩足りないの?」
「ワン!」
そう吠えながら首を縦にふる。
「もう、仕方ないな。けど海は何だか怖いから海じゃない所で寄り道しながら帰ろう。それでいい?」
「ワン!」
「よし、それじゃ行こうか。」
本を手にしたままだという事も忘れ朱音とシロは歩き出した。
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