第9話:猫屋敷 怪人(ねこやしき かいと)。

メルバが早生のマンションで暮らすなら、服も買わなきゃいけない。

飯も食わさなきゃいけない。


ってことで俺はメルバを連れて街に出た。


早生は自動二輪と車の免許は持っていたがバイクも車も持っていない。

だから足はもっぱら公共機関を利用していた。

カメラマンとしての仕事も県外が多いから車を使うことはほぼない。


メルバがはっきり彼女って言えるかどうかまだ分からないけど、こうなった以上

やっぱり車は必要か・・・ポンコツでもいいから・・・早生はそう思った。


早生とメルバはバスに乗って大型スーパーに直行した。

街のブティックにメルバを連れて行ってもよかったが、そういうところの服は

めちゃ高いから・・・。

スーパーの婦人服売り場ならさほど高くもないだろうって早生は安易に思って

いた。


で、スーパーのエスカレーターで4階へ上がろうとした。

そしたら誰かに声に呼び止められた。


声がしたほうを振り向くと世話になってる出版社の「猫屋敷 《ねこやしき》」だった。

早生とは同僚みたいなもの。

女に手が早く金にルーズ、だけど性格は悪いやつじゃない。

案外いざとなったら頼り甲斐はある男・・・だから時々飲みにも行く。


「おう、ねこ・・・」


「なに?早ちゃん・・・買い物?」


そう言いながら、ネコは早生の横にいるメルバを目ざとく見た。


「連れ?・・・彼女とか?・・・」


「あ、俺の妹・・・妹の・・・え〜・・・桃」


早生はとっさに嘘をついた。


早生が夏と付き合ってることを猫屋敷は知ってるからメルバのことを彼女だって

言えなかった。

やばい、やばい。


「へ〜妹さん・・・早ちゃんに妹さんなんかいたっけ?」

「兄妹にしては似てないよね・・・へ〜・・・いもうと」

「つうか、めちゃ可愛いじゃん」


「田舎から出てきたばっかで、今俺のマンションに・・・」

「それじゃまたな・・・俺たち急ぐから・・・」


相手は、女たらしの猫屋敷 怪人(ねこやしき かいと)


早生はそれ以上余計なことは言わずメルバを引っ張ってその場をあとにした。


(猫屋敷か・・・あいつにメルバのことが知られたらやっかいだからな)

(あいつ出版社やめて経営コンサルタントなんて怪しい職業に就こうとしてる

みたいだな)

(所詮、宮使いは務まらないタマ・・・俺と同じ穴のムジナだ)


さて、早生はメルバを連れて婦人服売り場へ。

でも早生の思惑は甘かった。


婦人服売り場なら服も安いだろうって思ってたら、なんとブランドショップが

軒並みだったからだ。


メルバは水を得た魚みたいに自分の好きな服を選んだ。

結局、下着も含めてメルバの服は高くついた。

しかたない、必要なものは必要。


で、そのままスーパーに入ってる回転寿司屋で寿司を食った。


「わは〜私の時代には回転寿しなんてとっくになくなってるよ」

「お魚だってクローンだし、あ、ちなみにミカンもクローン猫だよって

言ったっけ?」


「ああ、聞いたよ」


「いいね、回転寿司・・・美味しそう」

メルバは美味い美味いって結局、寿司を30皿食った上にラーメン食ってデザートの

シャーベットを3個も平らげた。


(俺は飯を美味そうに食う女と、よく食う女は嫌いじゃない)


だけど・・・スーパーで猫屋敷に会ったのは誤算だった。

あのスーパー以来、やつは早生のマンションに頻繁に遊びに来るようになった。


メルバのことを妹だと言ったことは失敗だった。

猫屋敷はメルバが早生の妹だと思って鼻の下を伸ばして来てるに違いなかった。

もちろんメルバが目当て。


(ったく、ウザいのがひとり増えた・・・なんとかしないと・・・)


つづく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る