第8話:これからも時々ふたりでデート。
早生が事故に遭った日、その日は外には一切でなかった。
家の中でも階段の上り下りやつまずいてずっこけたりしないよう気をつけた。
だからなにごともなく、その1日を生きたまま切り抜けた。
メルバのおかげだろう。
これからの早生の運命がどうなるのかは分からない、だから早生はあまり気に
しないことにした。
成るようにしかならないものはどう頑張っても成るようにしかならない
と思った。
さて・・・メルバのことは夏に知られずに済んだ。
とりあえずはその場をしのいだ・・・。
それは目先の問題が解決しただけのことだった。
メルバをどこかに住まわせる、と言ってもそんな金銭的余裕はないし・・・
このままここに置いておくと、いつかは夏にもバレるだろう。
夏が来るたび、押入れに入っててもらうのも無理がある。
困った・・・。
たしかに、いつまでもごまかし切れるはずもなかった。
それにメルバを部屋に閉じ込めたままってのも、よくない。
それじゃまるで早生がメルバを監禁してるみたいで、あまりいい気持ちは
しなかった。
男なら、まだしも・・・メルバは女だからな。
何日も同じ服を着せておく訳にはいかないし・・・。
この間、仕事の帰りに仕入れた衣装だけじゃ足りない。
だから早生は思い切って買い物がてらメルバを街に連れ出すことにした。
最初、外に出ることをメルバは反対したが、そんなこと心配してたら仕事も
遊びもろくにできやしない。
だから無理やりメルバを連れ出した。
電車に乗ってる間もメルバは早生の手をつないだまま離さなかった。
電車を降りてからも仲良く手をつないで歩いた。
街中で見るメルバは尚一層輝いていた。
どこにも存在しない特別な女に思えた・・・彼女が明るく振る舞えば振る舞うほどに
早生の胸はトキめいた・・・そしてなぜか切なかった。
メルバは通り過ぎる街並みを珍しそうに眺めながら早生に質問を投げかけた。
早生もずっとここに住んでるわけじゃないから街のことを全面的に詳しいわけ
じゃなかったので、適当に答えた。
メルバが住んでた100年後ってどうなってるんだろう?想像もつかない。
田舎者は人に酔うなって早生はいつも街に出るたび思う。
でも繁華街や商店街は早生は嫌いじゃなかった。
とくに路地裏に入るとなんとなく落ち着いた。
田舎だと移動はバイクか車・・・都会にいるとほんとによく歩く。
そんなわけで、早生もメルバも長くは街中にはいなかった。
(とりあえず桃の服を仕入れてやらなきゃ)
「私、未来にいた時から何日ぶりかな・・・街に出たのって・・・」
「向こうではずっと研究所に閉じこもってたから」
「未来の俺のそばにいたからか?」
「だね・・・でも久しぶりに街に出られて嬉しいかも・・・」
「メルバ、未来の世界と比べてどう?」
「うん、この時代はなんとなくのんびりしてる感じ」
「のんびりだって?こんなに目まぐるしく人が行き来してるのに?」
「車だって事故りそうなくらいガンガン走ってるのに?」
「私のいた時代は人口は減ってるけど、息苦しさはこことは比べ物にならない
くらい酷いよ」
「表通りはいいけど裏通りなんか絶対ひとりでは歩けないし・・・」
「ジャンクな怪しい店ばっかだしね」
「人々だって、この時代の人の方が穏やかなんじゃにかな?」
「私、好きかな・・・この時代って」
「緑もまだたくさん残ってて古ぼけた建物もあってノルタルジー感じる」
「そうだな、まあいい時代っちゃ時代か・・・日本は平和だし」
「ビルの高さも違う・・・」
「だけど心なしか空気は私の時代のほうが浄化されてるかな」
「向こうの世界では車は全部、人畜無害の無限エネルギーで動いてるの」
「電気自動車とか普及してるんじゃないの?」
「そんな車古いよ」
「そんなにいろいろ発展してるなら医療だって進歩してるだろ?」
「そうだね、ほとんどの病気は治るけど・・・でもいくら科学や医療が
発達してもいきなりの出来事はすぐには対処できないから」
「そうやって時代を比べると面白いね」
「最初は外は危険って思ったけど出てみると気晴らしになっていいね、また
こうやって私を連れ出してくれる?」
「そうだな・・・これからも時々ふたりでデートしようか」
「今日はこれからメルバの服を買いに行くから・・・」
「ごめんね、全部おんぶに抱っこで」
「俺の部屋にいる時は、すっぽんぽんでいてくれてもいいけどな」
「すっぽんぽんって・・・そうして欲しいの?」
「冗談・・・冗談に決まってるだろ?」
「そうして欲しいならそうするけど・・・でもムラムラきてエッチしたくなっても
責任取らないからね」
「取らなくていい・・・俺の責任でメルバを襲うから」
「無理やりなんかしたら訴えるよ・・・そう言う強引なのダメだからね」
「今のも冗談、いくら部屋の中だからって裸でいたらメルバ風邪ひいちゃうよ」
つづく。
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