第7話:夏の愚痴とみかん。

「あ〜あ、疲れた・・・ねえ、聞いてよ」


「私の美容室の店長・・・自分の店だと思って、偉そうに・・・ 」

「あのエロオヤジ客に手を出してんだよ・・・それでも足りずに 私にまで

迫ってくるんだよ」

「めっちゃ・・・キモいでしょ・・・」


「やめてくださいって言ってるのに、しつこいったら・・・」

「従業員だからってなんでも言うこと聞くと思ったら大間違いだよ」


「やめようかな〜美容室・・・ね、どう思う?」


「やめれば?・・・俺なら、店長殴っておさらばだな・・・」

「暴力はダメだって・・・」


「そうそう、それに電車で痴漢には合うしさ・・・」

「私が魅力的だってのは分かるけど・・・」

「車掌がバカだから痴漢取り逃がすし、派出所には連れて行かれるし」


「でね、ベランダに干してあった私のパンツを盗んでったやつがいるんだよ」

「私のパンツでなにしてんのか想像すると吐き気がするわ」

「あ〜あ、ここ一週間ばかり、ろくなことないから・・・」


その他、もろもろ・・・ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。

夏は来るなり、ここ一週間あまり自分に起こった出来事を全部吐き出した。


もう、以前のような甘い雰囲気のカケラも今はなかった。

慣れるってのはいいことでもあるけど慣れすぎるのはあまりよくないと早生は

前から思っていた。


そしたら、今までおとなしくしていたミカンが、ごそごそやってきて

一声ニャ〜って鳴いて夏の膝の上にのっかった。


(そうか・・・ミカンのこと忘れてた、マズい)


「え?うそ、うそ、うそ・・・まじ? 早ちゃんなんで猫がいるの?」


「あ〜それ・・・そう、拾って来た」


「拾った?・・・早ちゃん動物アレルギーじゃなかったっけ?」


「おう・・・だけど。こいつは大丈夫みたいだな」


「そうなんだ・・・あなたお名前は?」


「ミカンって言うんだ」


「そうミカンちゃん・・・人懐っこい猫ちゃんね」


(ヤバい、ヤバい・・・ミカンがしゃべれなくてよかったよ)


「可愛いね・・・ここに来る楽しみ増えたね〜」


(え〜来るのか?)


「そうそう今夜泊まってくつもりだったんだけど、私今日、女の子の日なの」

「ごめんね、早ちゃん・・・今度またね」

「じゃ〜私、帰るから・・・」


「そうか・・・それじゃまたな」


夏は早生に馴れ合いのキスをしてミカンに愛想を振りまいて帰って行った。


早生は心から月に一度やって来る女性の生理現象に感謝した。

いつもなら、生理になったなんて言われたら、エッチできないじゃないかって

文句だらけなんだけど・・・早生も勝手なもんだ。


夏がいなくなってミカンは早生にも絡みついてきた。


「それにしてもミカンはさっきまで俺のベッドで寝てたからすっかり忘れてた」

「あ〜苦手・・・でも最初の頃みたいに嫌ってことはあまりなくなってるかも」

「おまえの飼い主を好きになってるから、おまえも受け入れられるように

なってるのかも・・・そんなもん?・・・なんでも気分の問題かもな」


夏が帰ったのをしっかり確かめて早生は押入れを開けた。


「ごめん、ごめん、もう大丈夫だから・・・」


メルバはあどけない顔でスヤスヤ寝ていた。


「あれだけ、べらべらしゃべって帰ったのによく眠れるな」

「夏にバレたらどうしようって思ったら気になって普通は眠れないだろ?・・・」


神経が図太いって言うのか、緊張感ないって言うか・・・そんなメルバを

見て早生はおかしかった。


「俺って薄情な男だよメルバ・・・夏がいるってのに、君に惹かれていく」

「そんな姑息な男を好きになったって幸せになんかなれないぞ」

「それでも俺について来るのか・・・メルバ」


そう思いながら早生は眠ってるメルバのほほにそっとキスした。


つづく。

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