第4話 ステータス

「あー・・・。そろそろ、その身体についての検査をしたいんだが、いいか?」


マスコットを握ったまま固まっていた俺は、ベンの声で我に返った。

俺へ遠慮がちに声を掛けているのは、気を使ってくれているからだろう。


「あ、ああ。構わない」

「なら、付いて来てくれ」


立ち上がってみると、俺は自分が下着の上に貫頭衣の様な物を身に着けている事に気が付いた。

コナーやベンの着ている服は、でかいシーツを上手く服みたいに纏わせて腰を紐で結んだ様な感じ。

ローマ人とかはこんな格好だったのかな?

まぁ、宗教的な服なんだろう。

靴みたいな物はが無いか足元を探してみたが、それらしい物は見当たらない。

ん?

よく見るとコナーもベンも裸足だ。

マークの記憶にはサンダルも靴もあるので、裸足なのがこの神殿のルールって事なんだろう。

靴は諦めて、裸足でベンの後に付いて行く事にした。

ベンは木製の建物から出ると、石造りで尖った屋根の大きな建物に入ってゆく。

俺はその後を付いて行くだけ。

建物の中に進むとベンチがズラリと並べられた広間に出た。

礼拝堂ってヤツか?

広間には俺達以外誰もいない。

ベンはベンチの正面にある大きな彫像の前で止まった。


「こちらがこの地を世界を管理するアステリア神様の彫像だ」

「この度はどうも・・・」


アステリア神というのはこの世界における唯一神だ。

教会はアステリア神の使徒が運営していると言われているし、教会での揉め事には物理的な神罰が下る。

一応、日本式に両手で合掌して頭を下げておく事にした。


「こっちだ」


アステリア神の彫像の足元に石の台座があり、文字の書かれた銀色のプレートが鋲で打ち付けられていた。


「そのプレートに触れてみろ」


俺は小さく頷くとプレートに左手で触れてみる。

ブンッ

すると頭の中を何かが通り抜け、身体がプレートと繋がった様な感じがした。


「うおっ!?」


目の前には縦40cm×横30cm程の金色の額縁が浮いている。

額縁の中の絵の部分は真っ青で、そこには白い文字と数字が書いてあった。


マーク・パトナ ♂ 年齢 16 LV 4

HP  281/375(250+125)

MP  100/100

筋力 43+8

機敏 52

器用 65+13

魔力 92

精神 86

運  38

・職業

ファーマー LV 14

 HP1.5倍増加 筋力1.2倍増加 器用1.2倍増加

・スキル

  装備

   農具-5 片手剣-3 小盾-3 弓矢-3 

  汎用

   開墾-4 縄生産-3 弓矢生産-2

  固有

   リバース(30時間) MP10~30

・魔術

 ーーー


えっ、これってステータス画面?


「あらっ? 魔力と精神が随分と高いわね」

「魂を上書きした影響か?」

「あ、ギフトスキルがあるわ! 成功よ! ベン」

「リバース・・・おお、新種だ!」

「・・・神殿にあるギフトスキルのリストにも"リバース"は無かったわね」

「リバースか・・・30時間というのは時間制限か? 30時間がこの世界の丁度1日ではあるが、再使用がまる1日というのは長くないか?」


俺を放置したまま、コナーとベンは興奮して会話をしている。

ん?

この世界って一日は30時間なの?


「何らかの使用制限が30時間なのでしょうか、消費MPも最小10から最大30となっているし30というのは・・・」

「検証してみればいいじゃないか」

「そうね」


コナーとベンが2人して俺を見るが、俺はそこまで理解が進んでいない。


「あー、マークの知識にはこれに関する知識が無いんだ。まず、これの説明してくれないか?」

俺はプレートの上に浮かび上がったステータス画面らしき物の説明を求めた。


「ん? ジョブがファーマーになっているから、過去にマーク自身が教会で設定した物なハズだぞ。マークが知らないという事は無いハズなんだが・・・」


俺の質問にベンが首をかしげる。


「欠損した部分かしら」

「ああ、そういう事か」

「分かった。私が説明するわ」

「頼む」


コナーが説明を買って出てくれた様なので、素直にお願いをする。


「これはあなたの個人データを神具で数値化した物よ」


数値化か。

ゲームのステータス画面にしか見えないんだけどな。


「レベルが4ってのはマークのレベルか?」

「ええ、そうよ。村で害獣でも倒してカルマを得ていたんじゃないかしら」

「カルマ?」

「生物を殺して得られるのがカルマ、カルマが一定以上溜まると個人レベルが上がるの」


経験値みたいなもんか?


「ファーマーのレベルは14だけどこっちは違うのか?」

「そっちはジョブレベルよ。所持しているスキルのレベルが上がるとジョブレベルも上がるの、ジョブレベルが30になると転職も出来るようになるわよ」


だとすると、こっちは熟練度って事か。


「じゃあ、HP1.5倍増加とかは?」

「これはジョブ特性ね。ジョブがファーマーになった事で得られる恩恵よ」

ファーマーって食を支える第一次産業だよな?

農家とか牧場とかがそうだっけ。


「基本数値に+されてるのがそうか」

「人種の各項目の基本数値の最大は100よ。そこにジョブ特性の数値が+されるから、ジョブの選択は大事なの」

「なるほど・・・」


基本数値に+されるのであれば、ジョブ特性の恩恵はかなりでかいな。


「何のジョブにも就いていないのはマイナスでしかないから、間違っても無職ではいない事ね。神様が怒るから」

「無職は怒られるんだ・・・」

「後は扱った道具や武器のレベル、作った事のある物のレベル。そして固有の所にあるのがギフトスキルよ」

「このリバースってのがそうか」

「ええ、この世界では何人かに1人がこの固有スキルを持って生まれて来るの、それを私達はギフトスキルと呼んでいるのよ」

「へぇ、ギフトスキルか・・・」

「でも、このリバースというスキルは、神殿の記録しているギフトスキルのリストにも載っていない未知のスキルなの」

「それじゃあ、リバースってスキルがどんな能力なのか判らないのか」

「ま、判らない事は試してみればいいのよ」

「試すって言われても、俺はスキルの使い方を知らないんだが・・・」

「なら、これに試してみてくれ」


コナーの説明中は黙っていたベンが、俺の目の前にしおれた花を差し出してきた。


「花?」

「リバースという名前のスキルだからな、効果は「戻す」とか「戻る」とかだろう。いきなり人や貴重品で試す訳にもいかないし、このしおれた花ぐらいが丁度いい」

「なるほどな」


俺はしおれた花を受け取った。

花を持つ俺をコナーとベンがジッと凝視する。


「・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・・」

「なぁ、スキルを使うにはどうすれば良いんだ?」

「あ? ああ、そうか。使い方か・・・その花に触れて「リバース」と念じてみろ、スキルは言葉にしなくても使えるハズだ」

「判った」


俺は手に取った花に向かって「リバース」と念じてみた。

すると、しおれている花びらが、ゆっくりとではあるが上を向き始める。


「お、最初にMPが10減ったがその後も減り続けているな」


ステータス画面をジッと見ていたベンが声をあげた。

ああ、ステータス画面って他の人も見る事が出来るのか。


「見て! 散っていた花びらが何もない場所から一枚現れて花にくっ付いたわよ」

花は欠けていた花びらを全て取り戻し、元気になりつつある。

「クロス まだ、その状態を維持してくれ」

「ああ」


そのままリバースを使っている状態を維持していると、花は摘んで来たばかりの様な新鮮な状態に戻っていた。

おお、スキルって凄いな。


「あっ」


花が瑞々しさを取り戻した事に感心していると、急にスキルを使っているという感覚が途切れた。


「どうした?」

「スキルが途切れた」


俺の申告にステータス画面を確認するコナーとベン。


「ああ、MPが30減っているわね」

「上限までスキルを使ったという事か」


俺の手の上の花はスキルを掛ける前と比べて、明らかに良い状態になっている。


「この花は昨日シスター達が河原で摘んで来て供えた物だが、水に挿していないから一日でダメになったのだろう」

「水に挿していない花なら、そのぐらいしか保たないわね」

「そのリバースのスキルは物の時間を戻す能力で間違いない。MP30の上限まで使えば最長30時間戻せるのだと考えられ、戻す時間はスキルを切る事で調節出来るハズだ」

「それは人間にも掛けられるのかしら?」

「花に掛けられたのだから、人も平気だろう」

「医局に頼んで試してみましょ」

「それが早いか。よしクロス移動するぞ、付いて来てくれ」

「あ、ああ」


そう言ってサッサと歩き出したコナーとベンの後を、俺は付いて行くしかなかった。

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