第2話 帰り道(1)

四時間続いた宮薗さんの歓迎会を終え時刻は21時過ぎを示していた。


「私達、帰りこっちだからまた明日ね〜」


「また明日〜じゃあね〜!」


「あっ!そうださおりん!後で通話しようね!」


「「え〜ずるい!「私」「うち」も通話したい!」」


「なら、後でグループ作るね!じゃあまたね〜!」


 別れの挨拶を済ませると彼女らは駅の方へと歩いていった。そしてそれに続くように残りのメンバーも駅の方へと向かっていき、菅原君と俺、明香里と宮薗さんというメンバーが残り俺らは皆の後ろ姿を見送り、駅へと姿が消えたのを確認すると


「そういうば、さおりんの家ってどっち方向にあるの?」と明香里が宮薗さんの帰り道を確認した。


 宮薗さんは「こっちの方向に20分程歩いた所にあります」といい指を指した。


「そっちなら私と帰る方向一緒だ!確か俊介もこっちだったよね?」


「うん。ここから少し歩いた所」


「なら皆で帰ろう!」


 明香里の掛け声と共に俺らは歩き出した。


「北原ちょっといいか?」


 歩き出した数分後俺は菅原君に声をかけられた。


「北原ってさ歓迎会参加しないに票を入れてたよな?なのになんで今日来たんだ?」


 まぁ疑問に思うよな。普段の俺を知ってればこんな所に参加するやつだとは思わないし、何よりちゃんと参加しない意志を示したのに始まってみれば参加してる訳だし……


「入れてたよ。元々参加するつもりは無かったから」


「ならなんで参加したんだ?」


「明香里に無理やり連れてこられた」


 俺は説明する為に、急に明香里から送られてきたメッセージを菅原君に見せた。


「なるほどな〜 てか北原と明香里って接点無さそうだったのに頼み事されるくらいの仲良いんだな」


「まって、なんでそうなるの!? 仲がいいってのは普段の菅原君達の関係の事を言うんだよ?」


「普段の俺と明香里って話す事も無いければまともに関わる事も無いし、明香里からしたらクラスメイトへの頼み事なんて普通だろ」


「北原、俺は別に北原と明香里の関係を探ってるわけじゃないからな?後、明香里の事「篠原さん」じゃなくて明香里って呼んでるんだな」


「あっ......」


「北原っていつも誰かの名前呼ぶ時苗字で呼ぶだろ?なのに明香里には「明香里」って呼ぶんだからこれで仲が良くないはないだろ」


「でも、仲がいいとは俺は思わないよ……」


「俺が明香里を明香里って呼ぶのはただ保育園の頃からの付き合いだからそう呼ぶだけだし、中学の頃から今みたいに話す事もなければ関わる事も無かったから」


「だから俺と明香里は仲が言い訳じゃないよ。ただ相手を知ってる歴だけが長い知人みたいな感じ」


「まぁ、そいうことにしてやるよ。北原がそこまで後ろ向きに考えてるのか俺には分からないけどな」


 菅原君は話を終えると明香里達の方へと行き何かを話し少しすると高く聳えたっているマンションの前に立ち止まった。


「俺の家ここだから、明香里達じゃあな」


「俊介、じゃあね〜!また明日!」


「宮薗さんもこれからよろしくな」


「はい。これからよろしくお願いします」


「後、北原!仲良くないと思ってるやつに普通はあそこまでのお願いはしないからな!」


 菅原君はそれだけ言うとマンションの中に入っていき俺は発送と思った言葉を飲み込んだ。

 菅原君の見送りが済み俺が歩きだそうとすると明香里が俺の方へと歩いてきた。


「ねぇ、コウ!コウって俊介と仲良かった?」


「いや、全然。なんならちゃんと話したのは今日が初めてかも」


「そうだよね!?でもカラオケの時とかは仲良さそうにはしてなかったけど何があったの!」


「別に今もそんなに仲良くはないと思うが……」


「何かあったとしたらついさっきまで明香里が宮薗さんと話してる後ろで俺らも話してたからかな」


「コウがついに授業以外で誰かとおしゃべりをするようになったの!?お母さんは嬉しいよ……このままコウに友達が出来ないと思ってたから……」


 明香里はわざとらしい演技をしながら俺をからかってきた。宮薗さんはそれを少し後ろの位置から無表情のまま俺らの方を眺めていた。


「明香里は俺の母親じゃないだろ!後、委員会とかでは他の人と話すし、友達がいないは一言余計だ」


「委員会は確かに授業じゃ無いけど、どうせ議題について話してるだけでしょ?流行りの曲だったり昨日やってたドラマの話とかするの?」


「いや……しないけど……」


 明香里はここぞとばかりに俺を弄りまくった。宮薗さんがいるというのに。俺がただただ悲しいヤツだって絶対に思われたに違いない。それなのに明香里は満足そうにニヤニヤしてるし……


「あの、明香里さん。その……コウ君を虐めすぎじゃないでしょうか……?」


「それと、コウ君には友達がいないと言った割には明香里さんとコウ君はとても仲が良さそうに私には見えたのですが」


「そうだよ〜コウとはもう友達以上の関係だからね〜」


「それってつまりあの……あれですか……?」


「いやいやいや!多分宮薗さんが思ってる様な関係じゃないから!ただ保育園の頃から知ってる幼なじみ見たいな感じだから」


 俺は慌てて宮薗さんの考えを否定した。


「そうなんですね。コウ君と明香里さんは幼なじみだったんですね」


「そういう事〜。だから、コウとは友達以上の関係なんだ」


「でもこんな風に遊んだり話したのはほんとに久しぶりで、最後にこんな風に話したのは4年前くらいなんだけどね」


「そうなんですか?コウ君」


「え〜と、はい。そうです……」


 俺は気まずくなり、二人の方から顔を背け空を見上げた。


「でもなんで4年間もそんな感じが続いたんですか?」


「そうだね〜この話は帰りながら話そうか。ここで立ち話しても皆の帰りが遅くなっちゃうし」


 明香里はそう言うと歩き出しそれを追うように俺と宮薗さんはついて行くと明香里は話の続きを喋り始めた。


「さっきの話だけど、実際は分からないけどなんかコウが私の事避けてたと思うんだよね。私も中学から部活に入ったり友達が増えたりしてコウと絡める機会は減ってはいたんだけど」


「そんな事があったんですね。実際、コウ君は明香里さんのこと避けてたんですか?」


(宮薗さん、その質問はやめてくれ……)


 俺の心臓はただでさえこの会話を聞いてて早くなっていたのに宮薗さんの質問のせいで更に鼓動を早めていた。そして、2人の視線が早く応えろと言っているような気がして変な汗までかいてきていた。


「そうですね…… 明香里にはほんとに申し訳ないけど、多分入学して半年たったくらいから意図的に避けてはいました……」


「やっぱりそうだよね……でも、なんで!」


 明香里は俺に対して怒りや困惑、又は悲しみといった感情が混ざったなんとも言えない顔を向けていた。


「それは、明香里に迷惑がかからないようにしたいと思ったから」


 俺は昔の事思い出しながらそう伝えた。

 あれは俺が中学に入学して半年くらいたった頃、クラスメイトの男子達から言われた一言が原因だった。


「北原ってさ、明香里と?」


「いや、付き合ってないけど」


「やっぱりそうだよな〜 明香里と北原って妙に仲がいいから噂が出てたけどやっぱり噂は噂だな」


「北原と明香里ってタイプ違うしカップルだとしたらだもんな」


 という噂とと言う言葉これが原因となり、俺は明香里を1人の友達から異性として認識するようになり、それと同時に明香里と俺が仲良くすると明香里に迷惑がかかるかもしれないと思い俺は明香里を避けるようになった。


「私に迷惑がかかる?私は今までコウと一緒に居て迷惑だなんて思った事1度もないよ……」


「中学の頃言われたんだよ、俺と明香里は付き合ってるの?とか明香里と俺は不釣り合いって」


「なにそれ……」


 明香里は俺の返答を聞いて困惑していると言うよりは怒っているような表情だった。


「誰に言われたかは知らないけど、コウはそいつに言われた言葉を気にして4年間も私を避けてたわけ?」


「そいつは私とコウの何を知ってるの。何も知らない奴に言われた言葉なんて気にするなよ!それに私はコウと一緒に居て迷惑だなんて思った事ないし、この4年間コウに避けられてて嫌われたんじゃないかと思って不安だったんだから……」


 俺は明香里が吐き出した言葉に対して「今までごめん……」としか返せず、重い空気が漂っていた。

 そんな中宮薗さんが口を開いた。


「でも、さっきの話でコウ君が明香里さんを避ける理由は無くなりましたよね?」


「ならこれからは昔みたいにコウ君は明香里さんと仲良くなれるんじゃないですか?」


「何回でも言うけど、私はコウと一緒迷惑だなんて思わないし、避けられる方が嫌だからね……」


「分かった。学校で直ぐにとは行かないけどできるだけ昔のように接せるように頑張るよ」


「じゃあ指切りして」


 明香里は俺の前に達小指を立て、俺もそれに応えるために小指を差し出しお互いの小指を絡めた。


「これで約束したからね。何があってもコウは私の事避けないでよ」


「分かったよ」


 それからは俺たち3人は学校のイベントの事や今日の歓迎会の事等について話しながら宮薗さんを送り届けた。


「今日は歓迎会を開いてくれてありがとうございました」


「いえいえ〜私がやりたくてやった事だから」


「それと、さおりんごめんね。私とコウのいざこざに巻き込んじゃって」


「でもそれは私が二人の関係について聞いちゃったのが原因だから……」


「違うよ宮薗さん。元をたとれば俺が明香里を避けてたのが原因だから宮薗さんは悪くないよ」


「それに、こうやって明香里との関係を修復できたのは宮薗さんがいたから。だから、宮薗さんありがとう」


 俺は今できる最大限の感謝と笑顔を宮薗さんに送った。


「うん。私からもありがとう」


 明香里も俺に続き感謝を述べると宮薗さんに抱きついた。


「さおりん、ほんとにありがとう。これからよろしくね!」


「はい。よろしくお願いします!」


 宮薗さんは抱きついてきた明香里と離れると「また明日学校で会いましょう!」と笑顔で言ってくれた。その笑顔は今日見た宮薗さんの笑顔の中で一番の笑顔で、月明かりや街灯のせいなのか輝いて見えた。

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