第1話 転校生 宮薗 沙織

 1限目が終了し10分という短い休み時間になると宮薗さんの周りには人だかりができていた。


「ねぇ、宮薗さん!あたしの事明香里あかりって呼んでいいからあたしも宮薗さんの事沙織って呼んでいい?」


「明香里だけずるい!私も沙織って呼びたい!」


「「「私も!私も!」」」


 と言った感じで宮薗さんの周りではクラスの女子たちによる自己紹介が始まっていた。

 それは授業終わりの休み時間に毎回行われ宮薗さんはクラスの陽キャ男子と女子の注目の的となっていた。

 そして昼休みに入ると、この話をどこから聞きつけたのか分からないが他のクラスや学年からも宮薗さんと話す為や見る為に廊下や席の周りに人がごった返していた。その光景はまさにアイドルとその囲いのように感じた。


 俺は弁当の入った袋と本を持つと入口に集まっている人混みを押しのけ階段を登っていく。

 目的地は屋上ではなく屋上に入る為の扉の前にある踊り場だ。多くの学校は色々な小説に出てくる学校の様に屋上が常時解放されているという事は無い。基本屋上へと繋がる扉には施錠がしてある。それは俺の学校も同じだ。


 俺はいつも昼休みになると1人でこの場所に来て扉の窓から微かに入ってくる光に照らされながら静かにご飯を食べ本を読む。これが俺の昼休みの過ごし方だった。


 チャイムが鳴り昼休みの終わりを告げ俺が教室に戻ると最初の用な人だかりは無かったものの依然クラスの陽キャには絡まれていた。


「沙織ちゃんって放課後って暇?もし暇だったら沙織ちゃんの歓迎会したいなって話してたんだけどどうかな?」


「私の歓迎会ですか?時間はあるん出るけどちょっと親に確認しますね」


 宮薗さんはそう伝え、数分後確認が取れたのか口を開いた。


「遊んできていいよとの事なので参加させてもらいます。明香里さんありがとうございます」


「やったあ!沙織ちゃん参加するって!」と大きな声で言いながら陽キャグループの元に戻って行った。


 そして放課後になり、何故か俺北原 コウは陽キャ達に混ざり宮薗さんの歓迎会と称したカラオケに参加していた。なぜこうなったのかと言うとこの歓迎会は陽キャグループだけで行われるものではどうやらなかった。


 陽キャグループはあくまでも主催という形でクラスのグループチャットに参加希望者を募った。そこで俺はもちろん不参加を選択し、ここに来る事は無かったはずなのだが、俺の数少ない友人?である篠原 明香里しのはら あかりに「コウ君さ、どうせ放課後暇でしょ? 」


「みんな部活とかで想定よりも人集まらなかったから参加してよね」と半ば無理やり連れてこられたのである。


 篠原 明香里、俺が保育園の頃から知っている数少ない女子。家などは近くなく保育園や小学校と言った場所では昔はよく遊んでおり、中学からはお互い昔のように関わることが無くなった茶髪のセミロングがよく似合っている今回の主催である陽キャグループのメンバーだ。


「今日は沙織ちゃんの関係会に参加してくれてありがとう!」


「本当はクラス全員でやれたら良かったんだけど皆部活とか忙しい見たいで全員で歓迎会出来なかったけどここにいる皆で楽しみましょ〜!」と明香里が仕切り飲み物のグラスを持ち上げると歓迎会がスタートした。


 今回参加したメンバーは陽キャグループの6名 そして主役の宮薗さん、俺含めた残りのクラスメイト3名と言った少数で行われた。


 明香里達は手馴れた手つきでマイクの音量調整やなにやら採点モード?の様なものに変更すると次々と曲を入れ歌い始めた。明香里たちの歌はすごく、どんな曲でも90点を下回る事が無かった。


 そして宮薗さんの番に周り歌い始めたのは小さい頃に流行っていたお姫様が主人公のアニメの曲だった。


「この曲知ってる!あれだよね保育園ぐらいの頃にやってたアニメの!」


「そうそう!名前は忘れたけどお姫様が主人公の!懐かしいね〜」


 と言った感じに女子グループは懐かしいこの曲に話を踊らせ、一方男子は宮薗さんの歌う姿や歌声に惹き付けられていた。宮薗さんの歌声は上手いとは違いなんというか綺麗という方が当てはまるくらい透き通った歌声だった。俺らは自然と拍手をし宮薗さんは少し恥ずかしそうにしていた。


 そこから時間が経つと陽キャグループの菅原 俊介すがわら しゅんすけから声をかけられた。


「北原、さっきから聞いてるだけ歌ってなくね?」


「うん。俺カラオケとか来るの初めてだから」


「えっ、マジ?カラオケ初めてなの!?」


「マジだよ。こんな場所来る機会今まで無かったから」


「そうなんだ。なら俺がやり方教えるから次歌いなよ」


 菅原君はデンモクを持ち俺の話を聞きながら知っている曲を入れてくれた。


「次に曲入れといたから順番来たら歌いなよ」


 そういい菅原君はグラスを持ち部屋を出てドリンクバーの方へと向かって行った。


 そして数分後俺の番が来た。俺が居れたのは昔アニメでやっていた狼の被り物を被って演奏しているバンドの曲だ。曲の大半は英語で難しいと思ったが1番好きな曲だったので歌う事にしたが、どうやらこの曲は思った以上に歌うのが難しかった。


 英語の歌詞も普通に発音は出来たが、俺は絶望的なほど音程が取れなかった。歌い終わり表示された点数は78点。他の人と比べると圧倒的に低く、盛り上がりも他の人と比べると無かった。

 その瞬間俺はこの空間にいるのが辛くなり扉を開けドリンクバーへと向かっていった。


「俺ってこんなに歌下手だったんだな」

 ドリンクバーでメロンソーダのボタンを押しながら俺はボソッと吐き出した。


 今までも曲を聴きながら口ずさんだり歌ってる所を想像した事はあるし、頭のイメージではそこそこ歌えていたのに、点数という明確な評価をされると嫌でも分かってしまう。


 何より辛かったのは興味を示されてないという事が歌ってて分かってしまったことだ。菅原君は歌うように言ってしまった手前聴いてくれてるように感じたが、その他の人達は耳を傾けてくれてない様に感じてしまった。でも理由は分かる。知らない曲を下手な歌で聴かされて興味を示せという方が無理だ。


 そこから俺はドリンクを片手に深呼吸をし、心を落ち着かせ部屋に戻ると歓迎会の終わりまで歌わない事を決意した。

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