032 天乃さんと青い瞳
順番は流れ、手札はとうとう二枚にまで減った。
あれから毎回、セキレイはカードを一枚だけ飛び出させ、イスカは毎回それを取った。幸運なことに、ババはまだ来ていない。
「おっしゃ、上がり!」
「えーっ! あたしあと一枚だったのに、勝ち確なのにー!」
イスカのカードを引いたティトが上がり、エナがじたばた悔しがる。ちなみにカラが最初に上がったので、ティトは二位だ。
残りはエナとセキレイとイスカだが、セキレイが引いた時点でエナも上がるため、実質二人の一騎打ちであった。
「あーがり! ……カラには負けたけど、セッキーに勝ったからよしとしよう」
「――エーナー?」
「へっへっへー、勝ちは勝ちよぉ! ――あ、さっきはごめんね、カラ!」
「おや、ちゃんと謝れて偉いですね。いいですよ」
エナとカラの勝負は決着がつき、三人の視線がイスカとセキレイに注がれる。
セキレイは二枚、イスカは一枚。
ババはなんと、セキレイの手にあった。
「――最初から持っていたの?」
「……いいえ、エナから回ってきたわ」
――全然気付かなかった。
ちらっと視線を向けたイスカに、にやり、とエナは笑って言った。
「……下地、あたしにババが来たら顔で分かるとおもっていたでしょ。残念だったね」
「……まんまとやられたよ」
苦笑いしていると、膝に何かが触れた。
――しゅっとした白い指が、不満げにリズムを刻む。
「――下地くんの番」
「……悪かった」
心なしか、セキレイの頬が少し膨らんでいるように見えた。慌てて顔を戻す。
「――さて、どちらでしょう?」
するすると、目の前で一枚がせり上がる。
究極の二択。どっちも怪しい。
イスカは今まで飛び出したほうを取っていたので、普通に考えるなら今回はババだろう。
だがその裏をかいて、飛び出ていないほうがババの可能性もある。
確率は五分だ。
藁にも縋る思いで見つめたセキレイの瞳は、やっぱり青かったが――。
「薄水色だ……」
「……どういうこと?」
「なんでもないよ」
確信を持って、イスカはカードを引き抜いた。
びちびちと、キャノピィが叩かれる。
離陸直後から降り出した雨は小雨ではあったが、それでも前が見えにくくて困る。
プロペラでかき混ぜられた風が螺旋を描くその中を、二人はくぐり抜けるように飛んでいた。
「……そう言えば、どうしてババがわかったの? 偶然?」
伝声管が震える。
ババ抜きは、まさかのセキレイが最下位で終わった。
声にわずかに悔しさが滲む。
「……なんとなくだよ。運がよかったんだ」
「嘘ね。あのときの下地くん、当たりを確信している顔だったわ。なぜ?」
――全く、よく見ているな……と、イスカは思った。
別に隠すこともないか、と口を開いた。
「――降参。実は、天乃さんの目で分かったんだ」
「私の……目?」
「そう。ババじゃないカードを飛び出させてたときは、いつも通りの透き通った青い目だった。でも最後のときは、少しだけ色が違った」
「そうなの!? 全然自覚していなかったわ……どんな風に違っていたの?」
「そうだな……いつもの青色じゃなくて、薄水色だったんだ。もちろんどちらも綺麗だけど、すこしグレーが入った色をしていた。それで、何か仕掛けてるって思った。まぁ、ただの憶測だけど」
「へ、へぇ……そうなの。なるほどね……」
歯切れの悪い返事を返すセキレイ。
イスカは少し首をかしげて――やば、と慌てて謝った。
「ごめん、気持ち悪いこと言ったかも」
「えっ? ……ううん、違うわ。大丈夫、違うのよ」
ごにょごにょと言葉を濁す。
こっちの話だから気にしないで、と言われ、イスカは安堵して空を眺めた。
雨はいつの間にか止み、辺りは一面雲だらけ。
透けて見える上空は、グレーがかった青い空。
明日はきっと雲が晴れて、ぱっきりとした色になるのだろう。そう考えるとなんだか気分もすっきりして、イスカは少しだけスロットルを上げた。
エンジンが唸り、セキレイの独り言は誰にも聞かれずに空へと溶けていく。
――綺麗、だって。
――――――――(章の始めと終わりに入るCM)
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