031 五通りの性格
(そりゃあ、天乃に誘われちゃあ断れないよな)
耳打ちしてきたティトを、聞こえないふりをしてやり過ごす。
来てしまったからには、周りを気にしていては身が持たない。天乃さんはすっかり下地の保護者だなあ――とか聞こえた気もするが、それも無視。イスカは勝負師になることにした。
自分の机から引っ張ってきた椅子に座れば、時計回りにエナ、セキレイ、イスカ、ティト、カラの並びで円が出来上がる。
「――それでは、手札を配ります」
重々しく宣言し、エナが二枚ずつカードを置いていく。しっかり揃えて配り始めたものの、数周したあたりで面倒になり、最後の方はぽんぽん投げていた。
配り終わったタイミングで、皆が手元に持っていく。
十枚ほどあった手札は、同じ数字どうしを捨てていくとみるみる減って、半分くらいにまでなった。
皆が捨て終わった事を確認して、じゃあセッキー引いて、とエナがカードを扇に広げる。
慎重に一枚引き抜いたセキレイは、
「……やったわ」
ご機嫌にペアを捨てた。
それからくるりとイスカを向いて、手札を立てた。
「――一枚どうぞ、下地くん」
いつもの微笑みを浮かべるセキレイ。イスカはとりあえず、適当に一枚引いた。
クローバーの7。ちょうどスペードの7があったので、一緒に捨てる。
イスカの手札を、ティトは品定めをする様にじっくりと眺め回し――。
「こいつだ!」
素早く抜き取った。少し手札を見て、そして捨てずにカラへ向く。
外れたらしい。
「……何ですか」
「んー? 何だろうな?」
わざとらしく一枚だけ飛び出させるティト。当然のようにそれを取らず、カラは端のカードを引いた。
手札からも一枚取って、真ん中へ置く。
「――ババ、持ってないよね?」
「私がそんなヘマをするとでも?」
「だよね!」
あっけらかんと引くエナ。
こちらもぱさり。
誰もポーカーフェイスを崩さず、順番が回っていく。反応で誰がババを持っているかを見分けようとしたイスカだったが、今のところ全くわからない。
エナがババを引いたら表情で分かりそうなものだが、変化は見られない。彼女にババが回ってきたら、その隣のセキレイにも回ってくる可能性がある。
そう考えて、エナの顔を意識するイスカであった。
注意すべきは、それとセキレイが初めから持っている場合のみ。
そして、イスカの引く番が来る。
「はい、下地くん」
「……」
――手札から飛び出す、怪しげなカード。
「……ババ? これは」
「違うわ。私が嘘をついていなければ、だけど」
にま、と笑うセキレイ。
試されている。さっき生まれたばかりの、勝負師の魂が燃え上がる。
セキレイの表情からは判断できない。イスカは青い瞳を覗き込んだ。
相変わらず深く、吸い込まれそうなほど続く青。
――綺麗なことしか分からない……。
「……じゃあ、信じてみるよ」
飛び出たカードを引く。
ごちゃごちゃした絵柄にひやっとしたが、よく見ればハートのキング。
ババではない。
「……当たり」
頬を膨らませたセキレイは、なぜか少し嬉しそうだった。
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