030 イスカと友達の誘い
「……もったいないとかあります?」
「そりゃあ新品の、高級トランプだよ? しかも初使用だから! そうだなあ……そう、どうせなら男子も混ぜたいなあ……自慢したいし」
エナの元気な声はよく通る。
興味ありません俺には関係ありませんのスタンスをとっていながらも、情報として耳から入ったその声に、男子勢の椅子が鳴った。
賀島エナと四重カラ。クラスの中でも容姿、性格共に人気の高い女子。そして二人と共にいるのは、あの天乃セキレイである。
美少女たちとお近づきになるチャンス! とばかり、静かに色めき立つ男子たち。
視線を交錯させ、互いを牽制し合う様子はさながら、同じ獲物を狙う肉食獣のよう。
あちゃー、と苦笑いするエナ。
顔に手を置き、カラは天を仰いだ。
「――なんだか面白いことになっているわね」
セキレイが楽しそうに周りを見回す。
「いやあー……ごめんごめん」
「……下心丸出しの
カラはふん、と鼻を鳴らし――ちらり、とエナを見た。
そして小さくため息をつく。席を立った。
「……有馬さん。暇そうですね」
状況は把握していたものの、我関せずの態度で話していたティトとイスカは、まさか自分たちに矛先が向くとは思ってもみなかった。
少し動揺しながら、ティトが返事をする。
「……おう。男二人で暇を持て余していたところだ」
「では、少し顔を貸してくださいな」
「――他にも遊びたい奴はいるみたいだが」
ティトは顔を動かさずに、手をひらひらさせた。
ちくちく、視線を感じる。
「関わりのない方々よりはマシですから」
「――そりゃ光栄だな。イスカ、どうする?」
空を眺めていたイスカはぴくりと肩を跳ねさせた。ほぼグループ発表のメンバーなので、嫌ではない。ティトが巻き込んでくれたのも嬉しかったが……。
――ただでさえ目立ちたくないのに、嫉妬の渦の中心にわざわざ入っていくのは抵抗があった。
自分でも情けないとは思う。
「……僕はいいよ。男子っていうならティトだけでも十分だろうし」
――このヘタレとでも言っていそうな、ティトのジト目が痛い。
カラは無理に食い下がることはせず、そうですか、とひとこと言った。
ティトが席を立つ。いいのかよ、とイスカを見る。
いたたまれなくなって、イスカは視線を落とす。
けれど。
「――下地くん」
下がった顎を、優しく持ち上げられたような。
「トランプ、楽しいわよ?」
顔を上げたその先に、にこりと笑う友達がいた。
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