暑いですね
「暑いですね」
彼女は急に話しかけてきた。高校のある場所はデパートやショッピングモールがあり人通りも多いのだが、そこから一駅動いただけで急に緑が多くなる。住宅地と化し、行くところといえばコンビニかスーパーか、一番栄えてるのはパチンコ屋という場所。そこでバスを待つのは僕と君だけだった。
「暑いですね」
彼女は急に話しかけてきた。
「え?」
まさか話しかけてくるとは思わなくて、つい間抜けな声で返してしまった。
「溶けちゃいますよ」
また話しかけてきた
「え?あ、これ?」
女子と話すのなんて緊張しちゃうもんだから言葉を選ぶのに少々時間がかかる。けど、溶けちゃいますよなんて言うもんだから仕方なく今は僕からは話さず、持ってるアイスキャンディーを食べ進めた。
「おいしかった?」
なんでそんなことを訊いてくるんだろうか。そこのコンビニで買った新作のアイスキャンディー。バスが来るまで時間があったんで駅前のコンビニに寄ってみただけ。
「うんまあ、おいしかったです」
「…そう」
シャレでも言った方が良かったんだろうか。彼女の横顔を見てみるが、つまらなそうな顔をしている。何か気に障ったかとも思ったけど、気に障れるほど会話してないしなと結論づける。まだ彼女の顔を見ていたかったが、その顔の黒い目が僕の方を向いたので、すかさず視線を下に逸らした。長く見ていたのがバレてしまったかもしれない。気まずい。視界の外でもわかるほど彼女の顔はこっちを向いている。言い訳を言った方がいいかと思ったが彼女は迎えの車に乗ってしまった。まるで鏡が走ってるようだ。ピカピカ照っていて上を見るより眩しかった。高そうな車としか表せない。
「にいちゃん、乗んないの?」
運転手のおっちゃんが言ってきた。僕はハッとしてバスに乗った。バスが来た事に全く気づかなかった。そうか彼女は自分の迎えを見ていたのか。自分が恥ずかしいな。自惚れるような人間ではないと思っていたんだが。自分の高校生活が不安になってきた。自分と会話しながら外を眺める。高校からはバスと電車を使って通っている。電車は割と他の奴らも乗っているが、このバスに乗る学生はどうやら僕だけらしい。バスを降りると安心した。予定通り帰ってこれたからな。昨日は入学式だったので父の運転でゆっくり帰ってきたが、今日の帰りは少し緊張した。
今日は登校二日目。昨日よりも心に余裕があるので友達を作れる気がする。そんなことをバスの上で思う。同じバスでも昨日と今日の心の持ちようが違うもんだから、全く違う乗り物に乗っているようだ。電車は一瞬でついてしまうので僕も座らない。駅からの並木道は同じ制服の人ばかり。春だっていうのに、ワイシャツの人もいる。昨日に引き続き暑い。体と鞄がすぐ気持ち悪くなってしまう。学校の中は外と比べて涼しかった。正門を通ってから教室までがまた遠いのだが迷わずついた。チャイムが鳴るまでまだ時間があるが、みんな席についてる。最前列、最廊下側。そこが僕の席。授業をサボろうとか、寝てやろうとか思ってるわけじゃないが、早く席替えがしたい。席についた瞬間、見覚えのある影が前を通った。彼女だ。昨日帰り際話しかけてきた女。もしかしたら先輩かもしれないと思ったがまさか同級で同じクラスだったとは。彼女は前から二番目、最窓側だ。
「ねえねえ!あの子と知り合いなの?」
後ろの席のやつが首を突っ込んで訊いてきた。彼女が席に着くまでの軌跡を見続けていたもんだから勘違いしたんだ。
「いや違うよ」というと。「あっそ」と返して顔を引っ込めた。その後、そいつはまた周りの奴と話し始めた。グループがすでにできているのかと焦った。
「あの子ちょー可愛くね」
聴き耳を立てると、どうやら彼女について話しているらしい。チャイムと同時に担任が入ってきた。それと同時に後ろのおしゃべりも止んだ。
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