いちどきりあいす

ちゅ

井中 炉黎

カコん カコん カコん 

振り子時計がゆっくりと鳴る。ゆっくりゆっくり時を鳴らす。

時に、ページを捲る音が部屋に響く。物が多いのにもかかわらず、鳴る音はよく響いてしまう。高級そうなぼこぼこした紙は、擦れる音が雑に感じるし、指の水分をたったの一ページで全て奪ってしまう。だが、しわしわの指は奪われるほどの水分を含んでいないなかった。

「全く長いなあ」

時の流れのことなのか、このつまらない誰かの自伝書のことなのか、自分でもどっちのことに言及したか分からなかった。どっちみち心の中では両方思ってはいたのだが。日を改めて読み直そう。そう思い、本を棚に入れることにした。そろそろ新しい棚を買わないといけない。読書は趣味ではないのだが、死ぬまで暇を持て余してるので昔からずっと本を買っては読みを繰り返している。そろそろ棚を置く位置も考えなければならない。広い部屋なのに図書館の一角と見間違えるほど、高い本棚がずらりと並んでいる。木の梯子を持ってきて高いところにあの自伝書をそっと置いた。この歳で梯子を使うのは、死の梯を渡っているような気分だが全然気にならなかった。私を気にかけてくれる人なんてもういないのだ。親戚だって一年に一度、どの族柄かわからない人がいるくらい。友人はみんな先に旅立って行った。大切な人はというと…。その時、梯子が倒れた。「フラッ」となり床に打ちつけられるまで音は時計の音だけだった。「ドンッ」と木の床から家全体に響き渡る。運がいいのか悪いのか、私はすでに梯子から降りた後だった。梯子を起こすため視線を下に落とす。本棚の下の方が見えた。そこは本ではなく、大きな箱が綺麗に棚にハマっていた。「ん?ああ」その箱に何が入ってるか少し考えて思い出した。脚立を跨いでその箱を出した。懐かしい。中から出てきたのはアルバムだった。大きなアルバムが複数入っていて、それらは全て父と母が私を撮ったものだった。生まれた時の写真だって大事に撮ってある。だがこの箱を開けた理由はその家族アルバムではない。一回り小さいアルバムが一冊入っている。そのアルバムは私が撮ったあの人との思い出。

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