第3話 ウェポンシフターのナイフル③ End


 おはようナイフル。

 君の担当監督官のカガミだよ。

 ねぇみてみてこれ。

 じゃじゃ〜ん、僕が君の為に作った本! 題して、『ウェポンシフターのナイフル』。今日はこれを読もう。

 いつも読むお話よりだいぶ高年齢向けになっちゃったけど君なら大丈夫。

 だって君は、120歳なんだもの。



 ――昔々あるところに、自国の民を虐げ他国を震え上がらせた、非道の国が有りました。


 その国は税金を多く取り、そのお金を使って銃を買い、その銃で他国に戦争を仕掛け、勝利し民を増やす。その繰り返しをしていました。


 しかしある戦争で敗走を余儀なくされ、武器や兵士を大幅に失いました。

 王様は怒り、焦り、どうしようかと頭を抱えました。


 そんなある晩のことです。王様のお城を訪ねるものがいました。黒いカバンを携えた男でした。

 男は自身を『怪物生産工場の営業』だと言いました。


『ウチの商品なら武器と兵士、両方をご用意できます! 人間と武器の姿を自由自在に入れ替える軍隊! 剣、槍、銃、大砲! 手入れや弾の補充の心配はいりません! 使い手の精神エネルギーが彼らの力の源になるのです!』


 そう謳いながら男が王様に渡したパンフレットに書かれていたのは、武器でもあり人間でもある存在ウェポンシフターでした。

 王様はパラパラとそれをめくり、読み終えるとすぐに発注しました。


 次の日、王様の目の前に三百人の兵士が現れました。

 一族の長だという男が王様に傅き、一本の銃剣を差し出します。


『これは我が息子である。これを貴方に預けよう。それでもって我々の契約の証とする』


 かくしてその国は傭兵軍ウェポンシフターのおかげで負け知らずになり、数多の領土と労働力を手中に収めましたとさ。


 ……けれど、ここでおしまいにはなりません。傭兵がいくら勝利を納めても、戦争は何故か終わりません。

 兵士たちが何度戦い勝利しても、これで休めると安堵するも……、王様の欲望は止まらなかったのです。


 ――フリークスと言っても、ウェポンシフターはきちんと人間の心を持っています。酷使されれば疲れ、無下に扱われれば反乱する。

 連戦とそれを命じる王様にほとほと呆れたウェポンシフターたちは一つの作戦を秘密裏に企てました。王様の暗殺です。


 150の武器を持った150の兵士がお城を囲み、王様に降伏を求めます。

 けれど王様は首を振り、一本の銃剣を掲げてこう叫びました。


『貴様らの王子を折られたいか』


 それに一族の長はこう返します。


 ――『それは我が子ではない。単なる武器である』、と。


 それは嘘でした。あのとき王様に渡されたのは、正真正銘ウェポンシフターの、《貴方》でした。ナイフル。そう、貴方だったのです。

 ですが長は王様の暗殺を行う為に、部下たちの気力を損なわない為に、そう言ったのでした。


 ウェポンシフターの一族はお城に突進し、衛兵たちと殺し合い数を減らしていき、しかしとうとう数人が玉座までたどり着き、王様は討たれました。

 けれども彼らウェポンシフターは深い傷を負い、全滅してしまいました。

 貴方一人を除いて。


 これがヘイターが見た貴方の原初の記憶。貴方は歴史の表舞台から忘れられた、歴史の隠し子。

 恐らく、貴方は長の言葉を聞いて勘違いをしたのでしょう。自分はウェポンシフターではない、と。だから120年間、地下で眠り続けていた。


 ……NEOとしては、君にちゃんとウェポンシフターになってほしいだろうね。君をフリークスとしてここに連れてきたんだから。

 でも僕は無理に君を使うつもりはないよ。急に色んな事聞かされたから、混乱してるだろ?

 今日はもうお休みにしようね。この本は片付けるよ。


「そのほんをくれ」


 え?


 ***


次の日。


「おはようナイフル」

「おはようカガミ」

「今日は文字の練習をしようね」

「うん!」


 真っ白な肌と長い髪。175cmほどの身長に細い手足。瞳は黒く、まつ毛は長い。一見して女性にも見えるその人は、しかし男性である。ちゃんと風呂場で確認しました。

 彼は僕が本を閉じた一瞬の隙にこの姿になっていた。どうやら自分の種族がなんなのか無事思い出せたらしい。

 それで、開口一番こんなことを言い出した。


『ナイフルは、わがほこりたかきいちぞくを、ふっかつさせなくてはならない』

『ふっかつ。復活?』

『いっぱいのおんなとまぐわう』

『ええ……』


 流石にその、倫理観的にどうかなと思い、なんとか軌道修正を……どちらかといえば逸らしただけか。


『ええと、女の人にモテるには、まず格好良くならないとね』

『かっこよく?』

『そうだなあ。色んな事を知っていて、優しくて、でも強くて……?』

『そーなるにはどうすればいい?』

『んー……』


 結局、僕が彼の教師になることになった。

 今までのように。

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