第2話 ウェポンシフターのナイフル②

ナイフルを託してもらったあの日、先輩はこう言った。


『これが貴様が監督するフリークスだ』

『……え、銃、ですよ?』

『ああ、そういうフリークスだ。恐らく貴様に一番合うだろうと思って連れてきた』


そして彼女は僕の目の前に書類をドバっと置いた。


『コイツがここに来るまでの経緯と、ウェポンシフターについての資料だ。読んでおけ』

『これすごく多いよ姉さん』


ガツンと頭を殴られる。


『仕事場では姉弟面するな。文句言わず全部読め』

『ひゃい……』


ペラ。

ペラ。

ペラ。

僕は渡された資料をめくり、目を通す。何度も何度も読んだそれを、もう一度。

ファイルに綴じられた紙には付箋や蛍光ペンの印が大量にある。

書かれていることはおおよそ、ウェポンシフターの一族ととある国の歴史。けれど今の彼にはあまり関係の無いことだ。

知りたいのは過去ではなく現在と未来。ナイフルが己の意思を持てる方法。……しかしそのような希望はこのファイルには記述されていない。


「はあ……」ため息を吐く。


だけどカガミ、ガッカリしている暇はないぞ。今できることを着実に積み重ねていけ。

とりあえずフジミ兄さんが言うように、彼の名前を呼んで、毎日話し掛けることだ。うんうん。

そう納得しながらファイルを閉じ、職場の図書室から出る。

やけに広いここは世界各国のモンスターについての情報が詰まっているから、パートナーの調べ物をするには最適だと思ったんだけど。でも渡された資料の方がウェポンシフターについて詳しかった。

ああ、ガッカリ……。


ピロン。ポケットの中の携帯がなった。

取り出して確認すると、うおっ、総監督官からのメッセージ……!? やだな。僕怒られるの? 何もしてないはずだよ。いや何もしてないからか?

まてまて落ち着け、深呼吸。ひとまず内容を見なくては……。


【カガミ氏からの覚のヘイター貸し出し依頼、受理。銃剣とともに訓練場へ集合】


……おお〜、ヘイター、頼んでくれたんだね。




そして訓練場。

「……」

「……」

「……」

沈黙が続く。

なんとなく、気まずい。

「……」

「……どんな感じ?」

「黙れ」

「はい」

「……」


ヘイターはずうっと僕の手の中のナイフルを見つめている。

周りを見てみるも、やっぱり彼の監督官らしき人はいない。

総監督官……。同僚達も先輩方も誰も知らない幽霊のような上官。このフリークス収容所に姿を現したことはないが、ヘイターや他のフリークスを使って職員の監視をしているらしい。

つまりフリークスを見張る我々監督官を総監督官が見張る、という構図なわけだ。


「うん……? 待てよ」

「はい?」


ヘイターがこちらに顔(仮面)を向ける。


「お前のも見せろ」

「いいけど」

「……」


何か必要な情報が僕の中に入っているのだろうか。しばらく彼を見つめながら待ってみる。

ヘイターの大きく赤のバッテンが描かれた仮面は、恐らく何度か殴られたことがあるのだろう、漆黒の髪で隠れているが所々ひび割れていた。


「……カガミ」

「はい?」

「コイツは自身をウェポンシフターだと思っていない」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る