43話、海へ


「アマツカさん! ほら! 海よ!」


豪華な馬車の車窓から、聖女様が外を眺めていた。

手招きされ、私も聖女様の隣に座って外を見る。


「おお、綺麗ですねえ」


「ちゃんと青くて安心したわ!」


「ふふ、たしかに」


異世界の海、青じゃない可能性もあったもんね。


「聖女様、あと一時間ほどで到着致します」


「わかったわ! 体調不良はいないかしら?」


「一名、足首を痛めた者がおります」


「じゃ、その人を連れて来なさい! 着く前に治しておかなきゃね!」


「かしこまりました」


馬車の外から声をかけてきた騎士が、後方へ下がっていく。

しばらくして、先程の騎士の乗った馬に同乗して、別の騎士がやってきた。


「乗ったままでいいわよ! 『ヒール』」


「どうだ? 治ったか」


「ええ、ばっちりと。聖女様、ありがとうございます!」


「次からはすぐに来なさい!」


「はっ!」


随分しっかり慕われているようだ。

馬車に同乗している、女性の聖騎士様が私に教えてくれる。


「聖騎士団は、任務が無い者は皆で訓練をするのですが。聖女様がいらっしゃれば、最悪の場合でもすぐなら蘇生が可能ですので、普通ではありえないレベルの訓練ができるのです。聖女様には、みんなとてもお世話になっているんですよ」


「ほえー…… え、最悪の場合って……」


「毎日毎日、骨折打撲内臓破裂に脳震盪、挙句には脳裂傷まで治させられてるのよ! もう少し体を大事に出来ないのかしら!」


「すぐ治していただける体よりも大事なものがあるのですよ、聖騎士団には」


すごい、本気で命張ってるなあ……


「そんなことより! 海よ! アマツカさんはお寿司なら何が好きなの?」


話題の転換だ。急に庶民的な話のネタになったな。寿司だけに。


「私は、サーモンといくらが好きですよ」


「どっちも一匹で完結するじゃない!」


「聖女様はなにが好きなんですか?」


「私はね、ブリとアジが好きなの!」


え、なんか意外に渋いチョイスだ。

比較したら私が子供みたいじゃないか。


「脂の多い白身魚が好きなんですか?」


「そうなのかしら? 他に脂の多い白身魚っているのかしら?」


「タイとかヒラメとか……」


「タイも好きね! ヒラメはエンガワが好きよ! 脂の多い白身魚が好きだったのね、私」


好きな物の傾向を自分でわかってない事、たしかにあるよね。

私も好きなお菓子の傾向とかは最近まで気づかなかったもん。

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