9話、聖女視点


「本日は、午前より聖女予算への出資をくださった貴族様方への加護の付与、それから神殿で傷病者への治療のデモンストレーション、そして午後は自由時間となります」


「わかったわ! お昼は書庫に行くわ。そのように準備して!」


「かしこまりました」


聖女である私の朝は早い。

日が昇ると起こされ、予定を告げられ、それから一時間ほど祈りの時間が与えられる。


「今日も神の加護のあらんことを」


『ふふ、おはよ。今日もよろしくね』


「はい、女神様」


脳内に声が響く。

聖女である私には、女神様の声がきこえる。

この声を、王様とか偉い人に伝えるのが、私のメインの仕事だ。


『スライムの子は、今日は来ないの?』


「あの人は明日また来ます」


『そ。ゆっくりでいいから、言った通りにお願いね』


「女神様の思し召しのままに」


『そんな固くならなくていいじゃない。もー』


女神様はフランクな方だ。でも、礼儀はちゃんとしないといけない。……他の人の時はどうなのかって? 聖女って、国王と並ぶらしいの。つまりこの国ではめちゃくちゃ偉い。相応の態度っていうものをとらないと、下の人がもっと大変になるのよ。まあ、私としては楽でいいんだけど。


「それでは、またなにかあれば」


『そうね、今のところ特に何もないし。頑張ってねー』


聖女様との会話の時間が終わった。つ、疲れる。魔力が半分は持っていかれた。


「『ひとつ』ちゃん…… 疲れたよお……」


レッサースライムの『ひとつ』ちゃんをこねこねして英気を養う。

スライム、本当にかわいい。

やめてー、という声が頭に届く。ひとつちゃんの声だ。声もかわいい。


「ごめんごめん。他の子もみんな元気?」


げんきー、なにもなかったー、と言われる。

そうか、良かった。ひとつちゃん以下、ふたつちゃん、みっつちゃん、よっつちゃん…… は、城へ放って簡単な諜報をさせている。

頭が良くないのであまりたいした成果は期待していないが、どういうことまで出来るのかの確認だ。

今のところ、思ったよりは上手くいっている。


私のジョブは聖女。

ユニークスキルは、友愛。

これは、敵対しておらず、友好的な種族であればどのようなものであれ意思疎通が可能、というものだ。

野良の魔物は全て敵対生物だが、テイムをすれば友好的になる。つまり、テイマーがいないとほぼ役にたたないスキルだ。

もうひとつのユニークスキル、最上位鑑定眼は…… これはまあ、わかりやすいか。相手のステータスを覗き見たり、物を鑑定して情報を得たり。贋金や毒入りなどもすぐにわかる。あとは相手の体の不調とか、病気とかも。こっちのユニークスキルも聖女向けではあるが、使い方に遊びがあるというか、汎用性が高いというか。

聖女としてだけ使うのもよし、他の使い方で楽しむのもよし、みたいな。楽しいことが好きな女神様からもらっただけあって、使い方はいろいろある。


色々言ったが…… 私にとってこのスライムたちは、友人であり、誰にも繋がっていないクリーンな部下でもある。

あの人、アマツカさんをこちら側に留めておけて、本当によかった。

それに……


「暴食の加護…… 女神様の言うことが本当なら」


はやめに対応できるようにしておくのも、大事だろう。

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