ねこ
君は猫になったんだな、と歌う歌が流行ってからけっこう経つ。
ということは貴女が居なくなってから同じくらい経つってことで、もうそんなか、なんてちょっとセンチメンタルになってみたりもする。
あの頃のわたしは必要以上に大人であろうとして、貴女を追い詰めてはいなかっただろうか。
別に、けんか別れをしたわけでもないのに、そんなことを思う。
若い子のことってわかんないなあ、って思いかけて、いや、若けりゃわかんないってもんでもないか、と考え直す。
ひとの考えなんてのは基本的に解ることはないのだ。それを何か、自分は少しばかり歳を取ったから何か知ったような気になってわかるよとか自分もそうだとか言い出してみせる。
ああいやだいやだ。
歳を取ることそのもの、ではない。こういう醜い歳の取り方はきっと、それこそあの頃、わたしが貴女くらいの頃に最も忌み嫌っていたものではないか。
賢く歳を取りたい、とは言わない。せめて誠実な人間でいたい。
あの時、わたしは駅の近くの図書館に借りた本を返しに行く途中で貴女を見つけた。
気合いの入った、っていうとなんかヤンキーみたいだけど、全身をゴシック・ロリータで包んだ貴女はお人形さんみたいにかわいくて、でもなんかめちゃくちゃ暑そうで、明らかに体調を崩していた。
「大丈夫ですか」
「大丈夫です、って言ったら貴女はこのまま立ち去るんですか」
こういうときに質問に質問を返さないで欲しい。
とはいえほんとに調子悪そうだったんでちょっと心配になった。
「救急車呼びますか」
「そこまでではないです」
とりあえず近くの自販機でスポーツドリンクを買って渡す。
「とりあえずそこの図書館入りましょう。タダで涼めます」
いい大人の台詞ではないが、とりあえず文句を言わずに付いてきてくれた。
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