第49話 残滓
邪神とライトがいる
飛び込んだ先は
水平感覚さえ失うほど、真っ白な空間に人型の闇の姿をしている邪神と、元光の勇者である光帝ライトが待ち構えていた。
「人間界、魔界を捨ててまでここへくるとは、愚かな者よ」
「別に捨ててなんかいないぞ。俺の仲間たちをなめるなよ、邪神。あいつらとならどんな案件もこなせる、俺はそう信じている」
ライトは邪神の後ろで神聖剣、
「邪神、お前の目的はなんだ? なぜライトに肩入れしている?」
「ここまできた褒美だ、教えてやろう」
邪神は闇を操って一人の人間の姿を模り始める。
「我も貴様と同じ『超越者』。下界での神話にでてくる魔人王とは我の事、どうやら異世界からこの世界へ来ると銀色の眼になるそうだ。そして我は他の者と協力して暗黒神を倒し、我は神界へと導かれて神となった」
「邪神も異世界人だったのか? だが神にまでなってなぜ邪神になった?」
フハハハハハと大きな声で笑う邪神。
「我は神になれば自由に異世界を移動できると思っていた。生まれ故郷に帰るために必死に戦った結果がそれだ。我は絶望して気がついたら邪神と呼ばれ、神界の闇の穴へ追放されていた。貴様なら分かるはずだ、生まれ故郷に帰りたいという気持ちがな」
俺は邪神の言葉に首を振る。
「俺は元の世界に帰りたいなんて思わない。ジン・シュタイン・ベルフは異世界で生き、異世界で死ぬ。もう前の俺は前の世界で死んだんだ」
俺が話し終えると同時に邪神が模り始めた人型の姿ができあがり、その姿を見た俺はかつてない衝撃を受ける。
「確かに以前の貴様とはまるで別人だ。なぁ、西嶋アキオ!」
「先代工場長……」
自然と膝が震えているのを感じる。
西嶋アキオの残滓がそうさせている、俺はそう確信した。
先代工場長はパワハラ、セクハラ、横領を繰り返していた。
社員のボーナスカット、派遣社員の単価を下げて利益を上げ続け、大きい装置が壊れた時にエリアセンサーを切って無理やり稼働させ、装置に挟まれて死んだことで異世界転生したと語る先代工場長。
「我は神なんて興味がない。お前のようなクズを徹底的にいじめぬき、クズどもが体も心もボロボロになっている傍らで高級車を乗り回し、贅沢三昧するのが生きがいだったのだ。我はライトの体に乗り移り、元の世界へ帰還するのだ! そしてまた貴様のようなクズをいじめていじめていじめぬいてやるわ!」
「――るな」
アキオの残滓を振り切り、声を絞り出すが、
「西嶋ぁ! 我に意見するのか!」
尋常じゃないほど汗をかいている体で、震えそうになる声を喉に精一杯力を入れて堪える。
「ふざけるな! アキオの苦しみ、悲しみを広げるって言うのか!」
震える手で神聖剣、
「どうした西嶋? そう怯えるでない、貴様を倒すのはライトだ。今のライトの魂レベルでは我の魂に耐えられん。貴様を倒すことでライトは器として完成するのだ!」
「ライトは一度俺に負けている。次やっても同じだ」
邪神が地面を踏むと白い空間にひびが入る。
「だから貴様らはクズなのだ! レベルが上がったライトに限界を超える力を注ぎ込んだのだ、同じ結果になるわけがなかろう。まぁ限界をはるかに超えたせいでライトはもう喋る事も、自分の意志で動くこともできんがな。我の命令に従う忠実な下僕、貴様らと同じだ」
ライトはただ黙って俺を睨みつけている。
「俺は……俺はジン・シュタイン・ベルフだ!」
気合と根性だけで、西嶋アキオの残滓を振り払う。
先代工場長への恐怖が消えると、ある矛盾に俺は気がついた。
ライトは御方に超越者にしてもらうと言っていて、邪神はライトの体を乗っ取ると言っている。
夢を叶えるためだと言っていたライトが、すんなり自分の体を差し出すだろうか? ライトの傲慢な性格を考えるとそれはありえない。
だとすると、ライトの真の目的はなんだ? そこまで考えた俺の脳裏に閃光がはしる。
「まさか!」
俺がライトの真の目的に気づくより少しだけ早く、ライトの神聖剣、
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! この俺に背中を見せるなんて、あんたは馬と鹿の神様ですかぁ? アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
「あれだけの事をしてやった恩を忘れたのか! 誰のおかげでその力を手にできたと思っているんだ!」
ライトは耳に片手を当てる。
「え? なんだって? 聞こえましぇぇぇん! アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
邪神は完全に取り込まれる寸前まで、なにかを話していたがライトの狂気の笑い声が遮り、俺は邪神がなにを言っているか聞き取ることはできなかった。
「神聖剣、
暗黒神となったライトとの決戦が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます